入湯できる国重要文化財「道後温泉本館」:日本最古の湯に癒やされ、皇室や文豪ゆかりの部屋を観賞
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聖徳太子も訪れた最古の名湯
愛媛県を代表する観光地「道後温泉」。松山市の中心部から2キロの温泉街には、旅館や郷土料理の店が連なり古きよき風情が漂う。
日本最古とされる湯は、傷を負った白鷺(しらさぎ)が湯あみして元気になったことが起源と伝わる。神話時代にはオオクニヌシとスクナヒコナ、飛鳥時代の聖徳太子や斉明天皇をはじめとする貴人も来浴したという。『万葉集』『日本書紀』『源氏物語』といった奈良~平安時代に成立した古典籍にも名湯と記述されている。
しかし、なんといっても道後温泉で多くの人が思い浮かべるのは、明治の文豪・夏目漱石の代表作『坊っちゃん』であろう。1895年に松山の中学校に赴任した漱石の実体験に基づき、その前年に改築したばかりの公衆浴場「道後温泉本館(以下、本館)」が登場する。新任教師の「おれ」が湯船で泳いだことを注意され、生徒たちにからかわれる場面は笑いを誘う。街を走る路面電車「坊っちゃん列車」、名物「坊っちゃん団子」も小説にちなむものだ。
漱石の親友で松山出身の俳人・正岡子規も同時期、病気療養のために温泉通いをしていた。2人が風呂上がりに休憩した本館の個室は「坊っちゃんの間」として漱石の胸像や写真を展示している。
本館は3階建てで、1894年から1935年にかけて完成した4棟で構成された複合建築。外観は城や社寺を思わせる。近代の温泉場の姿を伝える建築物であり、1994年に公衆浴場では初の国の重要文化財に指定された。
本館を未来に残すため、運営する松山市は2019年1月から耐震化などの保存修理工事を実施、休憩所は閉めて浴場のみの営業とした。道後温泉のシンボル的存在は工事用シートに覆われ、コロナ禍が重なった時期には温泉街は静まり返っていた。24年7月11日に全館で営業再開した際は、一番風呂を狙って前夜から並ぶ人が出たことで話題を呼び、現在はにぎわいを取り戻している。
豪華な皇室専用浴室も公開
館内には「神の湯」「霊(たま)の湯」という2種類の浴場がある。どちらも1階にあるが、霊の湯は2階から男女別々の階段で出入りするので、初めての人は迷うかもしれない。4棟を通路でつないだため、動線は複雑になっているのだ。また天井は低く、階段は急傾斜だが、それも古い建築物の面白さである。
歴史ある文化財を堪能するなら、上階の2つの広間と個室の休憩室から選んで、利用料込みの入浴券を購入しておこう。風呂上がりに貸し浴衣を着て、お茶のおもてなしでリラックス。
バックヤードだった3階の2部屋も、リニューアルを機に貸し切り休憩室となった。他の部屋や通路が接続せず、専用の階段で出入りするので、水入らずのだんらんにお薦めだ。
ぜひ見学(有料)したいのが、1899年完成の皇室専用棟「又新殿(ゆうしんでん)」。花こう岩のダイヤモンドと呼ばれる高級石材「庵治石(あじいし)」を使用した湯釜や、金色の障壁画で飾った休憩室など、豪華な造りに目を奪われる。
これまで入浴料は銭湯並みに抑えてきたが、物価高の影響に加え、一部を保存費用に充てるため、営業再開に合わせて1.5倍に引き上げた。その分、冷暖房を設置したり、シャンプーやボディーソープを備え付けたりと、サービス向上に努めている。
外国からの入湯客に期待
道後温泉には年間77万人が宿泊し、そのうち5万5000人が外国人客。本館は写真映えスポットとして人気で、外で記念撮影するツーリストも多いが、その割に館内ではほとんど見かけない。
外国人にとって裸になって見ず知らずの人と風呂に入るのは相当にハードルが高いようで、大浴場しかないと知ると、入浴せずに帰る人は少なくない。周辺の個室温泉付きホテルに泊まる人も多いのだろう。
一方で「深く日本文化に触れられた」と満足する外国人客もいるという。重要文化財で源泉掛け流しの湯に漬かる特別な日本文化体験、1人でも多くの訪日客に楽しんでもらいたい。
本館の近くには、市が運営する公衆浴場が他に2軒ある。
2017年開業の「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉」は現代的な設備が整い、休憩室では本館と同様のおもてなしを受けられる。又新殿を再現した特別浴室では、浴衣の原型「湯帳(ゆかたびら)」を着て湯あみしたという、古代の貴人の入浴を追体験できる。
飛鳥乃湯に隣接する「椿の湯」は、1953年から市民に親しまれる憩いの湯。17年にリニューアルしており、開放感と清潔感がある。温泉ツウならこちらもはしご湯したい。
温泉文化を伝えるスポットにも事欠かない。本館横手の高台には、温泉街の守り神「湯神社」が鎮座。近くの道後公園には、奈良~明治時代に使われた湯釜が本館から移設され、湯釜薬師としてまつられる。歴史ロマンあふれる街をそぞろ歩きしてみよう。
「道後温泉本館」「飛鳥乃湯泉」「椿の湯」の料金、利用方法は「道後温泉」公式ホームページを参照
取材・文・撮影=ニッポンドットコム編集部