自治の独立性とシステム・データの独立性を分けて考える :デジタル庁の見取り図(後編)
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(前編)はこちらからお読みいただけます
デジタル庁には2000人のエンジニアが必要
竹中 デジタル庁で新たなシステムを作るとした際、必要な技術者の数はどのくらいになるのでしょうか。
川邊 ヤフーの場合、3000人ぐらいの技術者が8000万人に向けたサービスを提供している。これはフロントエンドも含めた人員だが、デジタル庁の場合は敢えて仮に算出すると2000人といったところか。
また、ここできちっと考えなければならないのは、政府がデジタル庁を作っても、そこに地方自治体が参加しなければ、それぞれの持つ情報を「疎結合」しないで終わってしまうわけで、住民に向けたサービスの向上なども夢のままで終わってしまう。
「デジタル敗戦」のまま放置するわけにはいかない
いま、こういう機運が盛り上がってきて、地方自治体と政府の間で作り上げるべきコンセンサスは、地方自治の独立性とシステム・データ的な独立性とは分けて考えるべきだということだ。不適切なデータの利用については、別の方式できちんと規制する。「法律でシステム要件をしばる」ことはやめてほしい。
全国の都道府県や市区町村はそれぞれに個人情報保護の条例などを定めていて、個人情報の定義も統一されていない。いわゆる “条例2000個問題” と呼ばれているが、これが壁となって本来は住民サービスのために必要な個人データをやりとりできない弊害が生じている。
公的なネット利用をめぐる問題は複雑で、そもそも1700なりの自治体固有のシステムが存在していて、民間のネット事業者がどうこう言える状況にはなかった。
ヤフーでもこの10年来、災害時の避難所情報など、災害情報を伝えるサービスを進めてきたが、個別の自治体それぞれと話をしなければならないため非常に時間がかかる。なかなか簡単にはいかない。
しかし、韓国やリトアニアといった国はITをきちんと活用している。このまま日本の状況を「デジタル敗戦」のまま放置するわけにはいかないと思う。ここで、政府のイニシアチブを応援すべきだと考える。
【在宅勤務八策(5~8)】
策5 法律・条例: 「法律によってシステムを縛る」が今日の“デジタル敗戦”的状況の一因となっている。目的・ビジョンに合致したシステム構成と公共部門サービスの簡便なUIまでデザインした上で、それらを法律化する。地方自治の本旨に基づきながら、いわゆる“条例2000個問題”の抜本的解決を行う。地方自治の独立性とシステム的、データ的な独立性とは峻別してしかるべきであるというコンセンサスを国と地方自治体との間に作り上げる。
策6 牽制: 近くは住基ネットの最高裁判決、古くは戦時体制の反省に鑑みて、集約化された公共部門のシステムやデータを政府によって不適切に利用されないように個人情報保護委員会の権能や独立性をより強化して、デジタル庁へのガバナンスを利かせる。
策7 組織文化: 失敗を恐れない。デジタル化の要諦は圧倒的なユーザー体験(利便性)の追求とスピーディな開発、データの利活用も含むPDCAサイクルの構築であるので、小さな失敗を前提とした開発や利用と継続的改善を行う。失敗は進化の種と受け止め、報道機関や利用者など社会全般で、前向きに受容する。
策8 人材登用: 回転ドア。デジタル化の世界的潮流は民間部門において先行しているので、構成人員は民間人を積極的に登用すべき。官僚も含む一線級の人財を確保する為に給与を民間相場にする。官民の馴れ合いを防ぐためにドアの回転速度は速くする。フロントエンド部分は民間事業者の参入を促進させる。
*策1~4は(前編)に掲載
理想とスピード感持って進んでいける
竹中 民間で応援できる部分は何か。
川邊 やはりデジタル庁が「間違った建て付け」にならないように、側面支援していくこと、また人材の面で、クラウドを構築できる技術者を日本IT団体連盟に加盟する各社が出せるようにする。デジタル庁で貴重な経験をした人にはきちんと処遇することも必要だ。
竹中 平井卓也・デジタル担当大臣など、政府のこれまでの動きについてどう見ているか。菅首相ともお話になっているが。
川邊 理想的な姿勢を保って進んでいるのは期待できる。また、スピード感を持ってやっているところもいいのではないか。あとは「バックエンド」を構築できるかどうかが直近の技術的課題だ。少し先の話になるが、新たなシステムを作って各自治体がイノベーティブなサービスを展開できるかもカギになる。
(インタビューはリモート形式で11月に行った)
バナー写真 : デジタル改革関連法案準備室の立ち上げ式で記念撮影する菅義偉首相(左)と平井卓也デジタル改革担当相(左)2020年9月[代表撮影](時事)