「初夏のサンマ」に疑問の声も:不漁続きで早取りが解禁

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川本 大吾 【Profile】

秋の味覚として親しまれてきたサンマだが、それも昔話になりつつある。2019年から漁期の制限が撤廃となり、5月末から市場に出回るようになった。漁港や魚市場では「なぜ初夏からサンマを取らなければいけないのか」といった声も上がっている。

秋の味覚は昔話に

サンマの生産者団体によると、公海の早取りサンマは東北のはるか沖合、東経160度付近の海域で操業を行っていたという。日本船のほか、中国や台湾漁船も同じ海域でサンマを漁獲していることが確認されている。

外国船に負けじとサンマを早取りすれば、「大事な旬の秋に日本船が取るはずのサンマが減ってしまうのではないか」(流通関係者)と心配する向きもある。これに対し水産庁は「初夏に公海で発生するサンマの群れは、必ずしも日本沿岸にやってくるわけではない」と説明する。サンマの早取りは、秋の味覚に大きな影響を与えるものではないというのだ。

サンマ資源に黄信号がともっていることで、7月中旬に行われた国際会議「北太平洋漁業委員会(NPFC)」では日本など加盟8カ国・地域に55.6万トンの総漁獲枠を導入することで合意。サンマがついに国際管理の対象種となった。ただ国・地域別の配分は来年決めることや、総枠がここ数年の実績よりも多く設定されているなど残された課題は多い。

研究者は水温の上昇など、不漁には海洋環境の変化が関わっているとの見方を示している。かつてのような豊漁は期待できないという見方が多く、秋においしいサンマが安く食べられるというのは、昔の話になってしまうかもしれない。

中国をはじめ世界的な水産物需要の伸びが顕著な半面、日本の魚消費は減り続けている。輸入の冷凍魚や養殖物の普及で、魚の季節感も失われつつある今、サンマの不漁は効果的な資源管理策だけでなく、日本人の食生活も見つめ直す機会になるのではないだろうか。

(バナー写真:東京の秋の人気イベント「目黒のさんま祭り」 時事)

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時事通信社水産部長。1967年東京生まれ。専修大学を卒業後、91年時事通信社に入社。水産部で築地市場、豊洲市場の取引を25年にわたり取材。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社、2010年)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文藝春秋、2023年12月)。

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