命を守るために“逃げる”:石巻南浜津波復興祈念公園で追悼し、みやぎ東日本大震災津波伝承館や門脇小学校へ

防災

2011年3月11日の東日本大震災において、市町村別で最も多くの犠牲者を出した宮城県石巻市。その中心地に整備された石巻南浜津波復興祈念公園内の「みやぎ東日本大震災津波伝承館」や、すぐ近くに残る「石巻市震災遺構門脇小学校」では、震災の記録や記憶に加え、“命を守る行動”の大切さを発信している。

約4千人が犠牲となった石巻で、甚大な被害が出た南浜地区

「石巻南浜津波復興祈念公園」にある高台「一丁目の丘」からは、約40ヘクタールもある広大な園内が見渡せる。芝生の広場を取り囲むように整備された善海田池や掘、そして「祈りの場」の水面が美しい。

丘の頂上にある広場に設置されている写真は、かつて工業地帯に隣接する住宅街として、建物がひしめく南浜地区の姿を伝えている。その傍らに立つ初老の夫婦は、祈りをささげているのか、津波によって変わり果てた風景にぼうぜんとしたのか、じっと眼下を見つめていた。

震災前の街並みと見比べると、津波の破壊力を実感する。中央に見える石造りの円形の空間が「祈りの場」で、その左に広がるのが善海田池
震災前の街並みと見比べると、津波の破壊力を実感する

震災前の街並みと見比べると、津波の破壊力を実感する。中央に見える石造りの円形の空間が「祈りの場」で、その左に広がるのが善海田池
中央に見える石造りの円形の空間が「祈りの場」で、その左に広がるのが善海田池

祈りの場から南東方向を望む。左端の高台が一丁目の丘で、その右奥に旧北上川河口に架かる日和大橋が少し見える
祈りの場から南東方向を望む。左端の高台が一丁目の丘で、その右奥に旧北上川河口に架かる日和大橋が少し見える

関連死を含めて2万人以上の死者・行方不明者を出した東日本大震災。宮城県の死者は1万566人、行方不明者1219人で、そのうち石巻市の犠牲者は約4千人に上った。それぞれ県別、市町村別で最大である。

南浜地区は旧北上川河口の西側、日和山の南側に広がる平野部。津波被害に加え、その後に発生した火災で500人以上が犠牲となった。地盤沈下による冠水もひどく、複合災害を受けた地域として数多く報道されたので、当時の惨状を記憶している人も多いだろう。そうした甚大な被害の記録や教訓を保存し、防災の大切さを発信するのが、公園中心部にある「みやぎ東日本大震災津波伝承館」だ。

日和山公園から石巻南浜津波復興祈念公園を見下ろす。中央右の建物がみやぎ東日本大震災津波伝承館で、左の高台が一丁目の丘
日和山公園から石巻南浜津波復興祈念公園を見下ろす。中央右の建物がみやぎ東日本大震災津波伝承館で、左の高台が一丁目の丘

公園の厳かな雰囲気を壊さない平屋建ての伝承館。一番高い北側の屋根の高さは6.9メートルで、南浜を襲った津波の高さを体感できるように設計された
公園の厳かな雰囲気を壊さない平屋建ての伝承館。一番高い北側の屋根の高さは6.9メートルで、南浜を襲った津波の高さを体感できるように設計された

宮城県の甚大な被災データを分かりやすくまとめた展示パネル
宮城県の甚大な被災データを分かりやすくまとめた展示パネル

何よりもまず“逃げる”

外周にガラスを張り巡らせた円形の建物は、柔らかな自然光が差し込む居心地の良い空間。それとは裏腹に、展示されるのは津波の脅威を伝える衝撃的な写真やデータ、被災者の生々しい記憶の証言だ。そして、再三訴えかけるメッセージが「命を守る行動」の大切さである。

伝承館のエントランス。入場無料なので気軽に立ち寄ってみてほしい
伝承館のエントランス。無料で入館できるので気軽に立ち寄ってみてほしい

入館すると企画展示などを開催する多目的スペースが広がっている
入館すると企画展示などを開催する多目的スペースが広がる

復興への道のりを紹介する展示はデザイン性が高く、理解しやすい
復興への道のりを紹介する展示はデザイン性が高く、理解しやすい

特にシアター「くり返さないために」の12分間の動画は必見だ。衝撃的な津波の映像、被災者の証言に加え、科学的な視点で震災の脅威を分かりやすく解説する中で、地震の揺れが収まった後、「すぐに避難しなかった人」が4割以上もいたという調査結果に触れている。東日本大震災を契機に、津波警報が出たら“すぐに逃げる”べきとの意識が浸透したが、この数字をゼロに近づけていくことが伝承館の大きな役目である。

発災から津波の恐ろしさ、復興に向けた苦難の道のりを伝えるパネル展示のほか、語り部からのメッセージやVR映像を活用して県内にある伝承施設を紹介するコーナーなどもある。解説員が多数常駐しているので、声を掛ければより理解が深まるだろう。

上映は1時間に3回あるので、開始時間前に合わせてシアターに入室しよう
1時間に3回上映されるシアター「くり返さないために」

証言映像が見られるコーナーの奥に、他の伝承施設をヘッドマウントディスプレーで体感する姿が見える
語り部の証言が聞けるコーナーの奥では、県内にある他の伝承施設の展示をVR映像で体感していた

「がんばろう!石巻」看板や門脇小学校へ

公園の西側には「がんばろう!石巻」の大きな看板が置かれている。これは2021年に作り替えたもので、3代目だという。

初代の看板は震災1カ月後の11年4月11日、がれきの中から拾った木材を使用し、地元の有志が制作。被災者を励ますだけでなく、復興のシンボルとして広く知られるようになっていった。2016年に公園予定地内に移設する際、地元中学生らと一緒に作り直したのをきっかけに、5年ごとに子どもを交えて新調することで、震災の記憶を継承していく市民活動が始まった。

3代目「がんばろう!石巻」看板
3代目「がんばろう!石巻」看板

看板の近くにある「こころの森ガーデンカフェ」では、食事やスイーツが楽しめる
看板の近くにある「こころの森ガーデンカフェ」では、食事やスイーツが楽しめる

初代「がんばろう!石巻」の看板も壊されずに、日和山の麓にある「石巻市震災遺構門脇小学校」に展示してある。公園南側の門脇門を出れば徒歩2分ほどなので、ぜひ足を延ばしてほしい。

門脇小学校では地震発生後、日頃からの訓練通りに学校裏の日和山へと避難。校舎に残っていた児童全員が無事だった。ただ校舎は1階が津波に飲まれた上に、その後の火災で2階と3階は炎に包まれた。現在は、津波火災の痕跡が残る唯一の震災遺構として、迅速な避難の大切さを伝えている。

伝承館近くからも、門脇小学校の校舎が良く見える。右に併設されるのが体育館の一部を改装した展示館で、学校の裏は日和山の高台になっている
伝承館近くからも、門脇小学校の校舎がよく見える。右に併設されるのが体育館の一部を改装した展示館で、学校の裏は日和山の高台

被災時の状態を残し、震災遺構となった門脇小学校の本校舎
被災時の状態を残し、震災遺構となった門脇小学校の本校舎

子どもたちが学んでいた教室は被災時のままで、机やいす、教壇が壊れたり、焼け焦げていたりと凄惨(せいさん)な状況だ。展示館では緊迫した避難の様子から、体験者の生々しい記憶や言葉、町や学校の歴史などを詳しく紹介している。

誰もが経験する小学生時代と重ね合わせることで、震災が「自分にも起こりうること」として捉えることができる門脇小学校。新しく整備された公園や伝承館とは、また違った感情が胸に迫るので、石巻で震災の記憶や教訓を学ぶには欠かせない場所といえる。

本校舎1階の職員室。卒業式を間近に控え、中央の金庫に保存されていた卒業証書は、無事に子どもたちの手に届いた
本校舎1階の校長室。卒業式を間近に控え、中央の金庫に保存されていた卒業証書は、無事に子どもたちの手に届いた

緊迫感のある避難時の状況を詳細に伝えている展示パネル
緊迫感のある避難時の状況を詳細に伝える展示パネル

体育館には初代「がんばろう!石巻」看板と共に、被災車両や応急仮設住宅などが保存してある
体育館には初代「がんばろう!石巻」看板と共に、被災車両や応急仮設住宅などが保存してある

みやぎ東日本大震災津波伝承館

  • 住所:宮城県石巻市南浜町2丁目1-56
  • 開館時間:午前9時~午後5時(最終入館は午後4時30分)
  • 休館日:毎週月曜(祝日の場合は翌日) 、祝日の翌日(GW期間を除く)、 年末年始(12月29日~1月4日)
  • 入館料:無料

石巻市震災遺構門脇小学校

  • 住所:宮城県石巻市門脇町4丁目3-15
  • 開館時間:午前9時~午後5時(最終入館は午後4時、11月~1月は午後3時30分)
  • 休館日:毎週月曜(祝日の場合は翌日) 、年末年始(12月29日~1月3日)
  • 入館料:大人600円、高校生300円、小・中学生200円

取材・文・撮影=ニッポンドットコム編集部

バナー写真:一丁目の丘から見下ろした「みやぎ東日本大震災津波伝承館」。右奥に見えるのは「石巻市震災遺構門脇小学校」

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