3.11後の日本

震災ルポ 極まる東北の中央政治不信

政治・外交 社会

菊地 正憲 【Profile】

震災後4カ月。一日も早い復興を望んでいるのは壊滅的な被害を受けた被災地の人々に他ならない。彼らは、そして被災地の首長らは今、どんな思いで毎日を生き抜いているのか。気鋭のジャーナリストがその現実に迫る。

水産物は徐々に戻っているが……

松島町から仙台市に向かう帰路、東北有数の水産都市である塩釜市の塩釜水産物仲卸市場に立ち寄った。死者・行方不明者21人の被災都市でもある。3月に取材に来た際には、宮城県の各港に魚介類が揚がらなくなったため商品がほとんど並んでおらず閑散としていたが、今回は魚介類の種類・数が大幅に増えていた。4カ月ぶりに会った店主の鈴木清孝(すずき・きよたか)さん(58歳)の表情にも、以前よりは明るさが見られた。

「約1カ月前、地元で刺し網漁が一部再開されてから、カレイ、ヒラメの活魚がようやく入るようになった。でも、まだ三陸産は極端に少ない。復興が思うように進まないから。宮城県気仙沼市のように、国の支援をあてにしないで、自分たちで船や港を直して漁を再開したところもある」


塩釜水産物仲卸市場はにぎわいを取り戻しつつある。


笑顔で語る鈴木清孝さん。

復興は10年で23兆円

政府の東日本大震災復興対策本部(本部長・菅首相)は、7月29日、復興基本方針を決定した。復興費用を10年間で23兆円と試算。被災地の規制緩和や優遇税制を認める「復興特区」や交付金制度の創設などが明記された。だが、国、被災地共通の懸案のはずだった住居の「高台移転」は明記されなかった。増税を含めた財源問題も、与党内の足並みがそろわず先送りされた。福島原発事故関連を含めて、方針の中身は具体性を著しく欠いている。菅首相の当初の意気込みからすると、腰砕けの印象は否めない。

「中央からますます取り残されるのではないか」——。被災地に足を運ぶと、時間の経過とともに募る閉塞感をひしひしと感じる。「東北のために国を挙げて尽力する」との掛け声が、早くも空念仏に聞えてくるからだ。東北の人々の政治不信は、もう極限にまで達しようとしている。

——現地取材からひと月半後の9月2日、批判の高まりを背景に総辞職した菅内閣に代わって、野田佳彦新内閣が発足した。第3次補正予算、復興財源確保のための増税、特区創設といった懸案が、実現に向けて次の段階へとようやく移りつつあるようにも見える。国は、我慢し続けてきた東北の人々をこれ以上、苦しめてはならない。

撮影=久山 城正

避難所に設置されたハエ取り。大量に発生したハエの処理に悩まされている。
避難所に設置されたハエ取り。大量に発生したハエの処理に悩まされている。

自衛隊によるお風呂支援「弘法の湯」が人々の癒しになっている。
自衛隊によるお風呂支援「弘法の湯」が人々の癒しになっている。

「弘法の湯」の内部。
「弘法の湯」の内部。

テニスコートの横では洗濯物が風になびいていた。
テニスコートの横では洗濯物が風になびいていた。

女川港の復旧への道は遠い。
女川港の復旧への道は遠い。

塩竈の市場にはようやく近海の海産物が戻ってきた。
塩竈の市場にはようやく近海の海産物が戻ってきた。

女川町周辺の浸水マップ
女川町周辺の浸水マップ

松島町、塩竈市周辺の浸水マップ
松島町、塩竈市周辺の浸水マップ

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菊地 正憲KIKUCHI Masanori経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。1965年北海道生まれ。『北海道新聞』の記者を経てフリーに。『AERA』『中央公論』『新潮45』『プレジデント』などの雑誌を中心に人物ルポ、社会派ルポなどを執筆。著書に『速記者たちの国会秘録』(新潮新書/2010年)ほか。

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