私の日本語の学び方:マルク・ベルナベ(『マンガで日本語』著者)
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日本語への入り口は漫画
漫画やアニメをきっかけに日本語に興味を持つようになった若者は世界中にいる。スペイン人の翻訳家・通訳であるマルク・ベルナベさんもそのひとりだ。小さいころに親しんだ『Dr.スランプ』、『キン肉マン』、『キャプテン翼』、『ドラゴンボール』などのアニメから受けたインパクトが、彼を日本文化に向かわせた。
「これらのシリーズを通じて日本語の文字に出会いました。当時のアニメは、タイトルバックの文字が日本語のままでした。それが私には謎めいた象形文字に見えた。画面に映るカナや漢字が私を魅了しました。まだ12歳くらいでしたが、将来いつかこの言葉を習いたいと思ったほどです」
しかし、そこから一段階上がって、日本語を流暢に話したり、難しい漢字を読めるようになったりした例は多くない。ベルナベさんは漫画を読みながら日本語の文法と語彙をマスターしただけでなく、自分の経験を生かして、そのメソッドを学習書にまとめた。
それが『マンガで日本語』シリーズ(1998年~)だ。最初は漫画・アニメの月刊誌「ドカン」の連載として始まった。2001年にはノルマ社から本として出版され、欧州や米国、中南米の日本語学習者に大好評を博した。現在、同シリーズは合計7冊となり、スペイン語、カタルーニャ語のほか、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、英語の7言語で出版されている。理論だけでは説明しにくいところも、親しみやすい漫画を使って実際の場面で分かりやすく例示してあるところがヒットの理由だ。
漢字の大きな壁に立ち向かう
基礎をクリアしてもその次の段階に進めない日本語学習者は多い。漢字文化になじみのない学習者が出くわす大きな壁のひとつが、漢字を覚えることである。そんな場合、ベルナベさんがベロニカ・カラフェルさんとの共同作業でまとめた『漢字を覚える』が役に立つ。これは、名高い漢字記憶法を考案したジェームズ・ハイジック博士(※1)が英語で書いた『Remembering the Kanji(漢字を記憶する)』を、二人がスペイン語圏向けに翻訳・アレンジしたものだ。たまたま博士が研究休暇でバルセロナに滞在していた折に、直接会って意気投合し、プロジェクト実現が決まったという。
同博士のメソッドは、2000字の漢字とその意味を、漢字を構成する各部位の成り立ちから説明するというもの。漢字を覚えるためのイメージ的な記憶力を高めることができる。
趣味を動機にする
たとえ工夫をこらしたいろいろな方法を用いても、日本語の習得が容易でないことはベルナベさんも認める。
「日本語の学習は骨が折れ、強い意志の力が要求されます。最も大事なのは動機付け。モチベーションは簡単に下がったり、失われたりするので、常にそれを高く保つよう意識し続ける必要があります」
ベルナベさんにとって、そのモチベーションとは漫画。読み進みたいという気持ちから、より多くの漢字が理解できるようになり、より速く読めるようになったという。
「まずは、そのモチベーションの源を見つけることがポイントだと思います。漫画でもいいし、アニメでもテレビゲームでも、音楽やテレビドラマ、映画、武道、盆栽……、何でもいいのです。身近な趣味を推進力として利用すること、あとは決して諦めないことです」
強い意志とモチベーションさえあれば、何とかなるのだろうか?
「確かに、相当な意志の固さが必要ですね。もし私に日本で暮らした経験がなければ、いまのレベルに達していたかどうか怪しいものです。でも不可能ということはない。長く日本に滞在したことがなくても、日本語をマスターした人を知っています。フランシスコ・バルベランという日本通で有名なサラゴサの弁護士で、『和西・西和法律用語辞典』を編さんしたほどの実力者です」
漫画の巨匠たちとの対面
好きな道を究めるには、どうしたらよいか。ベルナベさんの例を見れば、刺激的、野心的なプロジェクトに取り組むことが答えのようだ。そのひとつが、『Masters of Manga(漫画の巨匠たち)』と題するシリーズ。松本零士、小池一夫、かわぐちかいじ、ちばてつや、水野英子など、これまで30人ほどの漫画家に日本語でインタビューしてきた。
「作家との出会いの中には、忘れ難いエピソードもあります。例えば、亡き臼井儀人さんは、『クレヨンしんちゃん』の作品中に私とベロニカを登場させてくれました。漫画とアニメは単なる仕事ではありません。最大の趣味のひとつでもあります。自分の好きなことで仕事をし、趣味に生きることができるというのは、この上ない幸運です」
(※1) ^ ジェームズ・ハイジック(James W. Heisig)博士略歴
哲学者。1978年から名古屋の南山大学教授(宗教哲学)。日本語、中国語学習者の間では、漢字を覚える学習法により著名な存在。