
一帯一路と日中関係:提携と競存、けん制の多国間枠組み構築を
国際 政治・外交- English
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何が問題なのか
しかし、欧米やインドだけでなく日本においても、また一帯一路の空間においても、この構想の問題性を指摘する声は少なくない。中国のプロジェクトの進め方、そして建設された施設やインフラの問題性もあるのだが、秩序に関わる問題としては以下の数点が挙げられるだろう。
第一に、経済と政治、軍事安全保障の問題である。先進国とて経済力を国力の基礎とし、また国際秩序を乱す国に対して経済制裁を行うなど、経済力は外交政策の手段であった。日本の政府開発援助(ODA)などもその一例だ。その点では中国の一帯一路だけを批判するのも難しい。だが中国の場合、世界第2位の経済力をまずは活用し、その後に世界第3位の軍事力が付いてくるといった形態を明確にとっている面がある。
また、その経済活動を海外で行う企業の多くが国有企業であり、そこに資金を流し込んでいるのが国営の中国輸出入銀行だという問題性がある。国家事業的色彩が他の先進国よりもはるかに強く、「民間」の経済活動と思われるものが国家戦略の下に強く位置付けられていることには留意が必要だ。
第二に、これは貸し付けの面で、OECD開発援助委員会(DAC)の標準ではできないような金額を途上国に貸しつけ、そのために相手国の財政が危機にひんするという事態が多々生じているという点である。
多額のローンを受け入れる途上国の指導者からすれば、先進国は財政の健全性を理由に十分な資金を提供してくれないのに対し、中国であれば自らの任期中に素早く、十分な資金を調達してくれる。こうした意味で、中国は既存の秩序の変更者だということになる。
ワシントンのシンクタンクCenter for Global Developmentが昨今出した“Examining the Debt Implications of the Belt and Road Initiative from a Policy Perspective”(※1)というレポートは、具体的に8カ国の財政が、中国の過度の貸し付けによって危機的な状況にあると指摘している。こうした国々がどのような方法で債務を支払うのか。それは港湾経営権や鉱山利権、あるいは軍事安全保障面での利権かもしれない。
第三に、中国がGPSや治安システムを提供し、それを権威主義体制の下にある国々の指導者が受け入れることで、その体制の維持につながるとともに、中国自身が指導者も含めてそうした国々の個人情報を容易に入手できるようになるという問題もある。だが、この点についても、英国や米国など、かつての覇権国は基本的に情報インフラを掌握し、そこからインテリジェンスを得てきたのだから、中国だけがなぜ批判されるのか、という声が中国側から聞こえてくる。
だが、情報公開や異議申し立てなどの民主主義的な制度がない状態で、一方的に情報が中国政府や中国共産党に流れていくシステムは、中国国内においても、また国際的にも、既存の秩序とは異なるとみなされるであろう。
既存の秩序維持に向けた魅力的な枠組み形成を
では、国際社会はいかに中国に関与すべきか。
第一に、日本などが提唱している「自由で開かれたインド太平洋」というコンセプトにあるように、既存の秩序を維持するための枠組みを多国間で形成し、そこに多くの国のコミットメントを求めていくことである。これは、中国の一帯一路構想への対抗ということよりも、むしろ提携しつつ競存し、かつ牽制するという多様な意味合いをもつ。ただし、それが多くの国にとって魅力的な枠組みとならなければ、日豪印、あるいは米国など旗振り国の独善的なイニシアティブに映る。
第二に、中国の一帯一路構想、あるいはその上位にある新型国際関係にまつわる諸政策について、既存の経済、金融秩序の枠の中で実施するよう促していくことである。そのためには、中国から支援を受ける国との連携や、こうした途上国などが主体的に中国と関われるようにするためのオーナーシップの増強が必要となる。
特に民主主義や人権について硬い基準を設け、そこから外れた国や政府への支援を停止するなどといったゼロサム的な姿勢ではなく、各国政府や現地の社会状況に寄り添う姿勢を示すべきだ。なお、一帯一路構想などを批判するだけでなく、中国との共同プロジェクトなどを進めていくことも必要だろう。
第三に、特に中国の軍事的な行動やインテリジェンス面での活動について、それをチェックし、情報交換して状況認識を確認する枠組みをインド太平洋地域において作るべきである。中国の拡大については多くの懸念があるものの、スリランカ南部の港の経営権を99年間にわたり獲得したとはいえ、目下のところ軍艦は寄港していないようだ。
こうした点についての情報交換は重要だろう。また、この枠組みでは、同時に中国へのさまざまな働き掛けがどのような成果を生んでいるのかということや、中国側の認識などについても詳細に検討すべきである。
バナー写真:北京で開かれた一帯一路フォーラムの締めくくりに記者会見する中国の習近平国家主席=2017年5月15日(ロイター/アフロ)