牧島かれんデジタル相に聞く(後編):持っている技術を使いこなし、課題解決を目指す
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人口減少社会に必要なアナログ規制見直し
竹中 政府はこのほど、現場の目視確認や対面講習の義務付けなどの「アナログ規制」について、約4000項目を見直すと発表した。既存の規制を7項目に分け、3つのフェーズに分類した上で、デジタル技術を広く利用する方針を打ち出している。この考え方はどのような経緯で出てきたのか。
牧島 日本は人口減少社会に入り、厳しい人手不足の状況にある現場も出ている。一方で、それを補う技術がないことはないのだが、それを活用できていない。その原因としては、慣習とか昔ながらのやり方が続いているということもあるかもしれないが、目視なり対面、常駐ということが法令に書いてあるからだ。そこを取り払うことによって新たな技術を活用し、人口減の中でも政策を遂行できるようにする。それによって企業の収益が上がり、働く方たちの利益にもつながるというところまで考えて進めている。
竹中 菅政権時代に閣議決定された「デジタルガバメント実行計画」(2020年12月)でも、既にアナログ規制撤廃の方向性について打ち出している。岸田政権の下での規制見直しはこれを踏まえたものか。
牧島 今回の規制改革は、目視、定期検査・点検、常駐・選任といった同じような特徴を持つ規制について、類型化し、フェーズを定めることによって、一括的・横断的に見直しを図るというものだが、このような手法による改革は岸田政権に入ってから新たに行われたものだ。
政策提言の立場から、現場の「司令官」に
竹中 2020年の自民党政務調査会のデジタル社会推進特別委員会、この委員会は当時大臣が事務局長を務められているが、そこで既に「デジタル田園都市構想」という(岸田政権の目玉政策となる)表現が出てくる。そこと岸田政権の現在の政策との連続性についてはどう考えるか。
牧島 私は長く(自民党内の)IT戦略特別委員会、デジタル社会推進特別委員会、デジタル社会推進本部と、名称は少しずつ変わったが、ずっと事務局長を務めてきた。また「デジタル・ニッポン」という提言を、IT担当大臣や官房長官、総理に毎年届けてきた。2020年は「デジタル田園都市構想」のほか、デジタル庁のような組織が政府に必要だと指摘している。この提言を受け取ったのが菅官房長官。その後、菅さんが首相となり、異例のスピードでデジタル庁設置につながった。
デジタル・ニッポンの21年版はタイトルに「アンリミテッド」という言葉を付けている。この意味だが、「地域には新たな技術を使って課題解決ができると信じている人たちがいる」「技術も世界に誇るものを持っている」、人も技術もアンリミテッドであり、「日本の底力はこんなものではない!」ということだ。しかし、使いこなせていないというのが問題で、デジタルの分野で規制改革を進めるべきだと提言に書いた。これを書いたのが当時事務局長の私と事務総長の小林史明さん(現デジタル副大臣)で、図らずもそれを受けて実行部隊になったという経緯だ。
オンライン免許講習も実証段階に
竹中 これまで目視で行ってきたトンネルや橋げたなどの目視検査をドローンに置き換えるというのは、非常に分かりやすい話だ。これまで菅政権以前の段階で、このような規制改革の方向性は議論されていたのだろうか。
牧島 国土交通省とか経済産業省とか、それぞれの現場を持っている部局では、検討されてきた歴史はあると思う。それを各省の政策に閉じずに全体として考えるとなった時に「対面規制を考える」とか「常駐規制を考える」というように大きな枠組みとして捉え直す作業をするのが「デジタル臨調」の役割だ。加えて、それぞれの規制の見直しにどのような技術を活用できるかという対応関係を整理した「テクノロジー・マップ」の作成についても作業を進めている。
竹中 一般的な市民とって、これらの改革によって生活がどう変わっていくのか。例えば、運転免許の更新の際、講習をネットで受けられるとかそのようなことになっていくのか。
牧島 既に4つの道府県(北海道、千葉県、京都府、山口県)で実証が行われ、ゴールド免許の方はオンライン講習でいいという方式が提供された。それを今後全国に広げる。ちなみに運転免許証も、マイナンバーカードと一体化していくという方針だ。
マイナンバーカードは「デジタル社会のパスポート」
竹中 マイナンバーカードと運転免許証が一体化したり、健康保険証として使えたりという取り組みについてだが、健康保険証の場合は診療記録がカードに記録され、他の医療機関に行った場合でもこれまでの治療状況が参照できるということになるのか。
牧島 マイナンバーカードの保険証利用により、現時点では、自身の特定健診の結果と「薬歴」を医師・薬剤師と共有することができ、より良い医療を受けることができる。また、マイナンバーカードの中に医療データが格納されるわけではなく、万が一カードを落としたりした場合などのセキュリティ対策にも配慮している。
マイナンバーカードで大事なことは、本人確認手段として最高位に位置付けられているということだ。例えば健康保険証も、現在も本人確認の手段として使われてはいるが、本人の顔写真が記録されてるわけではなく、懸念材料として認識したほうがいい。マイナンバーカード保険証では本人確認がしっかりできた上で、資格の確認ができたり、本人の意思をもって自分の診療記録を医師に見てもらったりすることが可能になる。
マイナンバーカードを本人確認の最高位のものとして、「デジタル社会のパスポート」として使いこなしていただくというのが大事だ。マイナンバーカードを健康保険証として利用することで、保険証をもう一枚持たなくてもよくなる、また保険証の発行自体がなくなる、そういう利便性もこれから追求していくことになる。
竹中 その「マイナ保険証」を医療機関で使うと、かえって診察料が高くなるということが起きてしまった。マイナンバーカードを普及させるためにインセンティブを付けるというなら分かるが、それに逆行する対応で批判されている。事前に官邸すら知らなかったという報道もある。なぜこのようなことが起きてしまったのか。
牧島 診療報酬については、中央社会保険医療協議会(中医協)における議論をもとに厚生労働相が決定することになる。
なお、今回の加算の評価は、医師・薬剤師に自分の薬剤情報や特定健診情報が共有され、よりよい医療を受けることが可能となる点を踏まえ、新設されたと承知しているが、厚生労働省がその影響を調査、検証の上、中医協で評価の在り方を議論していくこととしているので、デジタル庁としては、その議論をしっかり注視していきたい。
竹中 コロナ危機の時に注目を集め、政府部門のデジタル化の遅れを国民が痛感したのが、定額給付金を給付方法をめぐる混乱だった。国民に口座の登録を促すことについて、進捗状況はどうなっているか。
牧島 きょう6月30日から、「マイナポイント第二弾」というポイントが取得できるキャンペーンが始まった。マイナンバーカードの健康保険証としての利用申し込み、公金受取口座の登録のそれぞれで7500円分、計1万5000円分のポイントを受け取ることができる。さらに、「第一弾」キャンペーンの際のポイント(マイナンバーカード新規取得によるポイント)をまだ受け取っていない方には、最大5000円分のポイントが加わり、最大2万円分のポイントが付く。このキャンペーンにより、今後カード取得や保険証利用、公金受取口座登録も進んでいくと思っている。
デジタル社会の推進へ「勧告権」
竹中 「デジタル社会形成の司令塔」がデジタル庁のキャッチフレーズだが、他省庁との関係性などについてどのように考えているか。デジタル庁に認められている「総合調整」の機能を使って実質的に指示する場合もあるのか。
牧島 政府・地方公共団体におけるデジタル・インフラの構築、また見直しや助言のほかにも、デジタル庁はさまざまな役割を担っている。例えば公金受取口座の普及や、マイナンバーの制度について責任を持っている。一方で、マイナンバーカードの普及は総務省、医療機関におけるマイナンバーカードのカードリーダー導入については厚生労働省が担当するなど、連携しながら進めている。
今後は、準公共の分野でのデジタル社会推進に向けても関与していく。「健康・医療・介護」「教育、子ども」「防災」「モビリティ」など、生活に密接に関連し国による関与が大きく他の民間分野への波及効果が大きい分野について、デジタル化を進め、データの連携と活用のための整備に取り組む。これにより、個人のニーズに応じた最適なサービスが提供され、デジタル田園都市国家構想を実現する。
他府省庁との関係については、デジタル社会全体を考えた時に「ここの歩みがどう考えても遅い」というような場合には、これも異例なことだがデジタル庁は「勧告権」を与えられている。まだ一度も発令されたことはないが、この「勧告権を持っている」ということは大きなメッセージとして他府省庁に届いていると信じて動いている。
(2022年6月30日)
バナー写真:竹中治堅nippon.com編集企画委員長(左)と牧島かれんデジタル相=2022年6月30日、東京・紀尾井町(撮影・花井智子)