牧島かれんデジタル相に聞く(前編):3段階で日本の公共デジタル・インフラを構築、総点検
政治・外交 技術・デジタル- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
官民融合の組織発足から9月で満1年
竹中 デジタル庁のガバナンスについてまず伺いたい。2021年9月の発足時にデジタル監に就任した石倉洋子氏が4月に退任し、浅沼尚(たかし)氏に交代した。発足時に予定していた人が就任できなかったということもあった。事務方トップの人事が混乱しているようにも感じられるが、現状をどうお考えか。
牧島 デジタル庁は現時点で発足から10カ月が経過し、9月には満1年を迎える。霞が関のほかの官庁とは全く違う成り立ちの組織で、その特徴を最大限活かすことができるようにと心がけている。他府省庁なら官僚出身の事務次官がトップになるが、ここは民間出身のデジタル監という方がいて、この点が全く違う。官民融合の組織であるデジタル庁の一つの表現、象徴であると考えている。
組織を創り上げるということでは、経営戦略や経営組織等に関する専門家である石倉さんに就任いただいたことは、いいスタートを切ることができたと考えている。ご自身も、デジタル庁の形がある程度整ったならば、後進に譲るという気持ちは持っておられたようだった。その意向をもとに、浅沼さんが庁内の民間出身人材としてデジタル監を引き継いだ。CDO(Chief Design Officer)を務めてこられた経験も踏まえて、後任が内部から育ったということだ。
デザインの本質は「人間中心のアプローチで課題を解決すること」と浅沼さんは言っている。専門であるコミュニケーションという領域を持っている。国民の皆さんにとってデジタル庁が進めている政策、またはDX(デジタル・トランスフォーメーション)というものが私たちの生活にどういうメリットがあるのか、これを伝える役割を果たしていただけると思っている。
竹中 官民それぞれの人材が集まった組織で、その融合はうまく進んでいるか。一部のメディアが、民間出身者10人ほどが一斉に辞めたということを報じているが、こうしたことについてどうお考えか。
牧島 現在デジタル庁は約700人の体制。4月に「一期生」として新規採用も行った。約250人が民間からの人材で、これには非常勤の方も含まれている。週2日や3日、デジタル庁の仕事をする人もいて、これも霞が関の他の官庁とは違う点だ。明確に申し上げたいのは、報道にあったように10名近い若手職員が転職のためにデジタル庁を離職した、という事実はなく、任期満了に伴い離任した人はいた。3月末の切り替えで、民間人材が元々所属していた企業などに戻るケースはあったが、この時期に人の動きがあるのは当たり前。デジタル庁の前の準備室時代から関わっていただいた方は2年以上この仕事を続けており、この時点で交代したということだ。
官と民というだけでなく、霞が関の各府省庁間でも「文化の違い」というのはある。それは、いろいろなバックグラウンドを持った方がいるということであり、ポジティブに考えるべきではないか。働き方についても、デジタル庁では民間人材に限らずリモートワークが浸透しており、オフィスに登庁して仕事をしているのは全体の35%ほどだ。ただ、霞が関の官庁だけで使う専門用語について丁寧に話をするとか、グローバル企業が意識している「コミュニケーションの密度を上げる」点などは、必要なこととしてこれまで取り組んできた。
職員からの意見として、「自分が関わっていること以外の(デジタル庁の)仕事について、もう少し詳しく知りたい、そのような機会がほしい」というニーズが高い。とても前向きな反応で、昨年からそのような機会を増やしている。
ガバメントクラウドで変わる自治体の基幹システム
竹中 デジタル庁の主要な仕事の一つに、政府・自治体が使うコンピューターシステムの整備・運用がある。①デジタル庁システム、②デジタル庁・各府省共同プロジェクト型システム、③各府省システム(①及び②以外のシステム)の3つに分類し、①②はデジタル庁が自ら行うことを打ち出しているが、具体的に①、②、③に当てはまるものはそれぞれどのようなものか。共通システムの整備は進んでいるのか。
牧島 ①デジタル庁システムは、国の情報システムのうち、各府省庁が共通で使用するシステム、各府省庁がシステムを整備する上で基盤となるシステム、緊急性が高く、政策的にも重要性が高いもので、その整備と運用をデジタル庁が担当する。
例えば、政府共通のクラウドサービス利用環境となるガバメントクラウドや、高度化する脅威に対応したゼロトラストアーキテクチャーに基づいて利便性とセキュリティーの両面を確保したネットワーク環境、ガバメントソリューションサービス(GSS)などが該当する。
②デジタル庁・各府省共同プロジェクト型システムは、整備はデジタル庁と各府省庁が共同で行い、運用は各府省庁が担当する。例えばVRS(ワクチン接種記録システム)などだ。③各府省システムは、それ以外の全ての国の情報システムとなる。各府省庁における固有の業務に用いるものとして、各府省庁が整備及び運用するが、各府省庁がバラバラでサイロ化したシステムを構築することのないよう、デジタル庁において共通的な方針を示したり、必要に応じて技術的な助言を行う。
竹中 ガバメントクラウドができると、何が大きく変わるのか。
牧島 大きな成果としては、全国1741の基礎自治体がそれぞれにシステムを作らなくてもよくなるということだ。一方、公共のシステムが、全てガバメントクラウドに乗るということではない。既につくり上げられている大きなシステムについては、そのままの形でシステムが維持されるのがいいのか、それとも別の形があり得るのかについては、デジタル庁としてももちろん考えていく。
竹中 これまで政府の各府省庁、また地方公共団体がそれぞれ別々にシステムを発注し、非常に無駄が多いとの指摘があった。今後は地方公共団体のシステム発注が大きく減る効果が期待できるという理解でいいか。
牧島 地方公共団体の20の基幹業務システムの統一・標準化が既に決まっているので、少なくとも、この20分野については隣の自治体と違うシステムをわざわざ独自につくる必要はなくなり、ガバメントクラウド上に構築された標準基準を満たすアプリケーションの中から自らに適したものを効率的かつ効果的に選択することが可能となる。現在、システムに投じられている自治体のリソースを、真に住民サービスを必要とする住民に手を差し伸べることができるようにする。2025年には全自治体にこのガバメントクラウドを使うようにしてほしいと伝えている。
竹中 年金とか国税庁のシステムとか、それ以外のシステムを今後どうするかは、このガバメントクラウドとはまた別に考えていくということか。
牧島 ②、③のシステムがどのように運用されていくのか、今後の見通しを考えたり、その予算や業務のやり方自体を見直した方がいいのかどうかについてやり取りを始めているものもある。
竹中 国の情報システムの予算をデジタル庁に一括計上することで、どのような変化が期待できるのか。
牧島 デジタル庁の持っている知見を、各府省庁に助言という形で伝えられるようになる。ほかの省庁が持つシステムの詳細について分かっているので、(それと比較して)より効果的な方法は何なのか、その省庁だけでは気付かない点についてアドバイスできるのは大きな効果となるのではないか。
クラウド発注はフェアなルールで
竹中 ガバメントクラウドの発注先がアマゾン(AWS)とグーグル(GCP)になったことについて、経済安全保障という観点から日本企業に一部を担ってもらいたいという意見もある一方で、そこにはかなり高い技術的な壁があるという指摘もある。この点はどのようにお考えか。
牧島 クラウドに必要な要件は、明確に提示している。またマルチクラウドであるということで、一社だけではなくその要件を満たすところは採択される、フェアなルールで出している。この要件を満たしていれば、それが安全の確保につながるということに尽きるのではないか。情報の機密性のレベルという点で考える軸というのはあり得るが、技術力の評価という点においては国内外で差異をつけるべきではない。
(2022年6月30日)
まとめ:nippon.com編集部・石井雅仁
バナー写真:インタビューに答える牧島かれんデジタル相=2022年6月30日、東京・紀尾井町(撮影・花井智子)