皮はパリもち、餡からジュワ! 福島市のご当地グルメ「円盤餃子」:満州引き揚げ者が考案、70年変わらぬ味
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本場の味とインスタ映えする盛り付けで人気
ひき肉や魚介、刻み野菜を混ぜた餡(あん)を小麦粉の皮で包み、フライパンで焼く餃子(ぎょうざ)は、日本の食卓でもおなじみの料理。しょうゆに酢やラー油を加えたタレに漬ければ、白米と相性抜群だ。
発祥の地・中国では水餃子が定番で、焼き餃子は「鍋貼(グオティエ、なべはり)」と呼ばれてメジャーではない。さらに炭水化物の小麦の皮で包んであるので、ご飯のおかずではなく、単体で食べる。つまり、餃子をご飯のおかずにするのは日本独自のスタイル。大きさや皮の厚さ、具の種類、付け合わせなどは、店や地域ごとに特色があり、栃木県の「宇都宮餃子」や静岡県の「浜松餃子」のように、集客力のあるご当地グルメとなっているものもある。
近年、福島市では本場の鍋貼をアレンジした「円盤餃子」が人気だ。20~30個ほどの餃子をフライパンにぎっしり円形に並べて焼き、大皿にそのままひっくり返せば、まさに円盤! 全面に餃子がぎっしりで迫力満点、インスタ映えする。
市内では十数軒の専門店や中華料理店で提供しており、オープン前から行列ができる店もある。特にJR福島駅と直結する「餃子の照井」は、出張に来た会社員を中心に、インスタ映えを狙う若い女性も多く、店先は客の順番待ちが絶えない。
屋台の七輪で焼くために生まれた円盤状
「元祖円盤餃子」ののれんを掲げるのが、旧福島城下町の総鎮守・福島稲荷神社近くにある「満腹」。戦後間もない1953年、稲荷神社周辺にあった闇市で、菅野かつゑさんが屋台で餃子と酒を振る舞ったのが始まりだ。まだ食糧難の時代とあって、ボリューム満点の餃子は大勢の心と胃袋をつかみ、2年後に餃子専門店を開いた。
餃子との出合いは戦前、鉄道技術者だった夫と渡った満州(現在の中国東北地方)でのこと。現地では水餃子がポピュラーな料理で、余ると翌日に鉄鍋で焼き直して鍋貼にして食べていた。敗戦後に福島へ戻ると、その焼き餃子を稼業にすることを思い付く。
市内には満州引き揚げ者が多かったので、懐かしい餃子は大いに喜ばれた。「満腹」と同じく1953年に飯坂温泉街で創業した「照井」も、満州帰りの店主が本場の味を再現して看板メニューにしたという。その後、かつゑさんから製法を学んだ店もでき、円盤餃子は徐々に広まっていった。
かつゑさんは2010年に103歳で亡くなり、店は孫の椎野仁子さんが引き継いだ。皮から手作りするこだわりの製法を大切に守りながら、店を切り盛りしている。
円盤状なのは屋台の頃からで、焼き上がりに時間がかかる七輪(しちりん)で一度にたくさん焼くためのアイデア。「七輪に合うフライパンは26センチで、ちょうど30個分」と説明しながら、祖母直伝の“焼き”を見せてくれた。手際よくフライパンに並べた餃子は、きっちり30個。数えるまでもなく、手が覚えている。
祖母の遺志を守り、中国風にご飯や麺は出さない
出来上がった餃子は、皮の焼き目はパリっと、反対側はツルっとなめらかな食感。ボリュームはあるが、一つ一つは小ぶりで油っぽくもないので、女性1人で1皿たいらげる客もざらにいるとか。
アルコールはビールや日本酒、サワーなど種類豊富に取り扱う一方で、フードメニューは円盤餃子のほかは、水餃子とつまみ類だけ。ランチタイムでもご飯や麺(めん)類は出していない。食べ方も本場を踏襲するのだ。
椎野さんは「ばあさまは敗戦後に食べるのにも苦労して、“おいしい餃子とお酒でお客さんをおなかいっぱいにしたい”という信念を『満腹』の店名に込めたから」と、祖母の遺志を守っているという。
円盤餃子の普及に努める「ふくしま餃子の会」
今では全国的に知られるようになってきた円盤餃子だが、地元飲食店が加盟する「ふくしま餃子の会」の会長・塚原仁司さんは「円盤餃子の名前だけが一人歩きしていて、まだ地元に根付いているとは言えない」と現状を捉えている。
餃子の世帯当たりの年間購入額を見ると福島市は1769円で、宮崎市4053円、宇都宮市3763円、浜松市3434円と「三大餃子の街」に大差を付けられている(2022年総務省家計調査)。円盤餃子は闇市で誕生して以来、“酒の友”として親しまれており、現在も加盟店の多くが夜のみの営業。塚原さんは「うまい餃子と酒を明日への活力にしてほしいというのは、会のモットー。とはいえ、子どもたちにも愛着を持ってもらいたい」と述べる。
餃子の会では「地元の誰もが“福島市の名物は円盤餃子”と胸を張れるように」と、イベントで巨大なフライパンを使って円盤餃子を焼いたり、会長自ら小学生向けに歴史や作り方を教える講座を開いたりして、普及に力を注ぐ。本当の意味で福島市のソウルフードとなれば、さらに円盤餃子の名は国内外にとどろくだろう。
円盤餃子提供店は「ふくしま餃子の会」公式HP(外部サイト)で確認を
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部