南シナ海もうひとつの火薬庫「東沙諸島」

東沙島周辺で高まる緊張感――上昇する中国軍の圧力と台湾軍の対応

国際

新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけに米中対立が激化する一方で、米台間は政治的にも軍事的にも急速に関係を強化するに至った。中国は米国に軍事的圧力をかける危険を冒すことは避けているが、蔡英文政権に対する政治的・軍事的圧力は継続中である。そこで注目されるのは、台湾が設定する防空識別圏(ADIZ)南西空域への中国軍用機の連日の進入である。この動きは中国軍による東沙島奪取の可能性を示唆するものと筆者は考えている。

大きな米国による台湾支援

台湾側の東沙島死守の自助努力の他に、米国による継続的な台湾支援は極めて重要である。2020年11月に米海兵隊が台湾で海軍陸戦隊と訓練活動を行ったことが公式に明らかにされた。これは台湾軍の戦闘即応性強化を支援する目的の訓練と報じられたが、東沙島など離島防衛・奪還訓練の一環と考えるべきであろう。

台湾における米軍の活動が公になったのは、米台断交以来のことである。さらに、米海軍艦は20年に13回台湾海峡を通過した(※10)。これは過去最高だった16年の12回を超えた(※11)。このような動きは台湾周辺海域における米海軍や海兵隊のプレゼンスを示して、中国側の武力行使の可能性を牽制するのに役立ったと思われる。

また、トランプ政権は台湾に対して合計11回の武器売却を行った。20年度に最も多くの米国製武器を購入したのは台湾で、金額は約118億ドルにのぼった(※12)。これは台湾への武器売却に消極的だったオバマ政権の時と大きく異なっている。なお、東沙島絡みで注目すべき武器は、高機動ロケット砲システム(HIMARS)であろう(※13)。HIMARSはC-130H輸送機で空輸でき、最大射程は300キロメートルに及ぶ。台湾軍がこれを東沙島や金門や馬祖に実戦配備したら、中国大陸への攻撃可能範囲は一挙に拡大する。

日本の安全保障に大きな影響

中国軍からすれば、東沙島への攻撃占領は台湾本島への軍事侵攻よりも圧倒的に難易度が低いが、時間をかけることはできない。作戦を完遂する前に米軍の介入を許せば、失敗に帰す可能性が高いからである。逆に、米軍が台湾支援の軍事行動を起こす前に東沙島への攻撃占領が終結していれば、米軍が介入するのは難しくなる。その後はなし崩し的に軍事基地化を進めて、占領を既成事実化するだけだ。南沙諸島の軍事基地化は習近平政権にとって成功体験であり、東沙島の軍事基地化を台湾統一の階梯(かいてい)と捉えるならば、作戦実行の誘惑は大きいかもしれない。

さらに2021年は習近平政権が節目と捉える「2つの100年」のうち、中国共産党結党100周年の記念すべき年であり、習近平が総書記3期目、あるいは党主席に就任すると見られている第20回党大会の前年にも当たっていることは、台湾にとって懸念材料である。

蔡英文政権は中国に付け入る隙を与えないためにも、バイデン政権との良好な関係構築を急ぐ必要に迫られている。他方、台湾海峡とバシー海峡は日本にとっても極めて重要なシーレーンであり、東沙島の帰趨(きすう)によっては日本の安全保障に大きな影響を与えることを忘れてはならない。

バナー写真=台湾が実効支配する南シナ海・東沙諸島の東沙島(共同)

(※10) ^ 「米軍艦2隻が台湾海峡を通過 今年13回目」『フォーカス台湾』2020年12月31日。

(※11) ^ 「台海軍情》14年統計圖曝光!2020美艦通過台灣海峽次數創新高」『自由時報(電子版)』速報、2021年1月4日。

(※12) ^ 「米U-2偵察機が中国の防空識別圏に進入、台湾への軍事行動を牽制」『ニューズウイーク日本版』2020年12月11日。

(※13) ^ 「外交部に米国より空対地ミサイルなど防御兵器売却の通知届く」TAIWAN TODAY, 2020年10月23日、「米国務省、台湾へ高性能無人攻撃機4機の売却を通知」TAIWAN TODAY, 2020年11月4日。

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