タリバン政権への関与を探る中国:具体的な政策や方向性はまだ見えず
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かつては「テロ組織」認定引き換えに米国を支持
今年8月、アフガニスタンのタリバン勢力がカブールを奪還すると、「カブール陥落」の衝撃とともに、米国バイデン政権の失策ぶり、無責任ぶりに非難が集まった。中国側はこの機をとらえて、米国がこれまで人権を大義名分に掲げて軍事介入し、米国式の民主主義を世界に押し付けてきたことを批判的に論じた。
中国外交部の華春瑩は、米国式民主主義を冷たい牛乳にたとえ、冷たい牛乳が苦手な中国人にそれを飲ませようとしてきたとして、米国が自国の民主主義を世界に無理強いしてきたことをこき下ろしてみせた。北京はまた、アフガニスタンは「アフガニスタン人主導の、アフガニスタン人のもの」であるという原則を繰り返し強調した。それはまるで米国がアフガニスタンの主権をまったく尊重してこなかったかのような言い方であった。
このようにアフガニスタン問題は米中間の論戦における一つのトピックと化した観があるが、もともと中国は米国の影響下にあるアフガニスタン政府と良好な関係を構築していた。周知のように、米国のアフガニスタンへの介入は、2001年の9・11同時多発テロ事件後に起こった。当時、中国はアフガニスタンにおけるアメリカの「テロとの戦い」を支持する姿勢を見せたが、その際に中国は「東トルキスタン・イスラーム運動」と呼ばれる集団を米国が「テロ組織」に認定することと引き換えに米国を支持したのであった。
「東トルキスタン・イスラーム運動」(Eastern Turkistan Islamic Movement)とは、1990年代に新疆ウイグル自治区から国外に逃れた「トルキスタン・イスラーム党」(Turkistan Islamic Party)を名乗るウイグル人活動家らの周辺に形成された勢力の総称であって、必ずしも当事者がそう名乗っていたわけではない。しかしそれが米国によって正式に「テロ組織」として認定された。このことは取りも直さず、中国にとって新疆における「分離主義」勢力との戦いが、「テロとの戦い」として国際的に認識されたことを意味していた。中国側もそうした米国の姿勢を評価し、米国の「テロとの戦い」、米国によるアフガニスタンの再建を支持したのである。
「一帯一路」戦略で関係深化
こうして米中間に相互支持が形成される中、中国は米国がアフガニスタンにつくった暫定政府と関係を取り結んだ。在アフガニスタン中国大使館のホームページによれば、早くも2001年12月に中国は小規模なグループ(工作小組)をアフガニスタンに派遣した。翌02年1月、米国が擁立したアフガニスタン暫定政府首班のカルザイ議長が中国を訪問した。カルザイは江沢民国家主席、朱鎔基総理と会見し、江沢民は以後5年間に1億5000万ドルの援助をアフガニスタン復興のために提供することを表明した。2月6日には在アフガニスタン中国大使館が再建された。
以来20年余り、中国と米国勢力下のアフガニスタン政府は関係を発展させてきた。要人往来はさほど多いと言えなかったが、それでも08年8月の北京オリンピック開会式に出席したカルザイ大統領が胡錦濤国家主席と会見するなど、最高指導者間の交流も見られた。10年4月には、ハリーリー第二副大統領が、中国のボアオ経済フォーラムに出席し、当時国家副主席であった習近平と会見している。
その後習近平政権の成立にともない、中国・アフガニスタン関係は発展を加速させた。12年6月にはカルザイ大統領が上海協力機構サミットに合わせて北京を訪問し、戦略協力パートナーシップ関係の確立をうたう共同宣言を発表した。13年9月には、カルザイ大統領が再度訪中し、戦略協力パートナーシップ関係の深化に関する共同声明を発表している。14年10月にはガニ新大統領が訪中し、再び同様の共同声明が発表されている。
それ以来、中国が「一帯一路」戦略を提唱したこともあって、14年次いで16年に、経済、通信、貿易などさまざまな分野での二国間協力に関する文書が交わされるなど、両国関係は深化を遂げた。ガニ大統領と習近平国家主席は、15年から19年にかけて、毎年夏に開催される上海協力機構サミットにあわせて会談を続けてきた。
「新疆ウイグルの安定」を重視
このように中国が米国勢力下のアフガニスタンと関係を発展させてきた背景には、単に中国から見てアフガニスタンに経済的うまみがあるというよりも、別の安全保障上の必要もあってのことであった。冒頭述べたように、中国はみずからが想定する「東トルキスタン・イスラーム運動」を大いに警戒しており、アフガニスタンの安定を新疆ウイグル自治区の安定にかかわる問題としてとらえてきたからである。
そのため2021年にタリバン勢力が捲土重来を果たすまで、中国はアフガニスタン政府に対し「テロ組織」への警戒をさかんに強調していた。21年7月28日、王毅外相がタリバンのバラダル師と会談したことがよく知られているが、そのわずか2週間前の7月14日に王毅外相は、タジキスタンの首都ドゥシャンベでアフガニスタンのアトマル外相と会見し、「絶対にアフガニスタンを再びテロリストが集まる地にしてはならない」と述べていた。
しかし状況は短期間で大きく変わり、タリバン勢力による「カブール陥落」の見通しは当初の想定より大いに早まった。そのため王毅外相はタリバンのバラダル師と会談し、「東トルキスタン・イスラーム運動など一切のテロ組織との関係をきっぱりと断つ」よう求めたのであった。これについてバラダル師は、「いかなる勢力もアフガニスタンの領土を利用して中国に危害を加えることを許さない」と応じたとされる。もっとも、バラダル師がそう述べたとして、その発言内容にどの程度の実行性があるかは疑問であった。
「反テロ」でロシアと共同歩調
そこで中国は、アフガニスタン情勢の急展開を受けて、とりわけ中国のいう「反テロ」の関連で、ロシアおよびタジキスタンと共同歩調をとる姿勢を明確にしている。8月前半には寧夏回族自治区で「西部・連合2021」と銘打った中露合同軍事演習がおこなわれ、中国側から新疆ウイグル自治区を統括する西部戦区が参加した。中国国防部は、この演習を通じて「テロリストの勢力を攻撃し、地区の平和と安定を共同で維持する決心と能力を示す」としている。さらに「カブール陥落」直後の8月18、19日には、中国公安部がタジキスタンの首都ドゥシャンベで、同国内務省と合同の「反テロ演習」を実施したことも知られている。
その後、中国はアフガニスタンに対し建設的な役割を果たすこと(建設的関与)を表明しているが、その中身はいまだにはっきりとしない。米国のアフガニスタンへの内政干渉を批判してきた中国が、今度はアフガニスタンに関与すると表明し始めたため、中国が米国撤退後のアフガニスタンに進出を加速させるという見方もある。しかし経済支援を「建設的関与」と言っているのであれば、かつて米国勢力下のアフガニスタンに対しても経済支援をおこなっていた。現段階では、どれほどの進出になるのかは不透明である。
問題は、アフガニスタン情勢が「建設的関与」の中身を確定できる段階にないことにある。王毅外相が会見したバラダル師がその後失脚したこともあって、状況は予断を許さない。中国は目下のところ、ロシアと足並みをそろえてアフガニスタン新政権の動向を注視している。
今後、中国が「建設的関与」の名目で、経済、安全保障、「反テロ」といった分野で、アフガニスタンに関与していくことが想定されるが、それはかつての米国やソ連のような軍事的関与とは違ったものとなるであろう。またよく言われるように「帝国の墓場」にむやみに首を突っ込むほど、中国も愚かではないだろう。米国が出ていったから中国が出ていくかといえば、ことはそれほど単純ではない。
バナー写真:カタールの首都ドーハで、アフガニスタン・タリバン暫定政権のムッタキ外相代行(左)と肘を合わせる中国の王毅国務委員兼外交部長=2021年10月26日(新華社/共同通信イメージズ)