
増える中途採用:人手不足を背景に「待遇向上」を求め人材流動化
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8割の企業が中途採用を実施
リクルートワークス研究所の「中途採用実態調査」によると、2023年度下半期に中途採用を実施したか、あるいは実施中の企業の割合(以降、中途採用の実施割合)は79.5%。同調査の公開開始当時(13年度下半期)の中途採用の実施割合は59.9%だったので、10年間で約20ポイントも上昇したことになる。中途採用が以前に比べて、より一般的になったのは明らかだ。
中途採用の実施割合は従業員規模が大きいほど高い。同調査では、5~299人で70.7%、300~999人で85.5%、1000~4999人で91.2%、5000人以上の大企業では95.9%だった。1000人以上では90%を超えていることを鑑みると、大手企業にとって中途採用は当たり前になりつつあると考えられる。
業種別では機械器具製造業で86.5%、運輸業で85.7%、飲食店・宿泊業で84.0%などと、中途採用の実施割合が高くなっている。
コロナ禍以降、転職者は増加
次に、労働者側の目線で見た中途採用、すなわち転職の実態に注目していく。
労働力調査を基に作成した転職者数(就業者のうち前職があり、過去1年間に離職を経験した人)の推移を見ると、直近のピークは2019年の353万人だった。その後、コロナ禍の影響で一度転職者が減少した後、21年を底として22年に増加に転じ、以降は継続的に増加している。リーマンショック期(2008~09年)にも転職者数の減少が見て取れ、転職は景気に左右されていることが確認できる。
こう見ると、近年の中途採用の活発化には、離職や転職の増加が関連していると考えられる。転職が増加している背景にはさまざまな要因があり得るが、例えば厚生労働省の「2024年版・労働経済の分析」では、23年に転職者数が増加した理由として、「より良い条件の仕事を探すため」が大きく寄与していることが指摘されている。
近年は人手不足を背景に、多くの企業が賃上げに積極的になっている。新卒採用に関して言えば初任給を引き上げる企業も多い。こうした状況で、働く人はより良い待遇を得られる仕事を探して転職活動を行い、結果的に、労働市場全体として中途採用が活発になっているのだろう。
それ以外にも、さまざまな要因がある。例えば、IT(情報技術)エンジニアやデータサイエンティストなどの専門的な知識・スキルが必要な職種への企業側のニーズが高まっており、人材争奪戦が激しくなっている。パーソルキャリアの転職求人倍率レポート(25年1月)では、IT・通信の転職求人倍率は7.59倍と、コンサルティング(9.68倍)、人材サービス(8.88倍)に次ぐ高さだった。
また、企業間で運用は異なるものの、職務を限定した採用も増加しており、専門性を磨く方向でキャリアを形成したい人にとっては望ましい選択肢が増えたことも、中途採用の活発化の一因であると考えられる。
新卒一括採用は崩れているのか
中途採用の活発化を語るとき、よく議論されるのが「新卒一括採用が崩れているのではないか?」という点である。新卒一括採用は日本の労働市場の特徴であり、昨今の鈍い経済成長や固定的な労働市場などが否定的なニュアンスで語られる際、セットで持ち出されるのが「新卒一括採用崩壊論」、「新卒一括採用限界論」とも呼べるような論調だ。
ここで再度、リクルートワークス研究所の「中途採用実態調査」を見てみる。2023年度下半期の中途採用の実施目的(複数回答)を尋ねており、回答率が最も高いのは「離職への対応」の70.7%だった。次いで「即戦力人材の獲得」(69.5%)、「採用未充足への対応」(64.0%)と続く。新卒採用で目標数を採用しきれなかったことや、離職・転職が増加したことへの対応で、中途採用が増えているようである。
少なくともこの結果からは、中途採用の活発化を新卒一括採用の崩壊・限界に関連づけるような結果は読み取れない。
この状況を別の角度から見てみよう。同研究所の「大卒求人倍率調査」によれば、25年卒の民間企業就職希望者数は45.5万人と2年連続で増加。求人倍率は1.75倍となっており、コロナ禍の影響で22年卒が一時1.50倍まで低下したものの、それ以降は継続的に上昇している。
この意味では新卒採用に対する企業のニーズは依然として高く、やはり中途採用の活発化と新卒一括採用の崩壊や限界との関係を見出すのは難しいだろう。
人材流出の食い止めを迫られる企業
では、今後、中途採用はどうなっていくだろうか。筆者なりの仮説としては、転職者数が直近の水準近くで推移するのであれば、短期的にはしばらく中途採用が(新卒採用も)活発な状況が続くのではないか。とはいえ、コロナ禍からの回復期のように急増するといったことは考えにくく、高止まりの状況が続くのではないだろうか。
こうしたなか、企業に求められるのは、まず中途採用における採用力の向上だろう。新卒採用が人材獲得の中心であった企業にとって、中途採用は不慣れなことが多いかもしれない。しかし今後、事業環境の大きな変化や少子高齢化といったさまざまな課題に直面する企業にとっては、新卒採用だけでなく、多様な採用チャネルを開発しておくことは優先順位の高い経営課題と考えられる。
さらに、社員の離職防止(リテンション)にはより一層、注意を払う必要がある。当然ながら、離職が少ないほど中途採用にかけるパワーも少なく済む。中途採用競争が激しくなっている昨今、「大量離職・大量採用」のようなループに陥ってしまうことは人材マネジメント上の悪手と言える。
待遇だけでなく、働きやすさ、職場の人間関係、マネジメントなど、社員のリテンションに関連する要因はさまざまだ。自社の課題を冷静に見極め、中途採用、そして中途入社者の戦力化までのプロセスをしっかりと定着させていく必要があるだろう。
参考文献
- パーソルキャリア(2025) 転職求人倍率レポート(2025年1月)
- リクルートワークス研究所(2024a) 第41回 ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)
- リクルートワークス研究所(2024b) 中途採用実態調査(2023年度実績、正規社員)
- 厚生労働省(2024) 令和6年版 労働経済の分析―人手不足への対応―
バナー写真:PIXTA