3期目の習近平政権と台湾

習近平3期目の「台湾政策」:強化される軍事圧力と「心理戦」必要な2024年問題の「危機管理」

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習近平3期目の「台湾政策」をどう読み解くか。筆者は、引き続き中国は「台湾統一に向けたタイムテーブルに基づいて動く」と予想。目標の中間年となる2035年に注目する一方、台湾総統選のある24年の「危機管理」の必要性を指摘する。

第20回党大会前後における「台湾」政策の継続性

2022年10月の中国共産党第20回党大会における習近平演説、また党規約に関する審議などで、台湾に関する言及もあったが、同年8月の「台湾問題と新時代の中国統一事業」(国務院台湾弁公室、国務院新聞局)などの文書やこれまでの習近平発言と比べても、「言葉遣い」として何かが大きく変化したわけではなかった。むしろ、台湾について多く言及せず、言葉も変えなかったこと自体に「思惑」があるのではいかという見方もあるほどだ。にもかかわらず、日本のメディアは習近平が台湾に対する武力行使も辞さないとした点に注目し、習近平演説の要点として台湾政策を取り上げていた。

ウクライナ戦争があるのでこうした言辞に敏感になるのは理解できるものの、習近平自身も19年1月に台湾への武力侵攻には言及しており、目新しいことではない。

だが、台湾への注目がミスリードかと言われれば必ずしもそうでもない。それは以下の三点から説明できる。

第一に、習近平の演説において台湾関連部分での会場からの「拍手」が最も大きかったことだ。習近平演説の台湾関連部分は、これまでの言葉を紡いだようなものだったが、それでも中国内部では、その宣伝によって台湾統一への「期待」が高まってしまっている。習近平が今後2期10年政権を担当するなら、少なくとも35年の社会主義現代化の達成までに、台湾問題についても何かしらの成果を上げようとする可能性がある。

第二に、党規約に台湾独立に対する強い警戒を示す言葉が盛り込まれたことである。これは、この数年蔡英文、民進党に対して強めていた警戒と具体的政策を言葉にしたものであるが、少なくとも党規約に盛り込まれたということは権威付けのレベルが上がったということになる。

第三に、武力行使の対象として明確に「外部勢力からの干渉」が記された点だ。これは米国、日本を意識したもので、強いけん制の意図がある、と見て取れる。

だが、総じて第20回党大会での習近平演説や党規約に関わる「言葉」から見れば、台湾政策に大筋変化がないといえることに変わりはない。だが、だからと言って、中国の台湾統一に向けた事業が緩和されるわけでもない。中国は台湾への軍事圧力を強め、いっそう心理戦を推進して、台湾統一に向けたタイムテーブルに基づいて動くことになろう。

台湾統一に向けたタイムテーブル

中国が台湾統一に向けて設定したタイムテーブルによれば、2049年に中国が社会主義現代化強国となって、「中華民族の偉大なる復興」を実現するときに、米国に追いつき追い越し、中国の想定する新型国際関係が実現するということになっており、同時に台湾統一も実現されるとされていると見ていいだろう。中間点とされているのは35年である。このタイムテーブルが前倒しにされているという見方もあり、ブリンケン米国務長官の発言でもそうした言及があったとする見解もあるが、公式には米政府や軍の関係者が「前倒し」があると見なしているとはされていない。習近平は、おそらく32年まで総書記であり続けるだろうから、35年の中間点を視野に何かしらの成果を上げようとすることは十分に想定される。

では、習近平政権は台湾統一に向けてどのような政策を採用しているのか。第一に、統一に向けて軍事力を増強することがある。これは当然のことだが、台湾西部へのミサイル攻撃能力はもはや十分であり、東部での上陸戦に向けての揚陸艦の装備と制海権、制空権の確保が課題となるが、それも2025年には十分備わるだろうというのが台湾国防部の見立てだ。

実際に台湾侵攻が可能な軍事力がどの程度かについて議論があるにしても、その「十分な」軍事力を中国は直ちに使用はせずに、演習などを通じて台湾社会に見せつける。第二に、台湾社会に向けてディスインフォーメーションを日常的に送り込み、台湾社会、台湾の民主主義に混乱を、蔡英文政権にダメージを与えようとする心理戦だ。サイバー攻撃も日常的に行われる。第三に、経済「制裁」である。「制裁」という言葉は使わないにしても、台湾産品の輸入禁止などが継続的に行われている。ただ、中国の工業が台湾の半導体関連部品に依存している現状では、そこまで強硬な経済「制裁」は実施できずに、一次産品を選んで輸入禁止にするにとどまっている。

いずれにしても、こうした手段を通じて、「独立」どころか、現状維持さえも難しく、中国と「統一」するしかないと台湾社会に思わせていくことが中国の現在の政策内容だと考えられる。そして、習近平政権は次第にそれを強化しつつある。圧力を高めているのだ。問題となるのは、むしろこの政策に効果がないと習近平政権が認識した時だろう。その際には、なぜ効果がないのかということが検討され、おそらく軍事的な圧力をさらに高めるなどしてくることが想定される。その場合、突発的な事故や、事態のエスカレーションが生じる可能性もあろう。

中華民族というキーワード

習近平政権の対台湾政策を別の側面から見てみよう。習近平は演説において、台湾の統一は「中華民族の人々の共通の願い」であり、「中華民族の偉大なる復興を実現する上での必然的要請」だとも述べた。中国の解釈では、台湾の諸民族は「中華民族」に含まれることになっている。だからこそ、中華民族である台湾の人々も2049年の統一を「願い」として持つことが想定されている、ということになる。

だからこそ、「台湾の各党派、各業界、各階層人士と、両岸関係・国家統一について幅広く踏み込んで協議し、共同で両岸関係の平和的発展と祖国の平和的統一のプロセスを推進していく」というように、まさに台湾社会との「共同作業」として台湾統一を位置付けるのである。具体的には、「祖国を愛し、統一を目指す台湾島内の人々を揺るぎなく支持し」ていき、「引き続き両岸の経済・文化の交流、協力を推進し、両岸の各分野の融合発展を進化」させていき、「両岸がともに中華文化を発揚するように推進」していくという。

この文脈に則して、「統一を目指さない」台湾独立を目指す勢力はここから排除される。そのため、「外部勢力からの干渉とごく少数の『台湾独立』の分裂および分裂活動」に対しては武力行使を放棄しないという立て付けになっている。台湾独立を目指す勢力が「ごく少数」だというのだから、「広範な台湾同胞」はまさに統一を目指すであろう、というのが中国の描いている「建前」なのである。

こうした「建前」である以上、とりあえずはその「広範な台湾同胞」と統一を目指すということをやらねばならなくなる。だが、統一を目指す「広範な台湾同胞」が現実に存在するのかと問われれば、表面的にでさえその存在は確認できない。台湾経済がよほど厳しくなり、中国との関係だけが命綱になるようなことがあれば別かもしれないが、目下のところそうした「広範な台湾同胞」が出現する可能性は極めて低い。

その「広範な台湾同胞」が実際には存在しないと認めざるを得ないとき、習近平政権は蔡英文政権、あるいは民進党がその「広範な同胞」を騙している、などと言うのだろう。いずれにせよ、自らの主権が及ぶ香港とは異なる空間である台湾への政策が「現実」から離れれば離れるほど、その政策の実現は困難になっていくであろう。それが果たして何時になるのか。台北、北京、ワシントンなどの動向を踏まえて、継続的に観察する必要があろう。

2024年問題

台湾をめぐる問題は、今後とも米中間の「競争」の一つの焦点であり、また東アジア国際政治上の極めて大きな論点であり続けよう。中国の仕掛けてくる三つの側面(軍事安全保障+情報やサイバー攻撃などの心理戦+経済制裁)それぞれにいかに対処するのかということ、他方で不安定性や不確実性を排除したり管理したりすることが課題となる。

その担い手には、台湾自身だけでなく、日本をはじめとする周辺国、関係国も含まれる。日本としても、心理戦や経済制裁などの面を中心に、台湾との協力、協働を具体的に築いていくことが求められるし、軍事面でも協力を模索すべきだろうが、1972年体制と言われるような日中関係の大枠に対しても、一定の配慮が求められる。これは現在の米国と同様である。

経済制裁の面では今後、中国に工場を持ち、台湾とも深い関わりを持つ企業などが制裁の対象になることも予想される。2021年に台湾の遠東集団に対して中国政府が発動したような「制裁」を日系企業も被る可能性があると考えられるのである。

他方、不安定性や不確実性の管理という面で、直近の課題として昨今話題にのぼるのが2024年問題である。この年には1月に台湾で総統選挙があり、また米大統領選挙も控えている。総統選挙では、民進党の勝利が予測される中、頼清徳副総統の総統就任の可能性が高いと思われる。頼副総統は、現職の蔡英文総統の両岸関係政策を継承するとしているが、現職に比べて、中国に「厳しい」政策をとることも予測される。

無論、頼副総統以外であっても、新たな候補者それぞれがどのような両岸政策を想定しているのか関心の集まるところである。その上、米大統領にトランプ前大統領が再当選するケースも考えられ、その場合バイデン政権と同様の台湾政策を採用するかは未知数だ。24年の台湾の総統選と米大統領選の予期せぬ結果や化学反応をどのように「管理」するのか、そもそも「管理」などできるのか。今後、このような課題に継続的に、かつ一つ一つ取り組んでいくことが求められるのだろう。

バナー写真:中国共産党の第20期中央委員会第1回全体会議(1中全会)を終え、報道陣に手を振る習近平総書記=2022年10月23日、北京の人民大会堂(共同)

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