
饒舌なAV女優とニッポンの「おじさん社会」
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「なぜAV女優になったか」を語る饒舌さの背景
私には、インタビューでかいま見られる彼女たちの饒舌さと、その饒舌さを形づくる言葉もまた、頑なな視点で彼女たちを見据える視聴者の価値基準を一度飲み込んだ上での、彼女たちなりのレジスタンスを孕んだものに見えるのである。
あらゆる場で、彼女たちに向けられる問いかけは「どうしてAVに出演してみようと思ったの?」「なぜAV女優になったの?」というものである。そしてどの媒体をのぞいてみても、彼女たちは実に巧みにAV女優になったワケを語る。その流暢さは世間に、彼女たちがAV女優になった理由は確固としたものであり、彼女たちは「普通の人」(つまりAV女優にならない女性)とは別の存在であり、苦しい状況を打破するため、あるいは自分の好きなことを思いっきり達成するためにAVに出演しているのだと確信させる。
これはプロダクション面接やメーカーへの営業面接で繰り返し問われる問いでもあり、彼女たちはまず、プロダクションやメーカーに好印象やインパクトを残したり作品構想の引っ掛かりになるような自己アピールをするために、その語りを鍛えている。つまり饒舌に「見える」AV女優は、そういった業界の事情により自然発生的につくられるものであるというのが、前著での私の論点であった。彼女たちが確固とした理由でAVに出演している姿は、業務内で鍛えられた彼女たちの饒舌さが支えているという側面はたしかにある。
その姿はある意味では偶発的に、AV女優を自分の身の回りにいる女性と一線を画した存在にしておきたい視聴者たちの欲望に相性良く合致する。世間は彼女たちの働く理由に安心して、彼女たちを特異な存在の枠内に押し込める。
男性が性的アイコンである彼女たちを楽しみながら、自分の親しい女性がもしAVに出演していた事実が判明すると強くそれを拒絶するのは、男性にとって性的な楽しみになる対象である女性が、自分と机を並べて仕事をしたり、あるいは自分の生活の世話をしたりする女性とは別物であると錯覚したい願望の表れだといえる。
おじさんたちの相反する眼差し
しかし、業界内のしきたりと業務によって鍛えられた姿ではからずも世間に安心感を与えているAV女優たちが、自分たちがどのような姿に見えるかについて、完全に無知で無頓着であるわけではない。彼女たちは世間が自分らを愛しながら奇異の眼差しを向けていることを、感覚的によく知っている。インタビューで過激な経験を話せば注目され、AV女優になった理由が特異なものであるほどもてはやされ、最初は普通の女の子でありながらもAV女優に出演することになったエピソードを幾度となく求められる。
それだけでなく、多くのAV女優たちが家族や同僚にAV出演の事実を隠して仕事をしているため、また、AV出演まではAV女優ではない存在として社会と接してきた経験があるため、自分がAVに出演することを知らない男性たちのAV女優に対する眼差しを「AV女優ではない存在として」見ることにも慣れている。
彼女たちはAV女優という存在に都合よく出入りして、そのどちら側からも、男性の欲望に接することができる。おじさんたちがAV女優としての自分たちにあくまで明るく性的であることを求めながら、AV女優ではない自分たちには「AV女優のような存在」にならないことを求めていることを、彼女たちは経験的に知ることになる。
「普段の自分」を守りながらAV女優を演じる
そこに、彼女たちの欲望が入り込む。彼女たちはAV女優として人気と名声を得て高額なギャランティや多くの仕事を手に入れたいと望み、またAV女優ではない自分の生活がなるべくAVの仕事によって侵食されないことを望む。その双方に求められる姿を嗅ぎ分けた上で、AV女優としての語りはより過激に、面白く、流暢なものになっていく。そうしてキャラクターが確立したAV女優として人気を得ることも、「普段の自分」とは違う語り口や性格に変身することも楽しみながら、より「AV女優」らしい姿を演じることに慣れていくのである。
深く精密な戦略性をもってAV女優としての自分を確立していく女性は稀である。しかし、おじさん社会の空気を自然に吸い込んでいる彼女たちは、その空気を楽しみながら「乗っかる」ことに長けている。求められる姿を演じることで、自分たちのあくまで「AV女優」としての評価が上がるのであれば、彼女たちは喜んでそれを実践してみてくれるのである。彼女たちにとってその行為が自分という存在を押しつぶさない程度に軽やかにできるものであるのは、彼女たちが「AV女優である」ことなんて周囲が知る由もない「普段の生活」があるからだ。男性と机を並べながら、男性の帰りを料理を作って待ちながら、彼女たちはAV女優としての自分の姿を内に隠し、その双方の存在を結び付けない男性たちの意識を笑っている。
(2015年8月1日 記 タイトル写真:Natsuki Sakai/ アフロ )