
【Photos】綾の照葉樹林:縄文時代の姿を残す常緑の森
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輝く緑のコントラスト
宮崎県綾町には日本最大級の原生的な照葉樹林があり、「綾の照葉樹林」と呼ばれている。2012年に2000ヘクタールに及ぶこの貴重な森はユネスコの生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)に指定された。1986年、最初にここを訪れた時の印象は、「本当に多様な樹種が存在する豊かな森なのか」というものだった。なだらかな山を覆う暗い緑一色に見える森は、モコモコとした同じような木々の連なりにしか見えなかったからだ。時期が晩秋だったこともあり、樹種の葉の違いが全く分からなかった。この森はひたすら暗いという、気持ちまで重くなるような出会いだった。
ところが翌春に再訪した時には、予想を裏切る光景に驚かされた。どれも同じに見えた濃緑色の森が、梢や枝先にさまざまな色彩の新緑を帯びて広がっていたからだ。柔らかな若葉は暗い緑の古い葉を背景に輝くように際立っていた。照葉樹林の木々の多くは葉の表面にクチクラ層という硬く光沢のある組織が発達している。光をよく反射するから照葉樹林と呼ばれるのだが、まさにこのことを実感した。この緑のコントラストが照葉樹林の大きな魅力の一つであることは、それから何年もこの森に通っていくうちに確信に変わっていった。
豊かな階調を持った常緑の森
シイ、カシ、タブノキなどの常緑広葉樹を中心とした照葉樹林は、かつて日本列島の西半分を覆っていた。縄文時代には照葉樹林は本州北端の海外線まで広がっていたともいう。もし縄文時代の日本列島を上空から眺めることができたら、黒々とした深い緑の森にすっぽりと覆われていたに違いない。
しかし時代が下るにつれて人間の生活圏拡大が進むと、照葉樹林の森は平地では切り開かれて農地や宅地にされ、山地ではスギ、ヒノキの人工林に置き換えられて消滅していった。現在日本に残る原生的な照葉樹林は極めてわずかである。しかし、世界的に見ると、亜熱帯から亜寒帯に至る森林のさまざまなタイプがこれほど豊かな階調を持って存在する国は珍しく、なかでも常緑の森がこれほど高緯度にある例は少ないとされている。
生物の多様性が南に行くほど種類が増え豊かになっていくのはよく知られているが、それは日本の照葉樹林にも当てはまる。その多様な自然は人間の暮らしにとても複雑で豊かな幸をもたらしてくれた。西日本各地に残る生活文化の根底には、照葉樹林の無限の恵みがあることを忘れないでほしい。
ヤマザクラ。春の照葉樹林にヤマザクラが暖かい季節の到来を告げる
ナンゴクミツバツツジとキジョラン。野生種のツツジは日本全国に多様な種が分布している
新緑とスダジイの花。芽吹きごろの照葉樹林は、冬の濃い緑一色の世界が生まれ変わったように輝き出す
新緑とシイの花。4月から5月にかけて、照葉樹林の山々はシイの木の一斉開花を見ることが出来る
スダジイの花。遠目には大きなカリフラワーのように思えるシイの花だが、近づけばクリーム色の柔らかなヒモ状の集合体だと分かる
シイの花。スダジイとツブラジイの比較的若い木の森。若いシイの木は全ての成長エネルギーを高さに注ぐため、細身の樹形となる
ヤマフジの花。日本のツル性樹木の代表ともいえるフジ。照葉樹林で目立つのはヤマフジだ
ガンゼキラン。照葉樹林を代表する大型のラン。乱獲やシカの食害のためにほぼ絶滅状態にある
光るイチイガシ。新緑の時期の前後、太陽光線の角度によっては、木々の葉がキラキラと輝くように見える
ウラジロガシの新緑。通常は明るい緑色のウラジロガシの新緑だが、木によっては別種のように赤い若葉を展開するウラジロガシもある
ウラジロガシの新緑と花。緑色のウラジロガシの新緑。枝の先端にクリーム色の花が咲いている
タブノキの若葉。クスノキの仲間のタブノキは大木になる樹木の一つ。若葉は燃えるような赤色や黄緑色まで幅がある
イチイガシの大木。イチイガシは巨木になる照葉樹の代表といっても良い。幹の途中に枝がなく、垂直に20メートル近く立ち上がる姿は力強い
岩を抱くイスノキ。イスノキは日本の樹木で最も硬い材で緻密で重く、芯材は水に沈むほど
霧の照葉樹林。雨上がりや気温の上昇などの気象条件の変化で、照葉樹林が霧に包まれる日がある
ハチジョウカグマ。日本の大型シダの代表種。照葉樹林の中でも渓流沿いなど常に湿度の高い環境を好む
スダジイの大木。真っ直ぐに伸びるツブラジイに比べると、スダジイは大きな枝分かれの樹形が目立つ
バナー写真:大型のシダの代表種、ハチジョウカグマ。