平成のポップカルチャー:昭和へのロング・グッドバイ
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昭和に終わりを告げる30年
1989年1月、64年間にわたった昭和が終わり、平成(1989–2019)が幕を開けた。「平成」は、平和を意味する「平」と、「~になる」という意味の「成」という漢字を組み合わせた言葉で、前の時代を象徴するあらゆるものから脱却するという暗黙の願いが込められていた。昭和は、太平洋戦争、真珠湾攻撃、2度の原爆投下、敗戦後の困窮など、数々の苦難に見舞われた一方で、バブル景気に沸き、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされた時代でもあった。
平成になると、一夜にして穏やかな空気が流れ始めたように感じられた。とはいえ振り返ってみると、厳しい社会変化が起きた時代だった。一方の肩には20年に及ぶ不況が、もう一方の肩には社会の少子高齢化とひきこもりなどの孤独化が重くのしかかった30年だった。昭和が「大言壮語の時代」だったのに対し、平成は「小型化と合理化の時代」だと言える。ポップアイドルさえも小型化し、等身大の親しみやすさが魅力のジャニーズ事務所の少年たちや、細身でキュートなAKB48の前田敦子など、アイドルがかつてよりも身近な存在になっている。また「平成の歌姫」と呼ばれたスレンダーで可憐(かれん)な安室奈美恵は、2018年9月に25年間の輝かしいキャリアの幕を閉じた。
「仕事」にも生きがいを求める女性たち
平成の大半は、昭和の「負の遺産」を改善、時には取り除くことに多大なエネルギーを費やした。例えば、公衆トイレは「しゃがむタイプ」の和式便座が一般的だったが、今やそのほとんどが世界に名高い日本製「ハイテクトイレ」に取って代わられた。興味を持ったバラク・オバマ前米大統領が、数台をホワイトハウスに設置したともうわさされている。
また思春期の女子高生を象徴する定番の「セーラー服」に代わり、最近人気があるのはより知的に見える昔の「ブレザータイプ」の制服。ガールズ・カルチャー時代を生み出した。しかし一方では、女子学生を商業的に食い物にして搾取するJK(女子高生)ビジネスや “何でもあり” の現象も起きた。
平成は、恋愛はお金の大切さと比べると取るに足らないものかもしれない、と多くの女性が気付きはじめた時代でもある。経済力がないために家事に明け暮れ、単調で退屈な結婚生活に縛られてきた昭和の母親のようにはなりたくないと考える人が増えた。昭和後期のトレンディードラマでは、愛と結婚が女性の幸せの二大要素だったが、平成のテレビドラマでは、恋愛だけではなく、仕事にも生きがいを見いだす女性たちを描いている。
スタジオジブリと宮崎駿監督が制作したアニメ作品によく登場する少女たちは、こうした平成の活発な女性たちのイメージを投影している。自立心旺盛で、偽善を嫌い、真実を追い求め、試練に直面しても逃げることなく立ち向かう。
村上春樹から『ワンピース』まで
平成カルチャーを代表する人物は他にも大勢いる。その1人が小説家の村上春樹で、毎年ノーベル文学賞候補に挙げられながら、いまだに受賞には至っていない。お笑いタレントの又吉直樹は、初の中編小説『火花』で芥川賞を受賞し、同作品はネットフリックスでドラマ化された。漫才師としてスタートした北野武は、メディア界の大物になり、バイク事故から復活した後、国際的評価の高い映画監督になった。1997年には『HANA-BI』がヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞。その後も多彩な顔を見せながら、独自の地位を確立している。
小津安二郎と黒澤明に代わる映画監督として国際映画祭の常連になっているのが、是枝裕和と河瀬直美だ。是枝監督の『誰も知らない』で主役を演じた柳楽優弥は、2004年に史上最年少の13歳でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞し、同監督の『万引き家族』は、18年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。
マンガやアニメの世界では、『名探偵コナン』や、モンキー・D・ルフィが主人公の『ワンピース』などの人気マンガがアニメ化されて、テレビシリーズや映画でも大活躍した。『ワンピース』は単一作品の最多発行部数でギネス世界記録に認定され、19年3月時点で世界累計発行部数が4億5000万部を超えている。また、昨年上映された劇場版シリーズ22作目となる『名探偵コナン ゼロの執行人』は、興行収入が92億円を突破し、7歳の少年探偵の絶大な人気が証明された。
恋愛よりもゲームにのめりこむ「平成男子」たち
平成男子について語るときに忘れてはならないのは、ビデオゲームへの深い愛着だ。平成になったばかりの1989年4月に発売された任天堂の「ゲームボーイ」は、それまでのゲームシリーズの中でも群を抜く人気で、それをしのぐ人気を博したのは後継機の「ニンテンドーDS」だった。しかしこの花形コンビでさえ太刀打ちできなかったのがソニーの「プレイステーション」シリーズ。94年に発売された初代モデルは1億台以上を売り上げ、ゲーマーたちが引き続き購入したプレイステーション2は1億5000万台の売り上げを達成し、その記録を破った。
ビデオゲームは、いろいろな意味で平成男子の人格形成に影響を与えた。彼らの興味の対象は画面の中の世界で、直接的に人と触れ合うことへの関心が極めて低くなった。平成になって出生率が急落したのも当然で、特に男性の未婚率が圧倒的に高い。2035年には日本人の半数が未婚になると予想されているが、「テトリス」や「ポケモン」、「マリオ」「ストリートファイター」シリーズなど自宅で楽しめるゲームのおかげで、たとえ一人でも孤独を感じることはないだろう。
秋元康が仕掛けたアイドルの時代
「メディアの仕掛け人」と呼ばれる秋元康も平成男子に大きな影響を与えている。昭和の時代に社会現象を巻き起こした女性アイドルグループ「おニャン子クラブ」を結成した人物だ。時代の先を読み、女子学生に大きな市場ポテンシャルがあることに気付いた秋元は、1985年に夕方の番組を制作し、同番組に出演する14歳から19歳の少女をメンバーとする「クラブ」を結成した。
2005年になると、秋元は「会いに行けるアイドル」がモットーのアイドルグループAKB48を結成した。AKBの活動拠点となるAKB48劇場を秋葉原に開設した秋元は、ステージのセンターポジションをメンバーたちに競わせている。それまでとの大きな違いはファンとの距離で、ショーが終わるとファンはメンバーたちに会うことができ、運が良ければ握手もできる。
その後もAKB48は躍進を続け、現在、。日本だけでなくアジア全域でも同様のグループが誕生し、インドでは2019年内に新たなグループが結成される予定だ。一方でオタク男子たちは、「地下アイドル」を応援するようになっている。限定的な場所で活動するマイナーな「アイドル」たちだ。昼間はメイドカフェのウェートレスのバイトをしているとか、ラーメンばかり食べているという日常的な話題をファンたちと共有し、ファンにとってより身近で、磨けば光る「宝石の原石」のような存在だ。
長いお別れから新たな旅立ちへ
多くの意味で、平成は昭和からの脱却を図った時代だった。しかしそれは穏やかなもので、時に感傷的で、長引く離婚裁判のように時間がかかる別離だった。「令和」という新時代には、昭和への未練を断ち切ったどんな新たなカルチャーが台頭するのだろうか。
原文=英語
バナー写真:AKB48グループのコンサートウィークが始まり、最初の公演「チームA:単独コンサート~美しき者達~」が行われた=2019年1月12日東京都内(時事)