相次ぐ高齢ドライバー事故:交通行政と福祉行政の連携を

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高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が多発している。こうした事態は、「自動車優先主義」と「超高齢社会」とが出会うことにより、起こるべくして起こった。

留意すべき運転断念後の生活支援

日本では、高齢ドライバーに対して、1998年から「高齢者講習」が運転免許更新時に義務付けられている。70歳以上の免許更新希望者全員に本格的な特別講習を課している国は極めて珍しい。講習目的は、加齢に伴う身体機能低下の自覚を促すことである。2009年以降、75歳以上については認知機能検査(アルツハイマー型認知症のスクリーニング検査)が加えられ、検査結果次第で更新不可の可能性もあり、17年以降、その基準が強化された。

茨城県水戸市内で行われた「高齢者講習」での認知機能検査の様子(筆者撮影)
茨城県水戸市内で行われた「高齢者講習」での認知機能検査の様子(筆者撮影)

しかし、検査合格でも事故を起こすドライバーが続出し、検査の妥当性を疑問視する声が根強い。さらに、高齢ドライバーが激増している現在、講習システムそのものが機能不全になりつつある。行政の試行錯誤は続き、自動ブレーキ搭載車両のみ運転可能な高齢者専用免許案も政府関係者から出されている。

現行の高齢者講習ならびに認知機能検査が実効性を発揮しているとは言い難いため、高齢ドライバーを取りまく家族や地域社会が、運転免許の自主返納を促すさまざまな努力を行っている。返納者数は確実に増えているが、現時点での返納者の属性は、都市部居住者や地方でも車以外に代替移動手段をもつ人に限られている。

地域社会で暮らす高齢者に配慮した注目すべき対策が、15年から熊本県で行われている。免許更新現場に女性看護師を配置し、運転免許の自主返納を促すと同時に、運転断念後の生活支援を行うという試みである。

相談を受ける看護師は、地元在住のベテラン看護師であるため、運転に不安を持つドライバー自身や家族からの信頼が厚い。医療専門知識を持ち、人生経験も豊かである彼女たちは、まさにその任に就く最適任者である。運転断念の方向へ傾いた場合には、地域事情にも精通しているため、運転断念後の生活(移動手段や生きがい)について地域に密着しながら共に考えることが可能であり、大いに成果を上げている。

高齢者皆免許時代に近づきつつある今、高齢ドライバー問題は単なる運転の問題ではなく、地方社会で暮らす高齢者の生活支援の問題になってきている。まさに「交通は社会の縮図」であり、交通行政と福祉行政の連携が不可欠である。多職種連携と地域連携をより強めて、この問題に当たっていかなければならない。

バナー写真=2019年4月19日、東京都豊島区東池袋で高齢男性が運転する乗用車が暴走し、歩行者や自転車をはね親子2人が死亡した交通事故で、現場に残された自転車と事故車両(時事)

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