台湾海峡の地政学リスク

台湾有事!中国の台湾侵攻作戦とは?:台湾軍、米軍、自衛隊はどう動くか

政治・外交

門間 理良 【Profile】

米中関係の趨勢(すうせい)とインド太平洋地域における台湾の政治的・軍事的重要性が増している中、解放軍の台湾本島侵攻を米国が座視することはありえない。中国側も今すぐに台湾に侵攻しなければならない差し迫った理由がなく、そのような危険な賭けにでるとは想像しにくいが、あらかじめ想定を詳しく立てておくことは重要だ。本稿は現時点で解放軍の侵攻作戦が始まると仮定して、どのような事態が想定され、解放軍・台湾軍・米軍・自衛隊の能力で何ができるのかについて考察する。

米軍の反撃は衛星とのリンク破壊と巡航ミサイル

米軍が台湾有事に介入する場合、「自軍将兵の犠牲を最小限に抑える」ことが最優先の考慮事項となる。解放軍の対艦弾道ミサイルDF-21DやDF-26が有効に機能している間には空母機動部隊を射程内に近づけたくない米軍は、中国の偵察衛星の機能をつぶすことを考えるだろう。これはなにも衛星に対して直接攻撃を行う必要はない。衛星と地上通信施設を結ぶリンクを攻撃する電子妨害を行うことで、偵察衛星から送られてくる情報を遮断すればよいのである。北斗3号衛星測位システムや衛星通信に対するジャミング(電波妨害)やサイバー攻撃も考えられる。

さらにオハイオ級巡航ミサイル原子力潜水艦(SSGN)からの巡航ミサイル攻撃で、中国本土のレーダーサイトや衛星との通信施設等を物理的に破壊することも考えているはずだ。SSGNは1隻あたりトマホーク巡航ミサイルを154発搭載している。米軍は同艦を4隻保有し、そのうち2隻をインド太平洋軍に配備している。通常体制であれば、4隻すべてが稼働しているわけではないと思われるが、台湾有事ともなれば全てを台湾海峡に派遣すると考えられる。

亜音速巡航ミサイルは速度が遅いことが弱点のため、できるだけ中国本土に接近し、数多く発射することで解放軍の防空システムをかいくぐる必要がある。SSGNは第一列島線付近の海域まで進出してから、合計600発強のトマホークを一斉に発射し、すぐに現場海域を離脱するだろう。トマホークの精密打撃によって中国の衛星を利用した探知能力や攻撃能力は大幅に低下する。米軍の正確な位置把握が不可能になった解放軍の対艦弾道ミサイルや、地上発射式あるいはH-6K爆撃機から発射される巡航ミサイルの命中精度は、格段に低下する。この機を逃がさず米空母機動部隊は中国本土に急速に接近し、台湾侵攻の後続部隊や補給を断つことができる。その間にSSGNはグアム(あるいは横須賀・佐世保でも可能?)でミサイルを再装填して再び出撃できる。

なお、台湾軍と米軍の共同作戦は、共同訓練を実施していないため不可能である。無理に行おうとしても、最悪の場合、同士討ちという事態も想定される。現実的なのは、台湾軍が台湾本土で解放軍の侵攻に持ちこたえている間に、米軍が解放軍を独自にたたくという戦闘であり、単独行動をとる原潜を最初に戦場に投入することは理にかなっている。

次ページ: 「台湾有事」は「日本有事」に他ならない

この記事につけられたキーワード

中国 自衛隊 米国 台湾 米軍 米軍基地 ミサイル 人民解放軍 日本 台湾有事 サイバー攻撃 台湾海峡

門間 理良MOMMA Rira経歴・執筆一覧を見る

拓植大学海外事情研究所教授。筑波大学博士課程単位取得満期退学。博士(安全保障)。南開大学、北京大学に留学。台北と北京での専門調査員、文部科学省教科書調査官、防衛研究所地域研究部長などを歴任。2023年より現職。

このシリーズの他の記事