世界遺産・京都「天龍寺」:嵐山の景観を取り入れた “国宝級の庭”に憩う
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古都を代表する禅宗寺院
京都市街地の西端にある嵯峨・嵐山エリアは、日本屈指の景勝地。標高382メートルの嵐山は、春には約1500本もの桜、秋は紅葉の赤や黄色に彩られ、桂川に架かる優雅な木造橋「渡月橋」と絶景を織りなす。
一帯には多くの社寺や文化施設が集まっている中、観光の目玉となるのが渡月橋の北側・嵯峨にある臨済宗天龍寺派の大本山「天龍寺」だろう。現在も10万平方メートルの寺域を誇るが、明治時代初期までは約10倍の広さで、渡月橋や対岸の嵐山まで所有する大寺院だった。
天龍寺は、1339(暦応2・延元4)年に崩御した後醍醐天皇の冥福を祈るため、室町幕府初代将軍の足利尊氏が創建。壮麗な伽藍(がらん)群が立ち並び、幕府の保護の下で栄え、京都を代表する禅寺「京都五山」に名を連ねた。
開山した夢窓疎石(むそうそせき)は、朝廷から7度も「国師」の称号を贈られた高僧で、作庭家としても名高い。その最高傑作とうたわれるのが、天龍寺の象徴ともいえる「曹源池庭園」である。
王朝文化と禅の思想が調和した名庭
天龍寺の土地には、鎌倉時代まで皇室の離宮があった。その庭園を基に、夢窓疎石は大自然の縮景のような池泉回遊式庭園を造り上げた。池の手前には、海辺を模した美しい曲線の州浜を配しており、王朝文化をしのばせる。
造営中に、池から「曹源一滴」と刻まれた石碑を発見したという逸話が残る。これは「水源の一滴が大河となる」ことを「宗祖の教えが広く伝わっていく」のになぞらえた禅語で、池の名の由来となった。
大方丈から望むと対岸にある枯れ滝は、禅庭園の大きな特徴である「龍門瀑(りゅうもんばく)」。鯉(コイ)が滝の激流を登り、龍と化したという中国の故事「登龍門」をモチーフとする。
鯉を表す鯉魚石(りぎょせき)は通常、3段の滝に見立てた水落石(みずおちいし)の下に置くが、曹源池では上段と中段の間に配してある。まるで鯉が滝登りしているようで、「もうすぐ天に昇る龍となるのだ」と想起させる。岩や砂だけで山水を表す「枯山水」にも見える石組だが、かつては水を用いていたという。龍門瀑の真下の石橋組は、日本庭園では現存最古の天然石を用いた貴重なものだ。
池から視線を上に向けると、嵐山や亀山、小倉山をまるで庭の一部であるかのように取り入れた見事な借景技法に気づくだろう。山々は四季の移ろいと共に、新緑や紅葉、白銀の雪景色へと姿を変えながら庭園と溶け合い、人々を魅了するのだ。
唯一無二の景観を誇る曹源池庭園は特別名勝の指定第1号で、歴史的かつ学術的な価値の高さから、国の史跡にも重複指定される。国際的にも高い評価を受け、天龍寺は「古都京都の文化財」としてユネスコの世界文化遺産に登録されている。
境内の静寂と色とりどりの草花に癒やされる
曹源池庭園は本来、室内から臨むように設計されているため、大方丈から眺めるのが最も美しい。一方、隣接する書院(小方丈)からは、池に映り込む優美な山容を一望にできて趣深い。厳粛な堂内の空気を感じながら向き合うと、より心身が景観に溶け込むような感覚を得られる。
庭園散策と合わせて、巨大な天井画「雲龍図」で知られる法堂、後醍醐天皇の聖廟(せいびょう)「多宝殿」なども参拝したい。禅寺は僧侶が坐禅(ざぜん)修行に専念する場のため、境内の隅々まで静寂で、心洗われるひとときを過ごせるだろう。
境内散策では、北門へとつながる園路「百花苑(ひゃっかえん)」も人気。自然の傾斜を生かした林の中に、花や樹木の間を縫うように散策路が続いている。
ツバキやアジサイ、ムラサキシキブなど、種類豊富な草花の競演を楽しめるのが特徴。開花時期もさまざまなので、訪れるたびに違った表情を見せてくれる。
北門から境内を後にして「竹林の小径(こみち)」へ。天に届くかのように高く真っすぐに伸びた竹の間から木漏れ日が差し、風が通り抜けてゆく。天龍寺の余韻に浸りながら、ゆったりと散策を楽しんではどうだろう。
天龍寺
- 住所:京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町68
- 参拝時間:午前8時30分~午後5時(午後4時50分受付終了)
- 参拝料:庭園(曹源池・百花苑)参拝料500円、諸堂(大方丈・書院・多宝殿)の参拝は300円追加 ※法堂「雲龍図」特別公開は別途500円(土・日曜・祝日および春夏秋の特別公開期間のみ)
- 定休日:なし
- アクセス:京福電鉄「嵐山」駅からすぐ、JR「嵯峨嵐山」駅から徒歩13分、阪急「嵐山」駅から徒歩15分
取材・文・撮影=エディットプラス
バナー写真=書院から見た嵐山と曹源池庭園(10月~11月頃の様子) 写真提供:天龍寺