習近平2期目の中国と日本

一帯一路と日中関係:提携と競存、けん制の多国間枠組み構築を

国際 政治・外交

「一帯一路」構想の名の下、ユーラシア全体から東アフリカ、北アフリカ、太平洋の一部でインフラ開発を推し進め、影響力を高める中国の習近平政権。問題点も指摘されるこの動きに対し、日本を含む国際社会はどのように関与すべきなのか。

一帯一路構想の背景:中国の国内経済てこ入れも

一帯一路構想は胡錦濤政権以来の周辺外交を基礎として、2013年に習近平がカザフスタンで提起した構想とされる。胡錦濤政権は周辺外交を進めたが、その成果である東南アジア諸国連合(ASEAN)+中国、中国+南アジア地域協力連合(SAARC)、中国+16(中欧・東欧)、上海協力機構(SCO)などを組み合わせ、さらにこの地域で行われていたインフラ建設プロジェクトをあたかも一つの構想の下にあったかのように束ねて見せようとしたのがこの一帯一路構想だとも言える。

無論、この構想が提起された背景には国内の経済事情もあった。リーマンショック後の過剰投資による過剰生産物の処理という意味合い、また中国国内の各地方をこの計画に関連づけることによって、すでに中国国内で需要が一段落して仕事の減っていた、各地のインフラ系の国有企業に息吹を与えることなどが想定されていたものと考えられる。

国際環境が後押し、政策は予想外に進展


この一帯一路政策は単なるディスプレイということではなく、意外にも成功裏に進んだ。その背景には、折しも日米欧による投資が量的に縮小し、また先進国が忌避する権威主義体制下にある国々が増加しつつあることもあって、中国からの援助や投資を歓迎する国際環境があった。中国からの支援は、一般的に金額が多く、手続きも簡便で速く、民主や人権についての条件が付けられないことが多い。無論、うまくいかない案件も少なくないのだが、中国は一帯一路圏やアフリカなどの国から「選ばれる」傾向にある。また中国は一帯一路構想が比較的順調に進む中で、鉄道や港湾、道路などといったインフラのみならず、衛星利用測位システム(GPS)などをはじめとした包括的な国際公共財を意識的に提供するようになった。顔認証システムを使った治安システムや、アリペイによるキャッシュレス決済システムなどもその一部だ。こうした国際公共財の意識的な提供は、習近平政権の新たな傾向だろう。胡錦濤政権期にはグローバル・ガバナンスの形成への関与には熱心だったが、国際公共財の提供は不十分だった。こうした物理的な国際公共財のほかに、地域秩序像を示そうとしていることも習近平政権下の特徴として特記すべきだ。この一帯一路関連では、アジア新安全保障観などが新たな地域像と言えるだろう。今世紀に入った頃には中国が「アジア」を語ることは決して多くなかったが、昨今はそのような地域像の提供者にもなろうとしている。

「新型」国際関係実現に向けた実験場


こうした中で、中国は2017年には一帯一路フォーラムを開催して第一期習近平政権の外交成果にするとともに、第19回党大会では対外政策の面で経済関係に基づくパートナーシップの連鎖としての新型国際関係を提起し、一帯一路をその下に位置付けた。一帯一路は新型国際関係実現のための実験場と位置付けられるようになったのである。すなわち、空間としてはおよそユーラシア全体、東アフリカ、北アフリカ、あるいは太平洋の一部などを含み、その空間でインフラ投資などを推し進めながら、国家間関係、民間関係を強化しながら、パートナーシップを拡大していくという構想だという位置付けになったのである。また、この一帯一路構想が進められる過程で、国際的な評価にも一定の変化が見られ始めた。一帯一路空間にある途上国の多くは、この構想の問題点を知りながらも中国からの投資を受け入れるようになった。また、日本では17年からこの構想に対して肯定的な評価が見られ始め、逆にもともと中国との経済関係強化を肯定的に見ていた欧米やインドなどでは、この構想への批判的な見解が見られるようになった。これはもともとの対中認識の相違に由来する面があり、中国への警戒心が弱かった欧米やインドなどで対中警戒論が拡大し、もともと警戒心が強かった日本では逆の現象が見られるようになったということだろう。安倍首相は17年6月開催の国際交流会議・アジアの未来(日本経済新聞社主催)から一帯一路評価を調整し、「透明性で公正な調達によって整備されること」「プロジェクトに経済性があり、借り入れをして整備する国にとって、債務が返済可能で、財政の健全性が損なわれないこと」などを条件として、肯定的な評価をするようになった。そして17年末には、物流や環境など、具体的に日中で協力可能な領域を安倍政権が具体的に示すに至ったのである。

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