意外と知らないマグロの種類と特徴:最高級クロマグロはお手頃価格に!? ミナミマグロ漁はピンチ
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2022年の漁獲量は世界5位
すしネタや刺し身の定番・マグロ。日本は世界最大の消費国と言われてきたが、このところ、サーモンなどに押されて人気に陰りが見えてきたと指摘する声も。世界的に魚食が拡大する一方、日本人の魚消費が低調なことを考えれば、自然の流れなのかもしれない。
マグロ類の漁獲量でも、日本が1980年代まで断トツの1位だったが、すし人気が海外で定着した90年代頃から台湾や東南アジア、メキシコ、スペインなどが台頭。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、2022年は日本が11.6万トンの5位で、首位インドネシアは34.3万トンと約3倍も漁獲している。
それでも、クロマグロは高値を維持し続け、インバウンドにも大人気。他にもミナミマグロやメバチマグロなど種類が多い上に、それぞれ天然・養殖、国産・輸入、生や冷凍というように、さまざまな形態で流通する。
実は、魚種ごとの特徴や産地などは日本人も意外に知らない。ましてや、訪日観光客の中には「みんな同じTuna(ツナ)」と思っている人もいるようだ。しっかりと品定めできるように、種類ごとの特徴や最近の漁獲状況などを紹介していきたい。
最高級品は近海物の生鮮クロマグロ
まずは「マグロの王様」といえるクロマグロ。“マグロの中のマグロ”の意味で、「本マグロ」の通称も広く浸透している。名の由来になった黒光りする魚体と高値が付くことから、漁師や市場関係者などは「黒いダイヤ」とも呼ぶ。1本で億超えを記録することもある東京・豊洲市場(江東区)の初競りは、国産クロマグロの独壇場。特に13年連続で最高値の「一番マグロ」に輝いた青森・大間マグロは、世界中に名をとどろかせている。
マグロの中で最も低い水温に耐える上に、魚体も大きいため、たっぷりと脂を蓄えている。太平洋と大西洋に生息し、日本沿岸も広く回遊するため、大間マグロを代表とする近海物は冷凍せずに「生鮮」で市場に送ることができる。年末年始の高騰期以外でも、豊洲市場では1キロ当たり1万円以上の値が付く生マグロが珍しくない。それらが高級すし店のカウンターで、1貫数千円で提供されることもあるのだ。
ただ、「クロマグロ=近海物の生マグロ」というわけではない。養殖に加え、太平洋の遠洋や大西洋で漁獲した冷凍ものもある。近年はマグロの世界的な資源管理のために漁獲枠が設けられており、特に太平洋クロマグロの規制は厳しく、近海物の流通は限られている。2022年の国内供給量6万1800トン(水産庁調べ)のうち、太平洋クロマグロの国内漁獲量は遠洋漁船も含めて約1万トン。それに対し、養殖生産量は2万トン強と約2倍で、さらに大西洋クロマグロの輸入量が約2.5万トンと上回る。
漁獲枠5割増で市場色めく!?
そんなクロマグロについて最近、「安く食べられようになるのでは?」と期待の声が高まっている。
北海道釧路市で7月中旬、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)北小委員会が開かれ、日本の漁獲枠拡大で合意した。30キロ以上の大型で年間5614トンから8421トンへ1.5倍に、小型(30キロ未満)は4007トンから4407トンへ増える。大型クロマグロの増枠は3年ぶりで、小型は初めて。今後の資源に重要な役割を担う小型の枠は、大型に振り替えることも認められているので、来年の漁が好調なら大型クロマグロの漁獲は1.5倍以上増える可能性もある。
ただ、水産庁や市場関係者は、価格が下がるかどうかについては懐疑的。日本の漁獲枠は国から都道府県、さらに各漁協に分配され、遠洋漁業の大型船から、大間のような小型漁船まで、細かく振り分けられる。それぞれが操業する海域で、枠いっぱいまで漁獲できるかどうかは不透明だ。特に生鮮マグロの価格は、「その日、その時期の出荷量に大きく左右されるため、年間数千トン程度の増枠では、一概に安くなるとは言い難い」(豊洲市場の卸会社)という。
それでも漁獲枠の拡大は、少なくとも値上がり要因ではないのは確かなため、安く食べられることを願いたい。
ミナミマグロ、4割安でピンチに
クロマグロに次いで高級とされるミナミマグロについては今春、水揚げ価格が急落し、漁業者が窮地に陥っている。
ミナミマグロは主にインド洋など南半球で漁獲されるため、「インドマグロ」の通称で知られる。上質のトロや赤身が取れることから、魚のプロが集まる豊洲市場などで高く評価され、時にはクロマグロ以上の値が付くことも。同市場の競り人は「赤身が甘く、酢飯との相性が抜群。本マグロの人気は圧倒的だが、インドにこだわって仕入れている職人も多い」と話す。
遠洋マグロはえ縄漁船によって漁獲され、大半が冷凍物として流通する。コロナ禍の影響で、マグロ全体の輸入量が減少し、2022年度には静岡県清水港などでの水揚げ価格は上昇した。
ところが流通量が回復した23年度は、価格が急降下。日本かつお・まぐろ漁業協同組合(東京)では「清水港でのミナミマグロの大型魚(40キロ以上)は、1キロ当たり1500円ほどと前年に比べて4割急落した」と嘆く。遠い海域で操業するため、さらに燃油や資材の高騰、円安などが大きくのしかかる。同組合に加盟する漁船およそ75隻では、1隻当たりの水揚げ高が約7000万円減少。「ほとんどが赤字に追い込まれており、このままでは漁業経営を継続できない」(同組合)という。
ミナミマグロの遠洋漁船は、同じ航海ルートに生息するメバチマグロも漁獲する。操業する船が減れば、手頃な価格のメバチが出回らなくなり、家庭の食卓への影響は大きい。供給サイドは魚価回復を望むが、クロマグロに比べてブランド力が弱く、「南の海」や「暑いインド」でおいしいマグロが育つのかなど、消費者側の無理解がネックとなっている。実際には、豪州や喜望峰よりも南、つまり南半球のインド洋南部の冷たい海域が漁場であり、前述のように“通をうならせる上マグロ”なのだ。
需要を喚起するために同組合は、6月末からミナミマグロのプロモーション動画を公開。「味の特長やおいしい食べ方など、今後も積極的に情報発信していく」としている。
庶民のマグロ「メバチ」
高級なクロマグロやミナミマグロと違い、回転ずしやスーパーでおなじみなのがメバチマグロ。その名の通り、マグロ類の中では目がパッチリと大きいのが特徴である。養殖物はなく、流通するのは全て天然物。鮮やかな赤身は、あっさりしていながらもうまみは十分で、誰からも好かれる庶民派だ。
国内の水揚げ高は近年、年間2.6万トン前後だが、台湾や韓国、中国からの輸入が多い。年間供給量はおよそ8万トンで、クロマグロとミナミマグロを合わせた量(7.7万トン)よりも多い。漁場は太平洋や大西洋、インド洋の赤道付近と広い海域で、日本には大半が冷凍で入荷する。
これまで大西洋と太平洋で資源管理策を設けてきたが、インド洋でも減少傾向にあり、今年から規制措置が導入されている。ただ、大幅な漁獲減につながるものではなく、「流通量や価格への影響は限定的」(マグロ団体幹部)との見方が大勢だ。
あっさりヘルシー、キハダとビンナガ
マグロ類の中で最も国内生産、輸入量が多いのがキハダマグロだ。年間の供給量は11.2万トンに及ぶ(2022年)。漢字では「黄肌」と書き、ヒレや体表が黄色っぽく、身はたんぱくであっさりとしていて、くせがないのが特徴。中トロはすしネタとしても人気だが、脂が少ないことから多くが「ツナ缶」の原料となっている。
最後に紹介するのは、ビンナガマグロ。魚体の側面に伸びる長い胸びれを、耳際の髪の毛を意味する「鬢(びん)」に例え、「ビンナガ」「ビンチョウ」と呼ぶ。赤身の色が薄く、ピンク色の「ビントロ」が回転ずしなどでおなじみだ。国内の水揚げ量はキハダマグロに次いで多く、魚価も安い。刺し身はもちろん、煮たり揚げたりしてもおいしく食べられ、キハダ同様、缶詰原料としても重宝されている。
それぞれの特徴をしっかりと理解して「マグロ通」になり、よりおいしく楽しい時間を過ごしてほしい。
バナー写真:実際のサイズ比率で並べたマグロ イラスト=さとうただし