3.11後の日本

創発的破壊が日本を復活させる

政治・外交 社会

米倉 誠一郎 【Profile】

今年3月に発生した東日本大震災は、日本に戦後最悪の被害をもたらした。被災地復興と共に、パラダイム・チェンジを迎えた日本。脱原発・脱炭素社会を目指し、新たな日本の創造が試される。

重要な発注枠設定

設立三年以内の新興企業に対する発注枠(クオータ)を設ければ、大企業からのスピンオフや企業勃興を加速しイノベーティブな企業活動を促すだろう。明治維新期の下級武士の台頭や、戦後の財閥解体や経済人パージが新しいエコノミック・スペースを創ったように、震災後の復興プロセスにおいても新しい経済空間をデザインする必要がある。さもなくば、従来企業が従来手法で行い、新しいイノベーションが生まれないからである。同じく地域の中小の中堅企業枠は雇用促進になるだけでなく、必要な人材の還流を招く。すでに、東北復興に旅立った、あるいはUターンした多くの若者がいると聞く。彼らの受け皿が必要なのである。

海外企業への発注枠も重要である。安藤忠雄氏が力説するように、新しい都市建設は諸外国企業が関心を持つような先進的なものでなければ意味がないし、もっと言えば投資をしたくなるような魅力的なものでなければならない。その意味で、海外企業に発注枠を設ければ高い関心を引くばかりでなく、彼らの参入によってこれまでの閉鎖的な公共建設工事の商習慣が打破され、入札価格も大きく下がるだろう。また、多様な考えに裏付けられたイノベーティブな手法が導入されるだろう。日本はこの震災を通じて世界最大の被援助国になる。その恩恵を広く世界に開放するというのも、重要な恩返しである。まさに、明治、終戦に続く第三の開国である。

分権化政策としての道州制

こうした分散型エコタウン・スマートシティ建設を推進するにあたって、重要なパラダイム・チェンジは、「東京一極集中を排した地方分権社会の確立」である。新しいエコタウン・スマートシティの建設は日本がこれまで追求してきた「日本全土の均衡ある発展」というパラダイムとはまったく異なる。気候も風土もそれぞれ異なる日本各地に同じような都市を建設してきた「全国総合開発計画」的な考えではなく、地域ごとの特色を生かした開発計画でなければならない。

第四次にまでわたった全国総合開発計画が築き上げたのは、どこの駅や空港に降り立ってもほとんど変わらない駅前風景であり、スプロール化した市街地造りだった。しかし、太陽光はもちろん、風力・地熱に加えてバイオマスや間伐材パレットを利用する地域発電を前提とするエコタウン・スマートシティでは都市の造り方がまったく異なる上、職住を分離して郊外から市中に通勤するという20世紀型社会像もエネルギー多消費型で不適合である。そこでは、職住はもちろん大学やエンターテインメント施設を誘致し、「職住学遊」の接近を実現したコンパクトで快適な都市空間が設計されなければならない。

こうした高度省エネルギー都市の実現に関しては、中央集権的な政府が画一的なお仕着せを図ることはできない。したがって、裁量権を持った地方政府の役割が重要になるのである。さらに、国家の危機管理としても地方分権は重要である。今回の大震災を見ても、国家機能を特定の地域に集約しておくことがいかに危険かは一目瞭然である。とくに、政治・経済・情報をいまのように東京に集中しておいて直下型地震が関東地方を襲えば、日本の国家機能は完全に麻痺し、その復興の道筋も混乱を極めるだろう。

次ページ: カリフォルニア州より狭い日本

この記事につけられたキーワード

省エネルギー 少子高齢化

米倉 誠一郎YONEKURA Seiichirō経歴・執筆一覧を見る

一橋大学イノベーション研究センター教授。1953年東京都生まれ。1977年一橋大学社会学部、79年同大学経済学部卒業、81年同大学院社会学研究科修士課程修了。1990年ハーバード大学歴史学博士号取得。現在、プレトリア大学GIBS日本研究センター所長、『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、アカデミーヒルズ日本元気塾塾長も兼務。主な著書に『経営革命の構造』(岩波新書/1999年)、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社/2011年)など。

このシリーズの他の記事