「初夏のサンマ」に疑問の声も:不漁続きで早取りが解禁

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川本 大吾 【Profile】

秋の味覚として親しまれてきたサンマだが、それも昔話になりつつある。2019年から漁期の制限が撤廃となり、5月末から市場に出回るようになった。漁港や魚市場では「なぜ初夏からサンマを取らなければいけないのか」といった声も上がっている。

際立った「入梅イワシ」との差

初物の卸値は1匹当たり40~200円で、昨年の初荷と比べても3分の1以下の安値。ベテランの仲卸は「こっちの方がよっぽどいいよ」と北海道産のイワシを薦めていた。サンマと対照的に「入梅イワシ」と呼ばれるほど、この時期イワシは脂が乗っておいしくなる。魚体も大きいもので170~180グラム。「丸々太っていて鮮度もいい」とベテラン仲卸は太鼓判を押した。

築地市場時代から人気の豊洲市場内のすし店でも「梅雨時のイワシは脂が乗っていいのは分かっているが、今年は特に質が良い魚が続いているから、コンスタントに仕入れて握り用などに使っている」(龍寿司)とイワシ人気は上々だ。

一方、人気は振るわないが、6月以降も根室や岩手県の大船渡港などに数回水揚げされたサンマは、次第に少しずつ大きくなってきたものの、ほっそりした感じは否めない。

サンマと対照的に鮮度・脂の乗りが良いと人気だった「入梅イワシ」 写真:筆者提供
サンマと対照的に鮮度・脂の乗りが良いと人気だった「入梅イワシ」 写真:筆者提供

サンマ敬遠しギンサケでにぎわう女川

宮城県の女川港では、早取りしたサンマを扱っていない。事前にサンマの漁業者団体から入港・水揚げに関する受け入れの可否を問われた際、「脂の乗り、鮮度の2点で良くないことが想定されたため、結論は『ノー』だった」と漁港関係者。せっかく早取りしても、水揚げ港は限られていた。

女川港の関係者は「魚の水揚げは多いに越したことはないが、サンマはやはり盆を過ぎてから。6、7月は養殖のギンサケが稼ぎ頭」と話す。同港ではこの時期、連日100トンほどのギンサケが水揚げされ、漁港をにぎわしていた。

根室、大船渡と並んで全国有数のサンマの水揚げ量を誇る女川港で、大型漁船から水揚げされる旬のサンマ(2012年11月撮影) 時事
根室、大船渡と並んで全国有数のサンマの水揚げ量を誇る女川港で、大型漁船から水揚げされる旬のサンマ(時事、2012年11月撮影)

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川本 大吾KAWAMOTO Daigo経歴・執筆一覧を見る

時事通信社水産部長。1967年東京生まれ。専修大学を卒業後、91年時事通信社に入社。水産部で築地市場、豊洲市場の取引を25年にわたり取材。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社、2010年)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文藝春秋、2023年12月)。

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