
ガバナンス向上を求め「ルール違反」を徹底追求—村上絢 ・C&I Holdings CEOに聞く
経済・ビジネス- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
1999年に元通産相官僚の村上世彰(よしあき)氏が中心となって設立した投資グループ「村上ファンド」は、保有資産を持て余し株価が割安で推移する企業に投資し、株主還元の拡大や事業売却などを強く求める「もの言う株主」として注目を集めた。2006年、村上氏はライブドアによるニッポン放送株の買収に絡み、インサイダー容疑で逮捕、起訴され、ファンドも解散した。
その「村上ファンド」の流れをくむ「C&I Holdings(HD)」は、コーポレート・ガバナンスの適正化を全面に押し出し、投資先企業の企業価値向上を強く求めている。現在、東証一部上場会社で国内トップの電子部品商社である黒田電気に対し、株主還元の拡大や手元資金の活用などガバナンスの強化を強く求め、世彰氏を含む4人の社外取締役の選任を求めるなどのアクションを起こし、「もの言う株主」として再び注目を集めている。C&I Holdings代表の村上絢氏に話を聞いた。
PBR(株価純資産倍率)の低い「割安株」を買う
——まずC&I Holdingsの投資方針に関してお伺いしたい。投資対象の判断、投資家としての要求のスタンスはどのようなものですか。
村上絢CEO 基本的にC&Iは全て村上家の個人資金で運営しています。以前父(村上世彰氏)がやっていたころはお客さまから資金を預かっているということがあって、受託者責任というものがありました。今は基本的に全リスクを自分たちで取る。ですから、投資期間が長めでも可能だということです。
基本的に買うのは割安株です。よくコーポレート・ガバナンスが利いていない会社のみを買っていると誤解されがちですが、割安株は顕著にコーポレート・ガバナンスが利いていないことが多いので、あくまでも結果的にコーポレート・ガバナンスが利いていない会社に投資していることが多くなってしまう。
では、「割安」の判断の基準はというと、もちろんPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)があります。例えば日米の株式市場を比較した場合、PERで比較するとほとんど差がない。
逆にPBRで見るとアメリカは3倍で日本は1.5倍とかなりの差があります。そういう意味ではPBRが割安な会社が日本にはすごく多いんですね。
今後、(昨年導入された)「スチュワードシップ・コード」【編集部注:日本での正式名称は「責任ある機関投資家」の諸原則】、(今年6月に導入された)「コーポレートガバナンス・コード」を踏まえて、日本が今後どこで株価を向上させる余地があるかといえば、やはりPBRです。なので、PBRが1倍を割れている会社が、投資対象としては基本的に多くなります。
業界再編も視野に入れた中長期的な投資
——例えばC&Iのように中長期的な視野を持って割安株に注目する投資会社は、日本の投資の世界の中ではまだ特異な存在だと思われますか。
村上 「特異」だとは思っていませんが、周囲からはよくそういわれます。何が特異なのかと考えると、多分、最終的には敵対的になってしまっても行動を起こすというところなのかなと思います。それがより「特異」に映る理由としては、投資理念としてコーポレート・ガバナンスをずっと掲げていているところでしょう。
10年前、父が「村上ファンド」の代表をしていた時代から、基本的にスタンスは変わっていません。ただ、当時はガバナンスという言葉が世の中に全く浸透していなかった。今は、コーポレート・ガバナンスを重視する動きになっています。ただ、変わりつつあるとはいえ、まだ皆さん、株主還元とか、自己株取得、配当政策などに目が行きがちです。
私たちがずっと言っているのは資本効率の向上で、その中には株主還元、配当政策だけではなく、業界再編、企業買収、合併や、最終的に(投資対象の)会社の売却といった可能性も視野に入れています。
ですから(いわゆる)投資ファンドと比べて何が違うかというと、包括的な資本効率の向上を(企業側に)強く訴えていることだと思います。場合によっては投資期間が長くなったり、IRR(内部収益率)で見ると低くなったりしてしまう。でも投資ファンドはお客さまの資金を扱っているのでそれはできないと思います。
C&Iはコーポレート・ガバナンス、資本効率の向上を追求しているので、中長期的な企業価値向上につながる投資を目指すだめに、投資行動が投資ファンドとは少し変わってきて、よって特異に見られることがあるのかなと思います。
利益追求ではなく経営者の「ルール違反」が大問題
——日本にはまだ、企業に投資して利益を得るということに対する倫理的な拒絶感のようなものが社会にある一方で、企業は企業のもの、しかも経営の権限を持つごく限られた利害関係者のためだけに動くことが許容されている企業風土が残っている気がします。
村上 基本的には以前に比べたらコーポレートガバナンス・コードによって、(企業行動は)飛躍的に良くはなっていると思います。つまり、法的には縛られないけれども、上場企業が参照すべき指針が出てきて、今後これから投資家と対話する時もこのコードが前提となることが多くなるでしょうから、より一層企業経営者は変わってくると思います。
ただ社会全体がどうかという話になると、やはり投資によって利益を得ることに対する反発は、いまだに大きいのかなとは思いますね。日本の社会には、お金を儲けるとか、利益を追求するということに対して、是としないみたいな風潮はいまだに少し残っている気がします。
例えば東芝の不正会計を例にとると、当期利益追求のプレッシャーによって、当期純利益を前倒しをしたために結局こういう不祥事になってしまった、つまり利益追求がいけないということになる。でもいけないのはあくまでもルール違反をしたことで、利益追求はどの経営者もやることです。
——C&I が大株主となった黒田電気の経営陣との対立が話題となっています。8月21日、黒田電気が臨時株主総会を開き、村上さんが要求していた社外取締役の件が否決されました。黒田電気は、C&I側の提案に反対する従業員の声明文などを出して、他の株主を説得する材料にしています。
村上 我々は、黒田電気が出した従業員の声明文というものが、実はねつ造だということを従業員の内部告発によって知り得ることができました。声明文は(黒田電気の)会長、社長の指示で作成されたという証拠となる録音データも入手しています【編注:9月10日、黒田電気は社外調査委員会を設けて、声明文の「ねつ造」疑惑を調査すると発表】。声明文を出したのは、自分たちに有利になるように投資家の議決権行使を促すためです。株主総会という神聖な場で、会社がねつ造文書によって議決権行使を促すというのは大問題であり、極めて大きなルール違反です。これを許してしまうと、日本のガバナンスは向上しないので、きちんとしたプロセスを踏んで追及していくつもりです。