
部隊派遣なき時代の国際平和協力
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技術力を呼び水にして中枢部に要員派遣を
日本の経済力や技術力には、一時と比べれば陰りが見える。だが端的に言って、国際平和協力活動は、最も豊富な技術投資をしている国が、最高機密技術を駆使して活動を展開していく場ではない。また、超大国が世界最先端の軍事技術を投入して国際平和協力活動を主導するはずもない。とすれば、日本の技術力の比較優位性をまだ十分に保てる分野であるはずだ。
日本は現在、ロジスティクスを鍵概念にして、施設部隊派遣で培った経験をもとに国連PKOに関与しようとしている。それもいいだろう。だがもう少し拡張できないか。例えば、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)である。ちなみに過去の話だが、自衛隊はイラクでUAV=ドローンを使っていた。今後も発展的な運用を目指して維持・開発すべきだろう。衛星回線を駆使した情報収集に用いる高性能UAVの提供には、それを高度な解析能力で分析する要員の派遣とも連動してくる。つまり、JMAC(Joint Mission Analysis Centre)などの情報収集解析を扱う枢要な部門に人員提供する間口を確保できる。
また、外部勢力からの攻撃が増えつつある状況を踏まえて、緊急医療チームと合わせてUAVを含めて諜報(ちょうほう)・輸送・通信手段などを提供することも、極めて価値のある政策になってくるはずだ。いずれにせよ、機密情報に関わる部門に質の高い要員を送ることは、部隊派遣なき国際平和協力の時代には、存在感を示す上でも重要な意味を持つ。技術力を呼び水にして、中枢に人を送り込みたい。
PKO訓練センターを通じて能力構築を支援
能力構築支援は、現代の国際平和協力においては、必須の戦略概念である。オーナーシップを重視した能力構築活動を適切に位置づけることなくして、いかなる国際平和活動においてもその見通しを立てることはできない。幸運なことに、日本は過去10年ほどの間、継続してアフリカ諸国のPKO訓練センターの支援をしてきている。現在の日本にとって、これに勝る資産はない。
エジプトのアフリカ紛争解決平和維持訓練カイロ地域センター(CCCPA)、ケニアの国際平和支援訓練センター(IPSTC)、ガーナのコフィ・アナン国際平和維持訓練センター(KAIPTC)、ナイジェリアの国防大学戦略研究センター(CSRS)などとのつながりは、アフリカ諸国の能力構築で貢献を果たしていくために、不可欠な窓口だ。人材交流、情報交換、機材提供、政策討議などをこれらの訓練センターを通じて積極的に進めていくべきだ。
アフリカの地域機構との連携強化が重要
パートナーシップは、現代の国際平和協力活動を特徴づけるキーワードの一つである。現在アフリカで展開している国連PKOの全てが、つまり21世紀になってから設立された国連PKOの全てが、そして国連レバノン暫定駐留軍を唯一の例外とする大規模国連PKOの全てが、アフリカの地域機構(アフリカ連合:AU)または準地域機構(西アフリカ諸国経済共同体:ECOWAS、南部アフリカ開発共同体:SADC、政府間開発機構:IGADなど)と連携して行われている。
2015年の国連事務総長報告書でも明らかなように、こうしたパートナーシップ型のPKOは、もはや例外ではなく常態的な規範なのである(※1)。あえて国連本体に部隊派遣しないのであれば、国連とパートナーシップを組むアフリカの地域機構と連携し、それらの組織を側面支援することで、自らの存在感を示すしかない。
北東アジアに位置する日本は、実質活動をする地域機構に属さない、現代世界ではまれな環境に置かれている国である。このことは、日本の国際平和活動のすそ野を広げるにあたって、大きな足かせになっている。克服するためには、日本が関心を持つ国際平和協力活動に活発に従事しているアフリカの地域機構との連携を強化するしかない。
具体的に言えば、準地域機構が行う活動を積極的に支援することを足掛かりにして、日本の人材が国際平和協力活動の現場を経験する間口を確保していきたい。アフリカの準地域機構が行っている外交努力を積極的・多角的に支援することを通じて、政府間協力の基盤も強化したい。自衛隊はジブチに基地を持っている。ソマリアにおけるAUの活動も支援できないか。
その延長線上には、地域横断的なパートナーシップの構築を「インド太平洋戦略」の一環として体系的に位置付ける作業がある。アフリカとの関係構築を「インド太平洋戦略」の中で位置づけ、国際平和協力活動を通じた関係強化によって、「インド太平洋戦略」それ自体の強化も図りたい。そのためには、アフリカでは極めて存在感の大きい地域機構・準地域機構との連携が決定的に重要になる。
新しい国際平和協力の在り方を防衛大綱に
本稿では、部隊派遣なき国際平和協力の時代をにらんで、「技術」「能力構築」「パートナーシップ」を鍵とした新しい国際平和協力の在り方を、防衛大綱でも打ち出していくべきであることを論じた。
いずれにせよ、発想の転換が必要である。新しい防衛大綱では、現状の閉塞感をごまかしたりすることなく、地に足の着いた現実的な国際平和協力活動を発展させるための政策的視座を、ぜひとも積極的に打ち出してもらいたい。
バナー写真=南スーダン国連平和維持活動(PKO)を終えた陸上自衛隊施設部隊の隊旗返還式に臨む隊員。帽子には国連旗のバッジが掲げられていた。2017年5月30日。東京都新宿区の防衛省(時事)(※1) ^ Secretary-General’s Report “Partnering for Peace: Moving towards Partnership Peacekeeping,” UN Document S/2015/229, 1 April 2015, para.57.