試される日本の「移民」政策

新型コロナ感染拡大で外国人受け入れ政策は変わるか?

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新型コロナウイルス感染拡大の危機に直面し、日本における在留外国人を取り巻く状況が変化している。当てにしていた技能実習生が来日できなくなり、農繁期を迎える農業、水産業、運送業、介護事業などでは人材確保に苦慮している。政府は急きょ、技能実習生に対して特別措置として「転職」を認め「特定活動」の在留資格を最大1年間与える決定をした。皮肉にも、新型コロナ危機がこれまで批判を浴びてきた技能実習制度の見直しを促し、政府は受け入れ態勢を整えざるを得なくなっている。現状を日本国際交流センターの毛受敏浩氏が読み解く。

露呈した日本の対応能力・柔軟性(レジリエンス)の低さ

日本はこれまで何度も大きな自然災害や危機に見舞われても、乗り越えてきた。自然災害が多い国なので危機感が強く、備えも整っているはずだった。しかし、今回の新型コロナ感染拡大において政府の対応は後手に回り、従来型の対応方針にとどまり、先を見越したリーダーシップを取れないガバナンスの弱さを露呈した。

もう一つ、新型コロナの感染拡大によって明らかになった重要な事実がある。日本社会の対応能力・柔軟性(レジリエンス)の低さである。高齢化と人口減少が進む中で、人材不足に陥った日本社会の脆弱(ぜいじゃく)性が顕著になったのだ。

人材不足への対策として政府は2015年に「一億総活躍社会」を打ち出し、高齢者、女性の労働を推進した。その結果、女性、高齢者の就業率はすでに世界トップクラスになった。その半面、別の見方をすると、生産年齢人口のほとんどが働いているため、余裕やバックアップのない柔軟性の低い社会になったともいえる。

レジリエンスの低下には人口変動が大きく影響している。少子化と高齢化が進み、総人口が急減する一方、単身世帯は増加している。青年層の未婚化だけでなく、シングルマザーやシングルファーザー、さらに一人暮らしの高齢者の増加により、2018年の平均世帯人数は2.44人にまで減っている。とりわけ高齢者の一人暮らしは自然災害の発生時にもリスクが高いといえる。

高齢者世帯と単身世帯の増加という脆弱な社会を支える一端を担っているのが外国人材である。日本の人口減少が毎年、51万人に対して、在留外国人は約20万人のペースで増えており、すでに外国人は社会の土台を支える役割を果たしている。

転換を迫られる政府の対応

在留外国人は増え続け、2019年末には総人口の2%を超える293万人までになった。一方、移民政策をとらない方針を掲げる政府の下で、在留外国人に対するさまざまな支援は長い間なおざりにされてきた。

政府による在留外国人への日本語教育が行われてこなかったため、在留外国人の日本語能力は極めて低い傾向にある。それ故、新型コロナ感染拡大という非常事態ににもかかわらず、多くの外国人に情報が伝わらない状況が起きている。 

新型コロナの影響で失業する外国人の増加も問題だ。製造業、観光業、外食産業などは大きな打撃を受け、労働者は短縮労働や雇用打ち切りによる失業を余儀なくされつつある。

19年10月時点で、日本では留学生や技能実習生を含め166万人が働いている。その29.1%はサプライチェーン(供給網)の分断が影響する製造業で働き、12.5%は外出自粛の影響が大きい飲食・宿泊業で働いている。

役立つ情報と連絡先

新型コロナ関連に多言語で対応する専用の相談窓口を設けた全国一般東京ゼネラルユニオンには、外国人から電話や会員制交流サイト(SNS)などで連日100件近い相談があるという。休業手当が出ない、時給制のため収入が減ったといった相談が多く寄せられている。

政府も動き出した。厚生労働省は、外国人労働者が不当に解雇されないように、「外国⼈の皆さんへ(新型コロナウイルス感染症に関する情報)」として「やさしい日本語」を含め15言語(、中(簡)、中(繁)、韓(한국)、ポルトガル(Português)、スペイン(Espanol)、タガログ(Tagalog)、タイ(ภาษาไทย)、ベトナム(Tiếng Việt)、ネパール(नेपाली)、インドネシア(Bahasa Indonesia)、カンボジア(ភាសាខ្មែរ)、モンゴル(Монгол Улс)、ミャンマー(မြန်မာဘာသာ))で情報発信を始めた。「会社の経営が悪くなっても、外国⼈であることを理由として、外国⼈の労働者を、⽇本⼈より不利に扱うことは許されません」とメッセージをウェブサイト上で発信している。

政府は新型コロナ感染拡大に伴う経済政策の一環として国民に一律10万円を給付する決定をし、在留外国人も対象にした。さらに法務省は4月17日、実習などが困難になった技能実習生に対して異業種に変更できる特別措置を認め、「特定活動」の在留資格を最大1年間与える決定をした。あらかじめ決められた業種でしか活動できない技能実習生の収入の確保と、人材不足が深刻な産業分野に人材を供給することを目的にしている。皮肉にも、新型コロナ感染症拡大がこれまで批判を浴びてきた技能実習制度を見直すきっかけになった。

危機後の外国人受け入れ政策は?

今後、コロナウイルス感染症が終息したとしても、海外との自由な往来ができるまでにはさらに時間がかかるだろう。外国人観光客に依存していたアベノミクスにとっては大打撃、とりわけ地方経済にとっては大きな試練となる。外国人労働者の増加によって何とか維持されてきた分野の人材不足が深刻さを増す。

振り返れば、日本は外国人労働者を短期的で安価な労働力として受け入れてきた。しかし恒常的な人口減少の下では生活に密着する農林水産業、運送業、介護事業者、コンビニなどの人材不足が解消することは見込めない。

新型コロナの影響で、世界を自由に行き来できない状況が続く中、外国人労働者を使い捨てにしてきた従来型の受け入れ方は終焉(しゅうえん)を迎えるだろう。今後は貴重な人材として日本語教育をはじめ彼らの能力開発を後押しする態勢を整える必要がある。日本のレジリアンスの低下を食い止めるためには、外国人労働者が危機でも離日しないで日本を一緒に支える一員となるような受け入れ制度が求められる。

技能実習制度ではすでに介護分野で受け入れが始まっている。東日本大震災発生後、彼らが一斉に帰国した状況を思えば、現制度の危うさが分かる。法務省が「特別措置」を認めるなど、社会包摂の機運が高まりつつある今、技能実習制度を、昨年4月に新設された特定技能制度に統合し、日本への定住を前提とした受け入れへと変えていかなければならない。それが日本社会のレジリエンスを高めるきっかけになるのではないか。

バナー写真=キャベツの収穫と箱詰めをする外国人(中国人)労働者=群馬県の嬬恋高原、©アフロ

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