トランプ再び

トランプ政権下の日米中関係と東アジア―経験と挑戦

国際・海外 政治・外交

米中関係は追加関税、報復関税の応酬で緊張する一方、トランプ政権の対中政策の全体像はまだ見えない。中国は比較的冷静な対応を維持しつつ、今後の関係性の「大枠」がどうなるかを探っているようだ。

トランプ政権が発足して1カ月以上が過ぎた。今後の日米中関係の行方については、さまざまな見方があるが、考察をする上ではいくつかの議論の前提があろう。

第一にトランプ政権とバイデン政権との間には一定の連続性があるものの、それでも特にトランプ大統領個人の特性に由来する非連続性があると考えられること。第二に、第1期トランプ政権と比較すれば、トランプ氏の特性に由来する連続性はあるものの、人事を比較的早く決定するなど、異なる点も多々見られると言うことである。第三に、2010年代とコロナやウクライナ戦争を経た現在とでは国際環境が大きく異なるということである。本稿では、こうしたことを踏まえ、トランプ政権下の日米中関係と東アジアについて考察してみたい。

バイデン政権期からの継続性

2025年2月、米中間では追加関税、報復関税の応酬が始まっている。まさに「前哨戦」が始まったと言えるだろうが、米国の対中政策の全体像は不明だ。特にトランプ政権の関税政策は、中国だけに向けられたものではなく、同盟国や同志国にも向けられる。その総体とそこでの中国の位置付けを見ないと、中国としてもトランプ政権への対処は決められないのだと思われる。それだけに、中国側の対応は比較的冷静だ。第1期の経験から、関税重視、エネルギーや食糧重視ということは承知していただろうし、また第2期は政権人事の決定が早かったこともあり、ある程度予測可能性が高まっていたと言えるだろう。

だが、トランプ政権の対中政策は、関税、貿易政策だけで形成されているわけではない。第2期には、ルビオ国務長官、ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官、コルビー国防次官といった対中強硬派が政府高官に多く起用されている。彼らの政策は、第1期後半の、ポンペオ氏、ポッティンジャー氏らの政策を継承しているとも言えるが、むしろ経済安全保障や台湾問題の面でバイデン政権の政策を継承している。この点でも中国としては「経験」、予測の範囲で比較的冷静に情勢を見ているとも言えるだろう。

まだ不透明な米中関係の「大枠」

しかし、バイデン政権とトランプ第2期政権との間に相違点もある。最も大きな相違は、米中関係の「枠組み」が大きく異なるということだ。すなわち、バイデン政権と習近平政権は米中関係を長期的でタフな「競争」関係だと位置付け、衝突しないが協力すべきは協力する、複雑な両国関係を管理すべく、直接対話を重視するといった枠組みを維持してきた。実際、関係が緊張しても、両者間の直接対話は基本的に継続していたし、気候変動などで一定の協力も見られた。

しかし、トランプ政権第2期では、中国のことを「競争」関係にある国としてみるという点ではバイデン政権と変わらないが、同じ関係性の枠組みは維持できないだろう。上述のように関税・貿易重視のトランプ大統領と対中強硬派の政府高官との間でどのような政策調整がなされ、政策化されるのか依然不分明だ。トランプ大統領は、気候変動にも消極的でバイデン政権同様の「協力」は困難だ。ましてやルビオ国務長官は中国から「出禁」措置を受けているので、直接対話をどのようにやるのかも分からない。

だからこそ、中国側としては、関税問題を中心とするトランプ氏と習近平国家主席とのトップレベルの対話、交渉が重要になるのだと見ている。そこで大枠が決まらないと事務レベル、閣僚レベルでの調整は行いにくい。ただ、中国にとって難しいのは、トランプ大統領が提起している追加関税の根拠が決して中国認識などからは導かれてはおらず、むしろ米国内の移民問題や、違法薬物フェンタニルへの対策など、つまり「アメリカ・ファースト」の論理に基づいているということだ。そのためトップ交渉において、そうしたトランプ大統領の「論理」に応じたかたちで交渉しなければならないのである。

グローバルな国際政治と米中関係

トランプ政権の対外政策全般も、関税政策だけで説明できるものではない。ロシア政策や中東政策、そしてウクライナ政策などの全体像、またそこでの中国の位置付けなどを見極めなければ中国も対処がしにくい面がある。無論、中国が何事においても受け身であるわけではないものの、依然として予測可能性が低い状況の中で、まずは情勢を見極めたいところだろう。

地球を俯瞰(ふかん)すれば、おそらくトランプ政権はまずは欧州、中東、ウクライナ方面の問題に着手、東アジアはその後になる可能性が高い。すでにトランプ氏はウクライナ和平に向けた動きを見せているが、そこでは欧州の位置付けが問題となっている。もし欧州が米国への対抗として中国に接近してくれば中国は歓迎するだろうが、同時に米ロが接近することも好まないだろう。無論、トランプ第2期政権の外交チームの顔ぶれを見れば、ロシアとの戦略的接近はあっても、米国とロシアとの関係が大きく改善されることは考えにくい。だが、「米国に追いつくこと」を目標とし、先進国への対抗を当面の課題としている中国としては、強固な中ロ関係にほころびが生じることは避けたいだろう。

中東に目を向けると、かつて中東でサウジアラビアとイランの仲介役を務めた中国ではあるものの、現在は情勢が大きく変化してイスラエルが比較的優位になり、原油、天然ガスのトップバイヤーとしての中国の立ち位置は難しい。

そして、コロナやウクライナ戦争を経て、国際政治の世界での中国の立ち位置は以前にまして厳しい。西側諸国やロシアの脅威を受けている国では「中ロ一枚岩」論も根強いし、またトルコやインドなどの新興国からの「突き上げ」にも中国は直面している。中国の習近平国家主席としては、むしろトランプ大統領によって国際政治諸問題の「相談相手」と位置付けられることで、逆にその存在の重要さを内外にアピールしたいところだろう。

米国の同盟国への揺さぶり

以上のように、トランプ政権2期目の対外政策の見極めの最中にある中国が進めているのは、周辺国との関係強化だ。中国は国際環境に不安があると周辺国との関係を固める傾向にあるが、現在もそうである。次に、米国の同盟国、同志国との関係改善、強化ととともに、米国と同盟国、同志国の引き離し、また同盟国、同志国間の引き離しを同時に進めようとしている。これはトランプ大統領が、同盟国、同志国との関係性や、NATO(北大西洋条約機構)、QUAD(日米豪印戦略対話)、ファイブ・アイズ(米・英・加・豪・ニュージーランドによる諜報・情報の共有体制)、日米韓、日米比などの枠組みを重視しないのではないかとの見立てに基づく政策だ。

その意味で、中国は韓国の次期政権への期待を抱き、またフィリピンのマルコス政権との関係改善をめどに強硬外交のトーンを下げ、日本の石破茂政権にも接近を試みてきた。中国では、石破首相が米国に対して自立的な傾向があるとか、日中国交正常化を導いた田中角栄氏を師としているとか、あるいは石破政権には自民党保守派で台湾との関係が深い清和会(旧安倍派)の閣僚がいないといったことに注目して期待を高めた。それだけに、日米首脳会談の結果は、中国側を大いに失望させるものであった。中国が頭の中で築いたロジックとは全く異なる「現実」を突きつけられたからである。日米首脳会談のコミュニケでは、バイデン−岸田の時にはあった「価値」をめぐる部分が大きく削除されたものの、台湾についてのいくつかの条文が前政権より踏み込んだ形で挿入されたのだった。

新たな米中関係と台湾問題

台湾問題については、トランプ政権2期目の外交・安保チームがバイデン政権以来の中国に厳しい政策を継続している。これが国務省ウェブサイトの修正(※1)などに結びついており、武器売却などの面でも従来通りの政策が進められるだろう。しかし、トランプ大統領自身は半導体をめぐる言説でも、また関税政策の面でも台湾に厳しい政策をとっている。トランプ氏自身も中国を長期的な「競争相手」として見ているだろうが、「台湾カード」を、対中政策を進める上でどの程度「使える」カードとして見ているのかについては依然不分明だ。

こうした意味でトランプ政権2期目の台湾政策は依然明確な像を結んでおらず、それが台湾社会に不安をもたらしている。バイデン政権からの政策の継承性があるとはいえ、コルビー国防次官などは台湾が自ら守る姿勢を示すことが重要だとし、過度の米国依存に警鐘を鳴らしている。また、外交関係のない台湾を組み込んだミニラテラルの枠組み(米日比台の枠組みなど)が今後どのようになるのかも未知数だ。そうした意味では、台湾問題についても、慎重な見極めが必要な段階にあると言える。

日本は、首脳会談で期待以上の成果を上げたものの、だからと言って安心することはできない状態にある。冷戦時代とは異なり、現在の国際政治は極めて複雑であり、日米安保堅持だけでは対応が不十分だ。グローバル、東アジア地域、二国間、多国間という重層的な関係のなかで、国際的な枠組み、先進国、近隣諸国だけでなく、一つ一つの国、地域のありようを踏まえた、主体的な対応が必要になる。

そこでは従来とは異なる対応も求められる。例えば、対米関係でも、トランプ大統領が意識している米国国内政治の論理を日本がどの程度踏まえた対応ができるのかということも焦点になろう。またトランプ政権の対外政策の全体像が不分明である以上、他の先進国との関係強化は必須だし、また米中間の直接対話が減少する中で、中国との対話を維持する必要もある。そして、グローバルサウスとされる多様な国々の声を踏まえた外交を行いつつ、それらの声を米国や先進国に届ける役割もある。

だが、これらを同時に行うのは、決して容易なことではない。

バナー写真:トランプ米大統領(左)と習近平・中国国家主席(AFP=時事)

(※1) ^ 編集部注:米国務省が2025年2月13日、中国に対する政府の外交方針を記した「ファクトシート」を更新。「中国共産党」を名指しで批判するなど、記述はより強硬的な内容となった。

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