安保法制をめぐる現象からみる日本の今

抵抗政党としての民主党—「対案」と「廃案」の間で

政治・外交 社会

政権与党であった民主党の安保法制反対運動への「無責任」な相乗り―その政治的背景を分析し、野党第一党として今後残された唯一の選択肢を提示する。

反対運動への相乗りは民主党にとっての「合理的選択」

民主党の側から見た場合に、国会論戦を通じて法案の問題点を明らかにし、有権者にアピールすることには、十分な効果が期待できなかった。安保法制の場合、審議の初期にはそのような姿勢が見られたものの、衆議院の憲法調査会に招かれた憲法学者が揃って違憲という見解を打ち出すまでは、論戦に対する注目度は低調であった。しかも、有権者の政策的優先順位は経済に置かれることが通例で、安保法制への疑義が安倍内閣や与党への支持を決定的に押し下げ、今後の選挙に大きな影響を与えるとは考えがたかった。

他方で、対案を提示することにも積極的な意味は見いだせなかった。衆参両院で与党が過半数を確保している以上、与党・内閣が成立に全力を挙げている最重要法案について、野党第一党からの全面的な修正案をのむはずはない。かといって部分修正では、小さな譲歩の代わりに法案そのものへの賛成を迫られる。与党・内閣は、一方的に法案を押し通したという非難を回避するために多少の譲歩をするつもりはあっただろうが、それは小政党の賛成を得られれば事足りるのであって、民主党に譲歩する理由はなかったであろう。

安保法制への反対運動が広がりを見せたとき、民主党にとって最も合理的に思われた選択はそれに相乗りすることであった。国会外の反対運動は、全体として見れば超党派の色彩が強く、何よりもマスメディアがそのように伝えていた。これに乗れば、国会論戦での問題点の指摘や対案の提示よりも、明確かつ迅速に広範な有権者にアピールできる。

「無責任」に幻想を振りまいた結果、支持は伸びず

だが、このような民主党の選択は、実際には期待されたほどの効果は得られなかった。安保法制が成立した後の各種世論調査では、安倍内閣への支持率は低落したとはいえ依然として40%前後を維持している。何よりも民主党自体への支持が上向かず、自民党との差は大きいままである。政権交代の機運は全く熟していないように見える。

深刻なのは、結局のところ民主党が国会外の反対運動を利用しようとして失敗したことだと思われる。単独政権タイプの政策決定である以上、国会外の運動とどれだけ連携しても、安保法制を廃案に追い込むことは不可能であった。与党経験もある民主党、とくにその幹部たちが、それを知らなかったとは考えられない。

デモに合流し、初めて反対運動に参加したような人々に、強い主張をすれば廃案にできるという幻想を振りまくことは、かえって民主党以外の野党に支持を向かわせた。政党名まで変える「解党」が妙案だとは思えないが、政権を目指す政党に似つかわしくない無責任さが復調を妨げているという意識を持たない限り、展望は開けないのではないか。

粘り強く遠回りするしか道はない

結局のところ、野党が単独政権タイプの議会で担う教科書的役割に立ち返るところにしか、民主党の活路はないように思われる。どれだけ注目度が低く、短期的な効果がないように見えても、粘り強く論戦を展開していくこと。

それと並行して、個別法案への単なる強い批判だけではなく、与党の政策路線に対する総体的な代替案を練り上げていくこと。そして、できるだけ多くの小政党議員を自党に合流させること。遠回りに見えても、それが政権奪還を目指す野党第一党の唯一の道である。

(2015年11月17日 記)

タイトル写真=安全保障関連法案に反対するデモに参加する民主党の枝野幸男幹事長(中央)ら(2015年7月15日、東京永田町)/時事

 

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