打倒サラダチキン! 魚の「練り物」もっと食べて:加工メーカーが分析、タンパク質の消化吸収性で優位
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日本列島が記録的な暑さに見舞われた2023年夏。残暑も厳しく、ようやく秋らしくなってきたのは10月中旬になってから。こうした気温上昇に加え、食の多様化などを背景に、厳しい状況に置かれる水産加工品が「練り物」だ。
涼しくなるに伴って需要が高まるおでんなどの鍋料理では、魚のすり身を使ったちくわやはんぺん、さつま揚げなどが定番具材。今年は暖冬が予想されることもあり、加工メーカーは消費を少しでも高めようと、新しい評価基準を用いた健康機能性のPRや、目先を変えた新商品開発で反転攻勢。人気回復策に乗り出している。
かつてハレの日のごちそうだった練り物
四方を海に囲まれ、河川も多い日本では、古くから魚は貴重なタンパク源だった。水産加工品の歴史も長く、練り物の代表格・かまぼこの起源は平安時代とされる。当時の書物に宮中料理の献立を記録した項があり、竹を芯に魚のすり身を塗って焼き上げた料理の挿絵に、「蒲鉾」の文字が添えられている。
室町時代あたりに、木の板に盛り付けたすり身を焼く「板かまぼこ」が誕生。これと区別するために、元々のかまぼこは「竹輪かまぼこ」と呼ばれ、次第に「ちくわ」と略すようになったらしい。天下泰平の江戸時代に料理が発展すると「蒸しかまぼこ」が登場し、正月のおせち料理では縁起を担いだ紅白かまぼこが欠かせないものとなった。
明治以降、かまぼこやちくわは食卓の定番となり、酒のつまみにも重宝され、贈答用としても人気を得た。しかし、戦後の経済成長によって食の多様化が進むと、魚食の減少に伴って、練り物も食卓から遠のいた。かまぼこ同様におせち料理でおなじみのだて巻きにいたっては、さらに需要が低下しており、若年層には魚のすり身が練り込まれた水産加工品だと知らない人も増えている。
50年で生産量は6割減、おでん消費も黄色信号
農林水産省の水産加工統計調査によると、2022年の練り製品生産量は約47万1000トン。1975年の115万5000トンから約半世紀で6割減少した。加工メーカーは地方の小規模事業者が多く、後継者不足もあいまって減少の一途をたどっている。
冬の定番、練り物をふんだんに使うおでんの人気にも陰りが見えている。かつては季節を先取りし、早い店舗では8月下旬からレジ付近に四角い鍋が置かれたコンビニおでんも、猛暑と暖冬で大幅に販売期間が短縮した。
さらにコンビニおでんは、セルフ式で好きな具材を選ぶ楽しさも人気の理由だったが、指でおでんをツンツン触るマナー違反のSNS投稿が物議を醸し、コロナ禍も重なった。衛生面や感染予防の観点から、アクリル板で囲ってセルフ式をやめると、スタッフの業務負担の増加を理由に、取り扱い自体をやめる店舗が続出。客側も食欲を誘うだしの匂いに触れる機会が減ったことで、おでん自体と縁遠くなりがちのようだ。
タンパク質の新評価基準で、他の食材をしのぐ
そうした状況下で、水産加工品メーカーにとって明るい材料となっているのが、“良質なタンパク質”を測定できる新しい評価基準「DIAAS(消化性必須アミノ酸スコア)」だ。
幕末創業の老舗「鈴廣かまぼこ」(神奈川県小田原市)は、これまでも魚肉が低脂肪・高タンパクであることをアピールしてきたが、従来の評価基準では、その優位性を十分に示すことができなかったという。
良質なタンパク源とは、人が体内でつくり出すことができず、食事から摂取せねばならない9種類の「必須アミノ酸」がバランスよく含まれる食材のこと。これまで評価に使われた「必須アミノ酸スコア」などでは100パーセント以上が切り捨てになるため、魚肉のほか、豚肉や牛乳、鶏卵などが「満点」とひとくくりにされ、より優れた点をアピールしづらかった。
近年、国連食糧農業機関(FAO)が提唱しているDIAASは、消化吸収性を加味したもので、スコア1(100パーセント)以上も測定可能になる。鈴廣かまぼこは山口県予防保健協会食品環境検査センターの協力で、栄養成分検査を実施。広報担当者は「水産練り物は、他の食品よりも高い評価が得られた」と胸を張る。
DIAASで消化吸収力の高さが判明
DIAASではかまぼこのスコアが1.28で、全乳(1.14)やゆで卵(1.13)、鶏むね肉(1.08)、豆腐(0.52)などを上回った。動物性タンパクが植物性タンパクよりもスコアが良く、魚のすり身を酵素で加水分解して作る「魚肉ペプチド」は1.26と、乳タンパク質(1.18)やホエイタンパク質(1.09)、大豆タンパク質(0.90)よりも優秀だ。
特に着目すべきは消化速度で、かまぼこはサラダチキンやゆで卵よりも短時間で分解されやすく、鈴廣かまぼこの広報担当者は「良質である上に、消化吸収性にも優れているため、スポーツや疲労時の栄養補給に最適」と強調。
同社ではプロサッカー選手などの協力を得て、魚肉にホタテやイカ、タコなどを加え、カラフルでスタイリッシュな「フィッシュプロテインバー」を販売している。この商品はかまぼこ以上のスコアをはじき出しており、アスリートからの注目が高まりそうだ。
鈴廣かまぼこでは今年7月、だて巻きをアレンジしたスイーツの提供も開始した。ペースト状にしただて巻きを、氷菓子のジェラートやスムージー、揚げ菓子のチュロスの材料に使って、小田原市の店舗で販売。「若年層にスイーツをきっかけにだて巻きを知ってもらい、かまぼこと共に小田原名物の1つになれば」(広報担当者)と期待する。
DIAASの分析結果はまだ若干ばらつきがあるため、同社では今後も検査を継続して精度を高め、魚肉の優れた点を追求していくという。
高齢者や子どもに人気の新製品も
他メーカーからも、練り物の良質なタンパク質と消化吸収性を生かした商品が続々と誕生している。
上越市環境衛生公社(新潟県)が運営する「口福の店 魚住かまぼこ店」では、“飲むかまぼこ”がキャッチフレーズの「かまナイス」を販売。カップ入りで、レンジでチンすればポタージュのようなトロっとした食感になるので、かむことが難しかったり、飲み込む力が弱くなったりした高齢者に好評という。タマネギやニンジンなどの野菜を合わせてあるので、パスタソースやドレッシングの代わりにも使え、手軽に良質なタンパク質を摂取できる。
「紀文食品」(東京都中央区)では、人気キャラクターをかたどった「すみっコぐらしかまぼこ」が、弁当用などに売れ行き好調。広報担当者は「幅広い世代に練り製品へ興味を持ってもらえるように取り組んでいく」と話す。
練り物は海に囲まれた日本が誇る魚食文化の一つ。時代の変化に合わせて進化し、新たな価値を生むことに期待したい。
バナー:かまぼこやだて巻き、ちくわなどの練り物 PIXTA