「3密」防いで漁師を応援、「ドライブスルー魚屋」東京・勝どきにオープン
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埠頭の倉庫前がドライブスルーに
都営地下鉄大江戸線勝どき駅前から清澄通りを豊海埠頭(ふとう)に向かって約600m。タワーマンションを左右に眺め、月島警察署を過ぎたところで、交差点に「豊洲直送」ののぼり旗が見えた。交通誘導員の案内で右折すると、冷蔵倉庫前が“ドライブスルー”になっていた。
「ホウスイ第3工場」前に車が横付けされると、フェイスガードにマスク姿のスタッフが窓越しに注文を聞き、代金を受け取る。そして別のスタッフが発泡スチロールの箱に入った商品をトランクに積み込む。所要時間は40秒ほど。車は次々とやってくるが、12人のスタッフが機敏に動き、一度に3台の応対ができる。さしずめ自動車レースのピット作業を見ているよう。3密を防ぐための早業だ。
車以外にも自転車や歩いてやって来る人もいる。「近所に住んでおり、家族で車を運転中にのぼりを見ました。おいしいトロをたくさん食べて、自粛疲れを吹き飛ばしたいです」と30代の主婦。50代の夫婦は「前日にインターネットのニュースで知り、予約してやって来ました。サバ缶のプレゼント付きがうれしいです」。利用客も皆、満足顔だ。
「スーパーに行くにも大勢の人との接触が不安、ネットの注文は割高……などの懸念を払拭(ふっしょく)してくれるのがドライブスルー。全国から集った脂ののった干物やマグロなどを、鮮度を落とさず冷凍して詰め合わせたお得な商品ばかりですよ」。車の波が引いたところで、作業の手を休めて「ドライブスルー魚屋」の企画者、かいせい物産社長の宮﨑成人さんが話してくれた。
市価より3割安く豊洲直送の魚を
かいせい物産は1998年創業の外食向け鮮魚の卸売会社。約3000の飲食店に卸しているが、今回のコロナ禍で飲食店の休業や時短営業が相次ぎ、大きな痛手を受けた。
「売り上げは9割減、東日本大震災の時の数倍の被害です。われわれだけではありません。供給側である漁師たちも、赤字続きになるため休漁を余儀なくされています。でも、このまま黙って自粛しているわけにはいきません。食材の廃棄ロスを少しでも防ぎ、漁師の方たちにも元気になってもらいたい、との思いからドライブスルー魚屋を始めました」
販売するのは、BIGシマホッケや伴助赤魚、甘塩吟鮭切身、ハタハタ丸干、サバ文化干し、アジ開きがセットになった「漁師応援干物セット」5000円(税込み)と、本マグロ中トロやインドマグロ中トロ、バチマグロ中トロ、バチマグロ赤身、ネギトロがセットになった「原価無視!中とろマグロセット」5000円(同、内容は入荷状況により変更の可能性あり)。
さらに、明太子やタラコなどの「魚卵セット」5000円(税込み)や、「漁師応援干物セット小」3000円(同)も取りそろえている。支払いは現金のみ。初日の9日はメールなどで計400セットの予約が入り、さらに当日販売用に100セットほどを用意した。
豊洲市場のほか宮城や静岡の加工工場から直接仕入れているので、スーパーで購入するより3割以上安いという。いずれの商品もセット販売のため、購入時間や接触時間の短縮につながり、消費者も安心して購入できる。
名古屋、大阪、千葉、富山でも
今後は、5月12、14、16日に営業(10時~17時)。当日売りも用意するが、売り切れ次第終了となるため、メールで事前予約するのがおすすめだ(予約専用メールアドレス: drive-through@kaiseibussan.co.jp、電話は0335336121)。
それ以降の日程は未定だが、「ほとんど告知なしで400セットの予約が入った。次は1000セットぐらいまで増えるかもしれない。近くのタワーマンションに住む方が、ベランダからのぼりを見てやって来たと話していました。この辺りはマンションも多いですから、口コミで広がってくれたらうれしいですね。自粛が解除されても、様子を見ながら週1回ペースでも営業を続けていくつもりです」と宮﨑さんは言う。
今回、宮﨑さんは「ドライブスルー魚屋」を成功させるため、外食向け野菜・果物の卸売会社で、一足先に4月から全国で「ドライブスルー八百屋」を展開中のフードサプライ(東京都大田区)に支援を仰いだ。
「商品が変わるだけで、ノウハウは一緒。われわれの経験から、会場の混雑を避けるため予約商品の受取時間を1時間刻みにするようアドバイスしました。コロナ終息後も客足はすぐには戻らないので、今は試行錯誤でも販売チャネルを増やさないと」と同社代表取締役の竹川敦史さんは話す。
宮﨑さんは、知り合いの卸売業者らに声を掛け、16日には名古屋市と千葉県柏市、19日には大阪府茨木市と富山県砺波市にもドライブスルー魚屋がオープンする。ドライブスルー八百屋同様、その輪は全国に広がっていきそうな勢いだ。
バナー写真:ドライブスルー魚屋の積み込み風景(筆者撮影)