3.11後の日本

創発的破壊が日本を復活させる

政治・外交 社会

今年3月に発生した東日本大震災は、日本に戦後最悪の被害をもたらした。被災地復興と共に、パラダイム・チェンジを迎えた日本。脱原発・脱炭素社会を目指し、新たな日本の創造が試される。

創発的破壊

しかし、日本をそんな風に変えられるリーダーがいるのか、という疑問にすぐに出くわす。ここでの答えは、カリスマ的リーダーなどもはや要らないということだ。複雑系の研究が明らかにしてきたように、複雑なアリ塚は女王アリが指令を下しているわけではない。それどころか、女王アリはひたすら卵を産み続け、働きアリは一生懸命食糧を運び、掃除アリはただ掃除をするだけである。しかし、それぞれの営みが全体としてきわめて複雑かつ機能的なアリ塚を構築している。こうした個々の小さな行為の総和が想像を超えたパワーを発することを「創発(emergence)」という。同じように、中東チュニジアやエジプトで起こったジャスミン革命も強力なリーダーや革命組織があったわけではない。自由や民主化というビジョンに向けた個々人の小さな行動が、ツイッターやフェイスブックを使って増幅され打倒不可能といわれた体制を崩壊させたのである。この時、情報とくにビジュアルな動画情報が無数の若者の共感を呼び起こしていた。

いまの日本に必要なのはこの静かなるジャスミン革命である。このパワーを「創発的破壊」と呼ぶ。シュムペーターはイノベーションにとって「創造的破壊」が欠かせないと言った。確かに、古い秩序の上にしか新しい循環は生まれない。しかし、創造的破壊は強烈なアントルプルナーやリーダーを想定してしまう。ただし、これから起こる革命はそうした破壊ではなく、むしろ個々人の小さな発言やイノベーションが大きな波動を生み出す創発的なものだ。


西山弥太郎(川崎製鉄株式会社初代社長、写真中央)
戦後の日本復興の立役者。当時、最新鋭の鉄鋼一貫製鉄所を建設するという発想は非現実と思われ、周囲の反対も呼んだが、技術経営者である西山は、日本の再建には必ず鉄鋼が必要とされるという確信を持って、川鉄千葉製鉄所の建設を進めた。(写真提供=JFEスチール株式会社)

この震災を契機に日本を抜本的に創り変えるムーブメントが生まれることは必然だが、古いパラダイムに棲む人たち、あるいは既得権の上にあぐらをかいている人たちはこんな話は絵空事だと思うに違いない。しかし、1945年、焼け野原となった東京や広島で、どれほどの人が世界第2位の経済大国を想像しただろうか。当時でも、日本にカリスマ的なリーダーがいたわけではない。西山弥太郎のような、経済人パージで平取締役から昇進した「三等重役」が荒唐無稽なことを言い出し、松下幸之助や本田宗一郎のように小学校しか出ていない企業家たちが民衆のニーズを嗅ぎ取って一歩を踏み出したのである。

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