多様な顔を持ち始めた日本外交~米中対立下で進む“独自路線”

政治・外交

米中対立が続く中、日本の外交政策が変化を見せつつある。大枠としては米国と歩調を合わせつつも、これまでよりも独自の路線を追求し始めている。

米中対立の下で、日本の対外政策は一見すると矛盾するさまざまな顔を持っているようにも見える。首脳間の良好な関係をアピールして日米安保体制の重要性を唱えつつも、その米国が脅かしているとさえ言われるリベラルな経済秩序の主要な守護者として世界で振る舞う。またあるいは、中国に対するエンゲージ政策を事実上放棄したとも言われる米国とは異なり、中国への一定の「関与」を日本政府は続けている。一方、この東アジアでは、韓国に対して信頼関係の欠如を理由に「ホワイト国」待遇から除外するなど、「トランプ型」とも取れる外交も展開している。

この日本外交の多貌性をどのように理解すればいいのだろうか。実のところ、米中対立下で日本は大枠としては米国と歩調を合わせつつも、以前よりも独自の外交路線を追求し始めているのではないか、少なくとも結果的にそうなっているのではないか、と筆者は考える。だが、その対米共同歩調は、相応に首脳間の個人的な関係に依存している部分があり、またその独自性も米中関係が悪化しているという国際環境の結果である部分があるために、米国の大統領選挙や今後の米中関係の帰趨によっては、さらなる調整を迫られると筆者は考える。

少なからず相違点もある「強固な日米関係」

2019年9月に日米貿易交渉がようやく大枠合意にこぎ着けられそうな見通しとなった。だが、16年の大統領選以来、トランプ大統領の貿易面などをめぐる日本批判は継続していた。また、安全保障の面での負担問題もまた、トランプ氏の対日批判の重要な要素だった。しかし、悪化する米中関係を尻目に、日米関係は極めて強固だとの印象を内外に与えてきた。それはほとんどトランプ大統領と安倍晋三首相との間の個人的信頼関係、あるいはその印象に基づいているように思えるほど、首脳間の往来や演出が突出している。

政策面を見れば、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を日米ともに掲げつつ、実態としては米国が軍事安全保障を重視するのに対して、日本は経済を含めた「法の支配」など、包括的な秩序形成を想定しており、日米間にやや相違が見られる。対象とする地域も一致していないだろう。後述するように、このFOIPと一帯一路との関係性についても、日本の方が米国よりも柔軟だ。経済貿易秩序の面で見ると、環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)が発効し、また日欧EPAをも軌道に乗せた日本は、多角的でリベラルな貿易枠組みを重視し、WTO改革にも前向きな姿勢を見せる。

それに対して米国は決してそうではない。この他、ペルシャ湾問題など、さまざまな局面で日米には少なからず相違点が見られる。もちろん、従来から経済外交やアジア外交の面で、日本外交は米国に対して独自性を有していた。だが、ここにきてやはりグローバルな経済貿易秩序や地域的な秩序形成の面で、たとえ米国のTPP復帰を望んでいるとはいえ、米国と一致するわけではない姿勢を、反発を買わない範囲で比較的明確に打ち出している。

欧米と一線を画す対ロ政策

日本の対中、対ロ政策も米国とは異なる局面が増えている。ロシアについては多くを述べないが、ウクライナ問題やサイバー攻撃などを原因として米国や欧州での対ロシア警戒が強い中で、日本の安倍首相は極めて頻繁にプーチン大統領と首脳会談を繰り返した。無論、領土問題のためだという説明はあり得るが、実態としては日ロ間で経済協力などを推進しており、明らかに欧米とはコントラストをなしている。

中国政策についても、米国が事実上対中関与政策を放棄する中で、日本は中国の一帯一路構想に一定の歩み寄りを見せている。実際には進展しているとは言い難いが、52にのぼる第三国協力案件を進めようとした点で、米国とは大きく異なっている。5Gをめぐる問題でも米国と共同歩調をとっているわけではない。関税政策は無論、日米で異なる政策を採用している。日中間では、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)にせよ、日中韓FTAにせよ、関税を引き下げ、メガFTA圏を形成していく方向性に変更はない。これは、相互に関税を高め合っている米中とは大きく異なる。

安全保障面でも日米が完全に一致しているとは言い難い。対北朝鮮政策では、金正恩政権との首脳会談を進める米国の方が柔軟である。日本も首脳会談に向けてのハードルを下げてきているが、それでも半島の非核化などの原則で日米は一致しているものの、具体的な言動では日本の方が硬い。また、地政学的な論点をはらむ「自由で開かれたインド太平洋」においても、前述の通り、日米の歩調は必ずしも一致しない。米国が軍事安全保障面を強調するのに対し、日本は経済・貿易などを含む包括的な枠組み、また「法の支配」などの秩序形成を行う枠組みとして位置付けている。

米中対立の影響受ける「日中」

だが、このように日米間に多くの相違点が見られるようになっているからと言って、日中が接近している、というのでもない。首脳交流が以前よりも頻繁に行われてはいるものの、東シナ海での中国の海警の活動は一層活発になり、また解放軍の動きも従来と同じ、あるいはそれ以上だ。つまり、軍事安全保障面での緊張は依然継続している。しかし、米国との厳しい関係を処理せねばならない中国からすれば、世界第3位の経済大国である日本との関係を悪化させたくはないし、軍事安全保障面でも東アジアで中国への警戒が過度に強まり、日米が一致して対中強硬になることも防ぎたいであろう。そのため短期的には日本との関係改善の演出をしている。それに対し、日本側としても対米関係で難しいかじ取りを求められる中で、あえて対中関係を「こじらせる」必要もない。

また、東アジアの地域秩序の面でも、RCEPや日中韓FTAを推進し、自国の国益のために高関税をかける政策が広がらないようにする点では日中の利害は基本的に一致している。また日韓関係に問題が発生しても、それが長期的には中国に有利ではあるものの、韓国の文在寅政権が中国との関係を「等閑視」していることもあって、特に日中関係に直ちに影響を及ぼすものでもない。こうした意味では、米中対立だけでなく、他のファクターを見ても日中間に関係改善を演出するだけの一定の要素があるとも言える。

ただ、だからと言って、日中が軍事安全保障面での矛盾も乗り越えて「蜜月」になるのかと言われれば、それも当面はありえない。

問われるバランス感覚

米国でトランプ政権が誕生し、従来とは異なる対外政策を採用し、また中国との対立姿勢を明確にし、他方で東アジアでは各国の対中経済依存もあることから米中対立を懸念する雰囲気が広がりつつ、同時に中国の軍事的な拡大や、新たな中国的な価値観を基礎にした秩序拡大への警戒感が強まっている。そのために、強固な対米関係を持ち、他の東アジア諸国と同様に中国と深い経済関係を持ちながらも、中国に一定程度「対抗」ができる日本は、従来以上に難しい方程式を解きながら対外政策を考えねばならなくなっている。無論、国内政治も重要なファクターだ。

日本は米国とは大きな枠組みを共有し、また緊密な首脳間関係を前面に出しながら、個々の案件では独自性を発揮する。対中関係では軍事安全保障面での「敵対」を大前提にしつつも、二国間関係の関係改善ムードを醸しだし、実際には案件ごとに是々非々で対応して、決して中国のプロジェクトを丸々受け入れたりはしない。そして、グローバルな外交ではリベラルな経済貿易秩序や法の支配の擁護者として振る舞い、アジア内部では中国とも協調し、またアメリカ・ファーストを唱える米国との分岐は避けている。

このようなバランス政策は、同じく米国の同盟国でありながら、過度の米中対立は望まず、他方でリベラルな経済秩序を維持したい国々、例えばドイツやオーストラリアなどの対外政策とも少なからず重なりを持つ。だが、それぞれの国の個々の案件への対応は多様だ。米中それぞれの国内、対外政策も「変数」であり、常に変化する。あるいは、中国よりも米国の方が変数が多いとも言える。日本をはじめ多くの先進国は、米中に対する大原則を持ちつつも、情勢を見極めつつ個々の案件ごとに対応するようになった。これがその対外政策の多貌性の背景にあるのであろう。

これを秩序移行期への対応と見るのか、政策が見極めきれないトランプ政権への対応と見るのかについては、もう少し長期的な分析が必要だろう。ただ、それによっては、この多貌性の中にある日本の対外政策の独自性が、長期的には新たな展開を見せていく可能性があることを念頭におく必要があるだろう。

バナー写真:第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の開幕に合わせ、記念写真に納まる安倍晋三首相(前列右から3人目)とアフリカ各国首脳ら=2019年8月28日、横浜市西区(時事)

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