新型コロナウイルス-パンデミックと米中関係

国際・海外

新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)は、国際関係にも大きなインパクトを与えた。両大国である米国と中国は共に傷を負いながら、対立はさらに深まっている。新しい世界秩序の姿は、米国の一国覇権から、米中のG2、あるいはG0へ向かうのだろうか。

非難応酬の米中

最後に コロナパンデミック後の米中関係につい見ておく。本来二つの超大国は協力-補完しあって世界的な困難に立ち向かうべきだが、双方は一段と不信感を募り批判の応酬に明け暮れている。とりわけ、(1)発生源をめぐって米国軍が持ち込んだとする中国外交官の説と、それに対する米国高官からの痛烈な反撃。続いて米国当局から、発生源を武漢ウイルス研究所でのコロナの漏えいであると発言し、中国当局は猛反発。さらに(2)WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長の中国に配慮した発言をトランプ大統領が批判し拠出金停止を宣言し、これに対してテドロス事務局長は米国政府に反論するなど、国際的な指導体制が全く混乱してしまったことである。欧米諸国の大混乱に加えて、アフリカ・中東におけるコロナパンデミックの進行を考えるなら、世界は極めて無秩序な方向に向かっている。米政治学者イアン・ブレマーは、ここ数年来るべき未来の国際社会を一国覇権でもG2でもないG0の時代と予言してきたが、現状ではまさにG0状況の出現と言うべきであろう。

こうした米中の対立は第二の点とも関連するが、世界のイニシアチブ争い、新しい秩序形成にも影を落としている。2008年12月、世界がリーマンショックに揺れ動いている最中、当時の党中央政治局常務委員李長春は「コミュニケーションの能力によって影響力が決まる。コミュニケーション能力の高い国の文化と価値観が世界を席巻し、その大きな影響力を発揮するのだ」と語っていた(『北京コンセンサス』[ステファン・ハルパー著、園田茂人、加茂具樹訳、2011年、岩波書店])。以後米中は相手への諜報工作、サイバー攻撃を含め熾烈(しれつ)な情報戦争を展開してきた。ハイテク超大国化を狙った「中国2025」計画を巡り、米国は強い警戒感もあらわにし、華為やテンセントに激しい攻撃を仕掛けた。そしてまた今回の新型コロナ騒動でも情報戦は激しく、昨年末には米側諜報部門は、コロナ問題でかなり深部に食い込んだ情報を得ていたと言われる(『朝日新聞』2020.4.12)。

これからの世界は経済低迷が一段と厳しくなっていくことは疑いない。それ故、今は各国ともこれまで以上に救いの手を欲していると思われるが、差し出す手がすなわち=中国では、より多くの国が躊躇(ちゅうちょ)するだろう。もっとも、ヨーロッパの経済再建で、中国拒否、米国傾斜とは言い切れない。日本でさえ、中国の影響力拡大への警戒心は高まっているが、経済再建を全面的な米国依存で進めることは不可能である。とりわけ今回の新型コロナ騒動で中国からの原材料、中間財の輸入がストップしてしまった。完成品輸出に重きを置く日本の製造業は中国抜きにして将来を考えることは不可能であろう。さらにはこれからの有望産業として期待されていた観光業も、中国からの来日がストップで大打撃を受けている。

次ページ: 過去と異なる未来像

この記事につけられたキーワード

中国 国際政治 米国 COVID-19 新型コロナウイルス

このシリーズの他の記事