【Photos】タウシュベツ川橋梁の四季:水没と出現を繰り返す北海道の鉄道遺産
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北海道の大雪山国立公園内にある糠平湖の中に、今にも崩れ落ちそうなコンクリート製のアーチ橋が立っている。近年、秘境観光のスポットとして知られつつあるタウシュベツ川橋梁だ。かつて列車がその上を走った鉄道橋であり、現在は“幻の橋”とも称される。
1937(昭和12)年、北海道十勝地方を南北に走る旧国鉄・士幌線が十勝三股まで延伸するのに合わせ、音更(おとふけ)川の支流タウシュベツ川にこの橋梁が架けられた。しかし55(昭和30)年に水力発電用のダム湖として糠平湖が建設され、橋梁周辺はその湖底に沈んでしまう。士幌線の水没する区間は廃線となり、それに伴いタウシュベツ川橋梁は役目を終えることになった。当時は高度経済成長が始まる時代。そうした背景もあってか、使われなくなった橋はそのまま人跡もまばらな地に放置され、現在に至っている。
さまざまな表情を見せる幻の橋
北海道好きが高じて埼玉県から移り住んだ僕がこの橋を撮り始めたのは2005年のことだ。糠平湖にほど近い温泉街の宿に住み込みで働くうちに、近くにあるタウシュベツ川橋梁に通うようになった。その頃は今からは想像できないほど訪れる人も少なく、関係者の間では「もうすぐ崩落するだろう」と言われていた。
徐々に崩れ落ち、形を変えていく幻の橋。その場所に頻繁に足を運べるからこそ残せるものがあるように思い、季節により、時間により変化するその姿を記録し続けてきた。スイッチを切り替えるように春夏秋冬が移り変わる北海道で、東大雪山系の雄大な自然景観を背景に佇む廃墟は、それだけでユニークな被写体だった。その上、糠平湖の水位変動によって、日ごとに異なる光景が展開される。
確実に近づく崩壊の時
電力需要の多い冬季に合わせて貯水する糠平湖の水位は、秋の終わり頃に最も高くなる。発電量が増加する冬の間水位は一貫して低下し、春先に最も低くなる。年間を通じた増減幅はおよそ30メートル。タウシュベツ川橋梁は、水位の上下に合わせて水没と出現とを毎年繰り返す。年によって異なるが、晩秋頃に完全に水没し、やがて凍結する水面の下で冬を迎える。そして1月には氷の下から姿を現す。その姿をまったく見ることができない時期があることから、幻の橋と呼ばれるようになった。
全長130メートル、高さ11メートル。この規模のコンクリート建造物が毎年水没し、出現しては風雪にさらされ、強い日差しを浴びるそのダメージは計り知れない。さらに北海道の内陸部に位置するため、冬の最低気温は氷点下25度を下回る。コンクリートに染み込んだ水は凍結膨張し、水面を覆った分厚い氷はコンクリート表面を削っていく。過酷な環境にありながら、タウシュベツ川橋梁は半世紀を超えてその姿を今にとどめてきた。
廃墟の橋となってから、すでに60年以上の歳月が流れた。「もうすぐ」と言われてきた時が確実に近づいている。
写真と文=岩崎 量示
バナー写真=3月のタウシュベツ川橋梁全景。一冬をかけて、水没していた橋が徐々に氷上に姿を現す
タウシュベツ川橋梁の行き方
「NPO法人ひがし大雪自然ガイドセンター」が完全予約制の有料ツアーを主催しています。予約状況は同センターのHPで確認できます。付近はヒグマの生息するエリアなので、初めて訪れる際にはガイド付きツアーに参加することをお勧めします。