日本で黒人として生きること―私たちの多様な声を届けたい

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ウォレン・スタニスロース 【Profile】セーラ・アラビ 【Profile】

米国発の「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命も大切だ)運動は世界的な広がりを見せ、日本にも波及した。自分たちの声に耳を傾けてほしいと願う彼らの思いは切実だ。日本在住の黒人たちの体験談を共有することで、「差別・迫害に怒る黒人」のイメージを超えた多様性が見えてくる。

米ミネソタ州で起きた白人警官によるジョージ・フロイド暴行死事件を引き金に、「ブラック・ライブズ・マター」抗議デモが世界各地に波及した。各国政府が新型コロナウイルス感染拡大防止のための「ステイホーム」を呼び掛けていたにもかかわらず、「人種差別」というウイルスの方がもっと危険で差し迫った問題だと考える大勢の人々が街に繰り出したのだ。抗議運動のうねりは日本にも押し寄せ、東京、大阪、京都などでデモ行進が開催された。人種、国籍を問わず多くの人々がこの運動への支持を表明し、黒人として生きるとはどういうことかを理解しようという機運がかつてなく高まっている。

20万人超が視聴する“J-Vlog”

ジャマイカ出身で東京在住のラロンゾ・ダクレス=通称「ランゾ」=は、2017年にYouTubeチャンネル「Black Experience Japan(BEJ)」を立ち上げた。「日本で暮らす黒人の多様な声を届けることで、世界で根強い黒人に対するステレオタイプや偏見を打ち破りたかった。僕たちの体験談を聞いてもらえる機会はあまりないので」とランゾは語る。「それに、さまざまなロールモデルを紹介することで、世界中の次世代を担う黒人の若者たちを力づけたいという僕自身の強い願いもあります」。BEJでは日本をはじめアジア各国で暮らす200人超の黒人たちへのざっくばらんなインタビューを発信してきた。ネット上にあふれる“J-Vlog”(日本に関する動画ブログ)の中で独自の存在感を発揮し、20万人以上のチャンネル登録者数を誇る。中には再生回数が200万回超のインタビュー動画もある。「BEJのフォロワーのうち、黒人の割合はごく一部にすぎない。あらゆる背景を持つ人たちが、このチャンネルを通して多様な黒人たちの体験を共有しています」とランゾは言う。

一般的なJ-Vlogは、自らの体験を語りながら日本の文化・社会・言語を紹介するというスタイルが多い。一方、BEJでの日本は、あくまでも特定の国、社会で黒人として生きるとはどういうことかを伝えるための舞台設定の1つにすぎない。だがランゾが本当に目指すのは、黒人だからこその体験を超えた、1人の人間のストーリーとして受け止められることだ。自分からは遠い存在だと思う相手に対しては誤った認識を抱きやすい。でも「背景の違う人たちが同じ時間を過ごし、率直でオープンな対話を重ねることでその溝を埋められれば、実は共通点の方が多いことに気付くこともあるのでは」とランゾは言う。「そういう意味でBEJは、黒人以外の人々にとって、僕たちとのコミュニケーションの懸け橋になっているし、黒人視聴者には良い刺激になっていると思う」

(© Serah Alabi)
(© Serah Alabi)

黒人も白人も「よそ者」扱い

ランゾがインタビューした日本在住の黒人がよく口にするのは、「日本では安心して生活できる」ということだ。母国で感じていた警察暴力への恐怖心や黒人差別、貧困にあえぐ隣人たちの状況などに触れて、日本ではこうした日常的な不安からの解放感を覚えると話す人が多い。また、自分の興味や才能、努力によって生活を築き、人生の可能性を広げるチャンスもあると感じているようだ。

もちろん、日本では黒人が特に目立つのは事実だ。白人の場合は、各種メディアや広告の中で、また教員や観光客として目にすることが多く、特に大都市では、白人は「なじみのある外国人」である。一方、黒人はまだ比較的珍しいため、好奇の目で見られたり、誤解の対象になりやすい。しかし同時に、日本人にとって黒人は見た目が日本人とは違う「ガイコクジン」という大きな枠の中でくくられているため、他の外国人たちと同等の立場にある。例えば、通勤ラッシュの電車内で黒人が座る席の隣が空いていても、日本人の乗客はなかなか座らないが、白人の隣でも同様なのだ。

日本にいる外国人は、みんな「よそ者扱い」されている。街には外国人専用のゲストハウスがあるし、大学には留学生寮がある。職場では(日本語以外の)共通言語で言葉が通じる気安さや、同じよそ者同士の立場から、外国人スタッフは親しくなれる。同じ少数派の「ガイコクジン」として連帯感が生まれやすいのだ。一方、それぞれの母国では人種や文化によって無意識に分断されてしまう。つまり、背景が全く異なる外国人同士が交流し、肌の色を超えた共通点を見いだす環境が生まれやすい日本社会では、黒人は日本人からは「ガイコクジンの1人」、他の外国人からは「自分と同じよそ者」として同等に扱われる。そのために、多くの黒人―特に欧米出身者―にとって、初めて「黒人」の枠ではなく「個人」として生きられる貴重な経験になるかもしれないのだ。

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ウォレン・スタニスロースWarren A. Stanislaus経歴・執筆一覧を見る

オックスフォード大学大学院歴史学部博士課程在籍。立教大学GLAP非常勤講師。専門分野は幕末・明治期日本の思想史。英国ロンドン出身。2011年国際基督教大学卒業。13年オックスフォード大学大学院(ニッサン現代日本研究所)で修士課程終了。東京のシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(AP Initiative)」の元研究員。

セーラ・アラビSerah Alabi経歴・執筆一覧を見る

ナイジェリア系ドイツ人ライター/写真家。東京在住。これまでいくつもの世界的ブランドと提携して作品を発表し、ファッション、人種、アフリカと日本の文化交流など多様なテーマの展覧会でキュレーターを務めた。文化学園大学修士。研究テーマは女性写真家の「まなざし」。

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