2019年参院選が示すもの:国政選挙6連勝の影にある安倍政権の課題

政治・外交

竹中 治堅 【Profile】

参院選の結果をどう見るか。筆者は、れいわ新選組の国政登場に注目し、「安倍政権が今後も世論の支持を確保するためには、経済状況の改善にさらに取り組む姿勢を見せることが肝要だ」と指摘する。

政権に唯一対抗した「れいわ」

6年前の参議院議員選挙で初当選した山本太郎氏が今年4月に旗揚げしたのが、れいわ新選組である。今回228万票を集め、2議席を獲得、政党助成法上の政党として認められることになった。山本氏自身は比例区で出馬、個人名で99万票を獲得した。しかしながら、特定枠で重度の障害を持つ候補者を2人出馬させたため、自身は落選した。

注目するのには二つの理由がある。まず、同党が過激な分配、国民負担軽減策を掲げたことである。例えば、消費税廃止、一人当たり月3万円給付、一次産業従事者への戸別補償、最低賃金の1500円への引き上げなどを訴えた。れいわ新選組はポピュリスト政党である。ケンブリッジ辞書によればポピュリズムとは「一般市民が望むものを授けることで支持を得ようとする政治的運動、あるいは政治的考え」とあり、この定義を満たしている。

二つ目の理由は結成後、わずか3カ月余りの間に急速に支持を拡大したこと。得票率でみると、れいわ新選組は4.55%の票を集めた。山本太郎氏の得票数は2001年に非拘束名簿式が導入されてから個人では最大のものである。

第25回参議院選挙で当選確実となり、インタビューに答える「れいわ新選組」の舩後靖彦氏(左)と山本太郎代表=2019年7月21日、東京都千代田区(時事)
第25回参議院選挙で当選確実となり、インタビューに答える「れいわ新選組」の舩後靖彦氏(左)と山本太郎代表=2019年7月21日、東京都千代田区(時事)

れいわ新選組は、なぜ短期間で支持を伸ばすことができたのか。二つ理由がある。その現状批判には一定の妥当性があったからである。デフレが20年間続いたこと、生活が苦しいと感じる人が調査世帯の過半数を超えていること、過去の政権が所得税の累進制を緩和したことなどへの批判を有権者の一部が首肯したとしても不思議ではない。

もう一つは立憲民主党も国民民主党も離合集散に政治的エネルギーを費消してしまい、安倍政権に挑戦する政策を打ち出せなかったことである。野党のうち安倍政権に対抗する政策を掲げたのが唯一れいわ新選組だったと言ってもいい。

れいわ新選組は次期総選挙にも意欲を示す。野党が現状のまま選挙を迎えると相当程度の反自民票をれいわ新選組に奪われるであろう。特に立憲民主党と国民民主党は急速な対応が必要であろう。再結集も対応策の一つとして検討すべきである。

主要な国内政策はほぼ完了へ

れいわ新選組の登場は、今後の安倍政権の課題にも重要な示唆を与える。

第2次安倍政権を国内政策の決定過程から見ると、二つの期間に分けることができる。第1期は政権発足(2012年12月)から15年秋までの時期。この間、安倍首相は三本の矢を掲げ、日本銀行に金融緩和を促す一方で、経済成長につながる「成長戦略」に取り組んだ。法人税減税、コーポレートガバナンス改革、電力自由化が代表例である。

第2期は15年秋以降から現在までである。この時期に安倍首相は労働政策と分配政策に取り組んできた。「働き方改革」による残業時間への規制、「人づくり革命」による就学前教育の無償化、低所得者層への高等教育無償化などがそうした政策の柱である。第2期の主要政策は19年10月の消費税増税と就学前教育無償化でほぼ完了する。

首相にとっての課題は今秋以降、どのような国内政策を掲げるのかということである。首相は昨年秋に総裁3選を果たしたあと、3期目の課題として社会保障改革に取り組む意欲を示してきた。

首相は参議院議員選挙後の記者会見で改めて少子高齢化対策、社会保障改革に注力する考えを示した。

これまで首相は8月、あるいは9月に新規の重要政策を打ち出すことが多かった。今年も社会保障改革を内政の主要政策として打ち出す可能性がある。その内容はどのようなものになるであろうか。これまで首相が繰り返してきたのは働きたい高齢者に就労機会を提供することである。安倍内閣は、20年の通常国会に高齢者雇用安定法改正案を提出し、企業に被用者の70歳までの雇用延長を努力義務化する予定である。

ただ、「成長戦略」「働き方改革」「人づくり革命」に比べ、直ちに見える形で社会のあり方を変えるわけではない。70歳までの雇用延長は努力義務に過ぎないからである。急速に進む少子高齢化に対応するためにはより踏み込んだ改革が必要なのではないか。

さらなる経済の底上げ必要

首相は憲法改正の実現に注力するつもりなのかもしれない。ただ、参議院では改憲勢力は必要な議席を確保できていない。また、改憲勢力の間にも多様な意見がある。従って、改憲の議論を進めるためには膨大な政治的エネルギーを投下しなくてはならない上、成功の保証はない。

やはり重要なのは首相も強調したように経済である。管見では、日本の成長を促すにせよ、雇用期間を長期化させるにせよ、必要なのは人的資源への投資である。文系理系分離を前提とする現在の高等教育の見直し、学び直しの制度化などは高齢者雇用の拡大にも産業の高度化にも貢献し、社会保障改革にも経済活性化にもつながると考えられる。この具体的方策を議論することを今後の国内政策の柱として据えるのであれば、一定の政権浮揚力を確保できるであろう。

1995年の総務庁の調査では2人以上の勤労者世帯の一月の平均可処分所得は48万2174円だった。2018年の同じ調査ではこの数字は45万5125円と低下している。また、1995年の厚生省の調査では調査対象世帯の51.8%が生活は普通であると回答し、42.0%が苦しいと答えた。 2018年の調査ではこれが逆転し、苦しいと考えている世帯が57.7% 普通と応じた世帯が38.1%である。れいわ新選組に対する支持の背景にはこうした社会状況の変化、さらには社会の一部におりのように溜まった不満があることは間違いない。

安倍政権になってから状況は改善していることは確かである。総務省の調査では12年の2人以上の勤労者世帯の一月の平均可処分所得は42万5005円であった。また、厚生労働省の12年の調査では、生活が苦しいという回答が60.4%、普通が35.8%であった。ただ、状況を改善するためにはさらなる経済の底上げが必要である。

国政6連勝は今後の政権の安定を保証するものではない。安倍政権が今後も世論の支持を確保するためには、経済状況の改善にさらに取り組む姿勢を見せることが肝要である。

バナー写真:第25回参議院選挙の開票速報場で、当選者の名前に花をつける安倍晋三首相(自民党総裁)=2019年7月21日、東京・永田町の同党本部(時事)

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竹中 治堅TAKENAKA Harukata経歴・執筆一覧を見る

nippon.com 編集企画委員長。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。

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