台湾海峡の地政学リスク

台湾有事!中国の台湾侵攻作戦とは?:台湾軍、米軍、自衛隊はどう動くか

政治・外交

門間 理良 【Profile】

米中関係の趨勢(すうせい)とインド太平洋地域における台湾の政治的・軍事的重要性が増している中、解放軍の台湾本島侵攻を米国が座視することはありえない。中国側も今すぐに台湾に侵攻しなければならない差し迫った理由がなく、そのような危険な賭けにでるとは想像しにくいが、あらかじめ想定を詳しく立てておくことは重要だ。本稿は現時点で解放軍の侵攻作戦が始まると仮定して、どのような事態が想定され、解放軍・台湾軍・米軍・自衛隊の能力で何ができるのかについて考察する。

「台湾有事」は「日本有事」に他ならない

中国が台湾侵攻を企図した場合、まず外交ルートを通じて日米に台湾を支援しないよう働きかけてくるだろう。日本に対しては「攻撃するのはあくまでも米軍基地だけであり、日本が米台を支援しなければ日本に対する攻撃はしない」などの甘言で日米の離間を図ることも十分考えられる。

解放軍は「積極防御」の軍事戦略を掲げているが、情報化戦争へシフトする過程で先制攻撃をより重視するようになっている。よって、嘉手納・佐世保・岩国・横須賀の米軍基地に対して、解放軍がサイバー攻撃とミサイルで先制攻撃してくることを日本は想定しておいた方がよい。常識的に考えて、在日米軍基地へのミサイル攻撃は日本への武力攻撃と同義になると思われる。日本政府が武力攻撃事態を認定すれば、首相が自衛隊に防衛出動を命じて中国に反撃することになる。自衛隊は本来任務である日本を守るために戦うことになるだろう。

飛来する弾道ミサイルなどに対して自衛隊は、近代化改修を行った「あたご」型や「まや」型のイージス艦から発射されるSM-3ブロック2Aを、次いで陸上発射式のPAC-3で対処することになるが、その前段階として弾道ミサイル発射を検知する機能や弾道の捕捉、情報の即時伝達・共有が重要となってくる。そのためには早期警戒衛星、通信衛星の増強が望まれる。超音速ミサイルを探知するためには無人偵察機の前方展開も考えられる。

米軍が台湾有事に介入する場合、自衛隊は日本を守りながら米軍に対する後方支援を行うことになる。さらに、自衛隊には台湾在留邦人救出ミッションも課せられる可能性が高い。これらのミッションを並行して遂行することは、防衛省・自衛隊にとって極めて困難な作業となろう。有事に突入してから台湾や米国の関係機関と協議する余裕はない。中国による通信妨害も十分に考えられる。常識的に考えて、平時から台湾の内政部や外交部、国防部、米国の関係機関と邦人避難ミッションに関する協議をしておかなければ間に合わない。

中国に台湾侵攻(=在日米軍基地攻撃)を思いとどまらせるだけの実力があることを台湾と日本が示すことと、国交はなくとも日米台の友好関係がゆるぎないものであり、日米同盟が強固であることを示して、中国の侵攻を抑止することは何よりも重要である。

※本稿は筆者の個人的見解をまとめたもので、所属機関とは関係ありません。

【参考文献】

  • 武田康裕編著『在外邦人の保護・救出』東信堂、2021年
  • 防衛研究所編『中国安全保障レポート2021 新時代における中国の軍事戦略』防衛研究所、2020年
  • 尾形誠「近代化を進める解放軍と台湾軍の対応」『東亜』一般財団法人霞山会、2021年9月
  • 門間理良「日本はいかに動くべきか? サイバー・ミサイルから始まる中台激突」『中央公論』2021年10月号
  • 門間理良「台湾の動向」『東亜』各号
  • 『世界の艦船』(海人社)各号所収の論考及び艦艇諸元

バナー写真=中国国際航空航天博覧会で展示された(左から)大型爆撃機「轟6K(H6K)」、大型輸送機「運20(Y20)」、中型輸送機「運9(Y9)」、2018年11月6日、中国珠海市(新華社/共同通信イメージズ)

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拓植大学海外事情研究所教授。筑波大学博士課程単位取得満期退学。博士(安全保障)。南開大学、北京大学に留学。台北と北京での専門調査員、文部科学省教科書調査官、防衛研究所地域研究部長などを歴任。2023年より現職。

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