日本の女性は今

日本でシングルマザーとして生きること

政治・外交 社会

赤石 千衣子 【Profile】

最近では「貧困」「格差」を体現する存在として言及されるシングルマザー。必死で生活を維持する彼女たちの姿は、現代日本社会で女性たちをめぐる状況の縮図でもある。

ギャンブルにはまった夫と離婚、子どもの不登校も乗り越える

実際にシングルマザーの生活を紹介したい。

Aさんは現在大学生と高校生の子どもがいるシングルマザーである。高校卒業後就職したイベント会社では正社員だったが、夫(公務員)の転勤により仕事を辞めた。第1子の里帰り出産時に夫がギャンブルに手を出し、子どもを連れて帰ったときには消費者金融からの借金が数百万円に上った。親族の支援を得て返済、債務整理してギャンブルは二度としないという約束をした夫は、第2子出産時にまたもやギャンブルに手をだし、今度はいわゆる闇金から借りていた。闇金の取り立ては厳しい。冬にガスが止められた家で、子どもとAさんは震えながら取り立てに来る男たちに居留守を使ったという。

しかしAさんは力があった。図書館で情報を得て、離婚するしかないと思い、両親の家に戻り、調停を経て離婚。最初は派遣社員でしか雇ってもらえず、子どもが病気で入院すれば、付き添いが必要で仕事の継続は困難だった。子どもが小学校に入ったころに、中小企業の正社員になり仕事は一応安定した。

上の子は無事公立高校に受かるが、その後さまざまな原因で不登校になっていた。そして親に怒られて家出してしまう。しかし、彼をフォローする大人もいて、無事に家に戻り、その後は学習支援の場もあって通信高校を卒業、大学に進学した。

借金による離婚は多い。その後、離婚後仕事が安定するまでの困難期とともに、その後の子どもが思春期の困難期がある。Aさんの場合は夫の借金という危機に対応する力があり、またその後の生活の中でさまざまな人間関係をつくっていたので、子どもの思春期の危機にも対応することができた。生活は楽ではない。子どもの大学進学費用は、教育ローンと日本学生支援機構の奨学金を借りている。後者は子どもに返済の義務が重い。

夫の暴力で離婚後も生活の苦労が続く

ドメスティックバイオレンス(DV)による離婚も多い。司法統計によると婚姻関係事件の申立動機別の割合では、「性格が合わない」とともに「暴力を振るう」「精神的に虐待する」「生活費を渡さない」などの理由が多い。

Bさんは、4人の子どもを連れて離婚した。元夫は農家の長男で結婚と同時に両親と同居した。「嫁」の立場のBさんは、風呂を薪で炊き入浴できるのは最後で、体が浸かる湯もなかったという。4人の子どもが生まれたが「嫁」いじめに耐えきれず、夫の両親と別居した。その頃から夫が転職、仕事がうまくいかなくなり、借金とともに暴力・暴言が始まった。夫の暴力で警察を呼んで別居。離婚後にレストランのウェイトレスをして得る収入は5万~6万円だった。上の男の子による妹、弟への暴力もあり、充分に働けない状態が続いている。

DV被害を受けたあと離婚したとしてもその影響は続いている。Bさんの子どもの場合もそうだが、被害後のケアを受けられるチャンスは少ない。

児童扶養手当の充実阻む家族観・社会意識

日本のシングルマザーのさらなる困難は、社会保障が少ない、ということである。シングルマザーが働いて得られる収入はそれほど多くなくても、税・社会保障によって貧困率が改善する国は多い。しかし、日本の場合には、それほど期待できないのだ。

主に離婚したひとり親家庭に支給される児童扶養手当や、一定所得以下の子どものいる家庭に支給される児童手当が生活を支えるが、一方では国民健康保険料や年金保険料などは、低収入の家庭にも重くのしかかっている。就学援助はあるものの、高等教育は自己負担率が高い。こうした結果、貧困率は改善されない状況なのである。

わたしは児童扶養手当などの充実を求めてきた。政策の担当者も児童扶養手当の拡充により、シングルマザーの貧困が改善することはよくわかっている。にもかかわらずそれが実現できないのは、日本社会そのものにある家族観と「離婚は自己責任である」という社会意識があるからだと感じている。

(2015年7月21日 記)

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赤石 千衣子AKAISHI Chieko経歴・執筆一覧を見る

約30年前非婚のシングルマザーになる。現在NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。当事者としてシングルマザーと子どもたちが生き生き暮らせる社会をめざして活動中。反貧困ネットワーク世話人。社会保障審議会児童部会ひとり親家庭の支援の在り方専門委員会参加人。朝日新聞論壇委員。著書に『ひとり親家庭』(岩波新書、2014年)、編著に『母子家庭にカンパイ!』(現代書館, 1994 年)等。

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