3.11後の日本

災害・敗戦経済学が導く復興シナリオ

経済・ビジネス

大震災と名付けられた地震被害は過去に2度ある。1923年の関東大震災、1995年の阪神・淡路大震災……いずれも壊滅的な被害を受けながら日本経済は見事に復興を果たしてきた。3度目となる東日本大震災、過去から学べることは何か。

原発事故と電力不足は人災

震災という経験は、復興のための投資を刺激する点において、経済にとってはかならずしも大きな痛手とはならないということをこれまで見てきた。はたして、これと同じシナリオで、東日本大震災は日本経済の活性化をもたらすのだろうか。残念ながら、そこまで楽観的な見通しは立てられない。今回の震災の場合、問題は天災による被害(津波)だけではなく、人災による被害(原発事故と電力不足)も複合しているからだ。東京電力によると、管内の電力不足は当初夏のピーク時で25%と発表されたが、15%に収まる見通しだ。2%の経済成長が1%の電力の消費増を産むという過去の統計からすると、このため夏頃の東日本の生産には30%程度の下降圧力が生じる。原発への地元住民の反発が強まったために、今後、原発の停止が続いて、ほかの電力会社の管区にも電力不足は広がりそうである。

そうなってくると、復興投資を盛り上げるためにも、一にも二にも電力供給の拡大が短期的で重要な課題となる。これは日本の敗戦後の最初の課題が石炭供給能力の拡大であったのに類似している。類似していると言えば、実は敗戦後の次の段階の課題もそうである。すなわち次に官民を挙げて総力で目指すべきなのは輸出能力の強化である。今回の事故で原発推進にストップが掛かることは客観的事実として認めざるを得ない。といってクリーンなエネルギーによる代替は容易ではないので、結局、化石燃料への依存が強まる。しかるに現在、中東で進行している民主革命と、福島第一の原発事故によって、化石燃料の価格は今後高騰が予想される。

重要なFTA推進

永年石油の支配権を独占してきた中東の王族や独裁者は、石油で得た富を先進国企業の株式に投資し、石油枯渇後にも豊かさが確保される仕組みを維持してきた。これにより先進国と産油国の間の共存共栄の関係が生まれた。この関係は民主革命によって一時的に変わらざるを得ない。世界第一の産油国サウジアラビアのような国も、今後原油価格を引き上げて、その収入を国民にバラマクことにより、急進的な政治変化を避けようとするだろう。他方で福島第一の原発事故は、先進国の核アレルギーを強める結果を生んだ。その動きは原発7機の起動停止に踏み切ったドイツでもっとも顕著だが、米国でも原発計画の見直しが起こりそうだ。結果的に世界全体の化石燃料への依存度は高まる。

エネルギー価格が高騰しても、日本の輸出能力が高ければ、経済成長を支えるだけの資源輸入が可能だ。しかし、もしそうでなければ、資源を輸入する財力が限られて、電力の供給制限は今後も常態化するだろう。

現在のところ日本政府は、緊急事態への対応と、原発問題で二つに割れた国論の統一で目一杯といった状態だが、長期的な課題として今後何にもまして重要なのは、自由貿易協定(FTA)の締結を進めることなのである。

この記事につけられたキーワード

東日本大震災 日本銀行 バブル 阪神淡路大震災 福島第1原発

このシリーズの他の記事