デジタル経済にどう課税するか、24兆円も負担回避するGAFA

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GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表される巨大IT企業は、ユニークなビジネスモデルを展開することで世界経済を席巻する一方、その巨額の利益を税率の低い国やタックスヘイブンに留保し、利益を上げている消費者のいる国には十分な税負担をしていないと指摘されてきた。経済協力開発機構(OECD)の試算によると、世界の法人税収の4-10%に相当する1000億-2400億ドル(1ドル=100円換算で10兆-24兆円)にも上る税負担が回避されているという。

そのような事態が生じた主な原因は、2つある。

まず、これまでは、消費国で大規模にビジネスを行う場合、消費国に支店を設置したり工場を建てたりするなど、「恒久的施設(PE)」と呼ばれる物理的なプレゼンスを設ける必要があった。しかしデジタル経済の発達により、消費国にそのような施設を設けなくても、大規模にビジネスができるようになった。

広告や集客などは、インターネット上のプラットフォームを通じて国境を越えてサービスを提供することが可能になった。消費者も、ビートルズの音楽を楽しむ際、レコードやCDを購入しなくても、ダウンロードサービスで楽しむことが一般的になった。この結果、消費国はサービスを提供する事業者に法人税を課す根拠(PE)を失い、税収が入らなくなったのである。

次に、デジタル経済の下では、企業の価値創造における無形資産の重要性が高まり、それを低税率国やタックスヘイブンに移転させることで、租税を回避することが容易になった。GAFAは、自ら集めたビッグデータをもとに、アルゴリズムと人工知能(AI)を活用しビジネスモデルを無形資産化している。無形資産は有形資産と異なり、契約一つで容易に国境を越えて子会社などに移転させることが可能である。

消費国の悩み

こうした事態が引き起こす問題点はまず、先進諸国や新興国(さらには途上国も)の税収不足である。各国は、高齢化に伴う社会保障費の増大など慢性的な財政赤字に悩まされており、税収の確保は最重要課題となっている。

またデジタルビジネスの税負担は、自国の伝統的(競合)ビジネスと比べて税負担が軽くなるので、対等な競争条件(レベルプレイングフィールド)が損なわれているという問題を生じさせている。欧州委員会は、デジタルビジネス企業の税負担率が9.5%で、伝統的ビジネスの23.2%の半分以下という調査結果を公表している。欧米で、アマゾン効果により大手デパートや小売店の閉鎖が相次いでいることがそれを証明している。

この2つの問題は、経済のデジタル化に税制が対応しきれていないということを物語っている。そこで20カ国・地域首脳会議(G20)がリーダーシップを発揮し、多国籍IT企業の国際的な租税回避を防ぐ方途を探ることとなった。具体案づくりをOECDに依頼、BEPS(税源侵食・利益移転)プロジェクトが立ち上がり、現在129カ国・地域が参加して、2020年の最終報告書公表に向けて作業が進んでいる。この夏に大阪で開催されたG20では、最終報告書に向けた作業計画が合意されるなど大きな進展を見せた。また今回のサミットでも改めてコミットが行われた。

消費国への課税権配分

国境を越えるデジタル取引で定期的な収入を得るなど、消費国と継続的な関係を構築している場合には、消費国に課税権を認める点についてはコンセンサスが得られつつある。課題は、どの程度課税権を認め、どういうルールを作るのかという点である。つまり、消費国と生産国との間で多国籍IT企業の巨大な利益をどう配分するかという具体的なルール作りである。

グーグルを例にとると、われわれユーザーから無料検索というサービスでさまざまな情報を入手し、それを分析してターゲッティング広告というビジネスモデルを作り上げ、企業から広告収入を得ている。企業からの広告収入は、軽税率国に作ったグーグルの子会社に支払われる形にすれば、ユーザーの住む消費国には売り上げや利益が計上されず税収は入らない。これをどうやって消費国が課税できるようにするのか。

現在、英国・米国・インドから3案が出ている。英国案は、デジタルビジネスではユーザー自身がビジネスの価値創造に参加しており、その分は消費国に税を配分すべきだという考え方。米国案は、多国籍IT企業が消費国で生み出しているブランド価値から生じる利益は消費国に配分すべきという考え方。インド案は、途上国でも執行が可能な簡素な方式での利益配分を主張している。英国案では、ユーザーのビッグデータを活用しデジタル広告やマーケットプレースの提供で利益を上げる企業がターゲットとなり、米国案では、ブランドなど無形資産を主要な収入源とする企業がターゲットだ。

いずれの案でも、これまではタックスヘイブン国で計上され、グローバルな税収には結びつかなかった多国籍企業の利益を消費国に再配分することとなるため、先進国・新興国・途上国にとっておおむね税収が増えるという算段がある。

独自課税でプレッシャーをかける欧州

一方で欧州各国は、このようなOECDの議論を促進するため、各国独自でデジタル取引に対する売上税(デジタルサービス税)を導入し始めている。

フランスは、一定規模以上の売り上げのあるプラットフォームサービスやオンライン広告に、売り上げの3%を課す税制をすでに執行している。英国も2020年4月から、プラットフォームサービスや検索サービス、広告などの売り上げに2%の税率で課税する税を導入する予定だ。ただし、それ以前にOECDで国際合意ができた場合には適用しないこと、引き続きOECDなどの国際的な議論には参加していくことも表明している。

売上税としたのは、直接税のように相手国との合意が必要な租税条約に縛られずに、独自に(自国だけで)導入できるためである。しかし売上税は、企業にとって、二重課税や赤字課税となるので、経済非効率の問題が生じる。また自国企業も負担することになるので、GAFAとの競争上の不公平は是正されないという問題もある。フランスの税制に対しては、米トランプ政権が反発、米通商代表部(USTR)は中国への制裁関税発動に使った「通商法301条」の発動の調査を進めると対抗姿勢を示している。

法人税(直接税)と売上税(間接税)のメリットとデメリット

法人税(OECDで議論されている新たな課税権) 間接税(デジタルサービス税などの独自課税)
骨子 新たなネクサスを定義し帰属する所得を計算 デジタルサービスの売上に課税
納税義務者 デジタルサービスを提供する事業者に限定しない可能性もある デジタルサービスを提供する事業者(但し、一定額以上の売上がある大手事業者に限定)
課税対象 法人の利益。具体的な利益の配分方法について複数の提案がなされている オンライン広告の売上、プラットフォーム提供の手数料売上など
留意点 導入にあたり、既存の租税条約の改定が必要

居住地国で外国税額控除の対象になり得る
導入にあたり、租税条約の改定は不要。WTO等の義務(内外無差別)に従い、国内事業者も同様に扱う必要がある

居住地国で外国税額控除の対象にならない。但し損金算入は可。

日本の立場

各国がばらばらな税を導入すれば、二重課税・赤字課税という問題だけでなく、これまで積み上げてきた国際的な協調行動が台無しになる。世界が分断されつつある今日、数少ない協調分野は税の世界であり、この崩壊は何としても避ける必要がある。

一方、日本にとっての利害もある。それは、課税見直しの対象が、GAFAなど高度にデジタル化された企業だけでなく、伝統的なビジネスにどこまで及ぶのかという点である。日本には、GAFAに次ぐプラットフォーム企業や、自動運転やIoTなどデータを活用してグローバルなビジネス展開を考えている企業が存在するので、それを考慮する必要がある。経済活動の隅々にまでデジタル化が普及しつつある中で、デジタル経済を切り分けることは容易ではない。

日本としては、米・欧・新興国の間での合意形成を目指す役割を果たすことを念頭に置いて、自動運転やIoT産業の未来図を描きながら、これらの産業への課税の波及を抑えつつ、米国IT企業の租税回避には厳しく対応するという、細い道を進んでいくことが重要だ。

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