“タンスに眠る30兆円”を活用するTOKYO KIMONO SHOES:浅草・靴職人の技で世界に一足の着物スニーカーに

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自然の美をモチーフにした紋様が美しい着物。日本が誇る伝統衣装であるが、現代では大量廃棄が社会問題化している。そんな中、不要となった着物の生地を本革シューズに取り入れたユニークな商品が登場。国内外で注目を集めている。

外国人に大人気の着物柄シューズ

家庭のタンスで眠っている着物をアップサイクルした本革スニーカーが、外国人に好評を博している。2021年に設立したブランド「TOKYO KIMONO SHOES」が手掛けるこの商品は、海外向けの越境EC通販で人気に火がついた。23年1月には、訪日観光客に人気の浅草(台東区)に実店舗をオープン。コロナ禍収束後の“リベンジ消費”の波に乗り、EC販売のみの時期と比べ、約4倍を売り上げる大盛況となっている。

8月現在で、受注生産品は約2カ月待ち。運営元の株式会社POTATO社長・河村晶太郎さんは「職人の手作業による、文字通りの一点物なので生産が追い付かない」と、うれしい悲鳴を上げる。

古き良き時代の浅草の雰囲気漂う昭和家屋の店舗
古き良き時代の浅草の雰囲気漂う昭和家屋の店舗

商品は全て柄違いで、世界に一足限り
商品は全て柄違いで、世界に一足限り

来店者は多い日でも30人程度だが、購入率は非常に高い。というのも、浅草の繁華街からは離れているので、ひやかし客はほぼ皆無。ほとんどが目的買いで、WEBで見つけたお目当ての品の試着やオーダーメードのために来店するのだ。

客の8割は外国人で、そのうち米国からが4割、欧州、オセアニア、東南アジアがそれぞれ2割ほど。英語圏が多いのは「SNSで積極的に情報発信している効果」だと、河村さんは分析している。

左右の靴の柄が非対称なのも味になっている
左右の靴の柄が非対称なのも味になっている

牛革の高級な質感が、着物の華やかな柄を引き立てる。スニーカーは全て男女兼用だ
牛革の高級な質感が、着物の華やかな柄を引き立てる。スニーカーは全て男女兼用だ

買い取り後に9割が廃棄される着物を再生

鮮やかな染色と繊細な絵柄によって花鳥風月を表現する着物は、日本の民族衣装。和風の美意識と、それを具象化する職人技が感じられることから、外国人の多くが興味を引かれる。

母から娘へと受け継がれ、成人式や結婚式など「ハレの日」に礼装としてまとう伝統があるものの、着付けやケアに手間がかかることから、着物人口は減少の一途をたどる。思い出深いことや、買えば数十万円は下らないことから、タンスの肥やしにする人が多い。そのため、日本全体で実に8億点、換算すると30兆円相当の着物が眠り続けているといわれ、結局は日の目を見ずに処分されてしまうのだ。

着物を買い取る業者はあるものの、「再び市場に出回るのは1割程度で、残りは廃棄されている」のが現状で、河村さんの会社は不要品を譲り受けている。また、店舗への持ち込みも歓迎しており、「捨てるに捨てられない着物を活用したオーダーメードも8月から始めた」そうで、日本人の客も増えそうだ。

反物よりも刺しゅうが繊細な帯を使った靴の方が高値に設定されている
反物よりも刺しゅうが繊細な帯を使った靴の方が高値に設定されている

TOKYO KIMONO SHOESは着物廃棄を低減する取り組みとして、米国CNNの番組『Eco Solutions』に取り上げられるなど海外から注目を集める。

河村さんは「結果として、リサイクルにつながる商材を扱うことになったが、当初の事業目標は、日本の優れたものづくりを周知することだった」と振り返る。高い技術力を持つ浅草の靴工房と出会い、着物再生スニーカーの販売提携を結んだことで、「クラフトマンシップを世界に発信すると共に、社会課題解決の一翼を担う」という大きな目的に変わったそうだ。

廃棄寸前の着物を引き取って材料に
廃棄寸前の着物を引き取って材料に

1951年の創業以来、靴づくりに携わってきた町工場が靴に仕立てる
1951年の創業以来、靴づくりに携わってきた工房が靴に仕立てる

製造を担う有限会社アクストは、浅草店から徒歩6~7分。観光地として知られる浅草だが、靴や革製品が地場産業であり、町工場や問屋が軒を連ねている。この町で72年続く靴資材メーカーが設立したアクストは、女性向けを中心に多品種少量生産にこだわる工房だ。

“メード・イン・浅草”に込められた靴職人のこだわり

職人が生み出すTOKYO KIMONO SHOESには、長年培ってきた熟練の技が生かされている。使用するのは正絹の反物と帯で、見栄えが牛革にマッチする柄を厳選。生地を型抜きする際は、靴の左右の柄を調和させるためにセンスも重要となる。

着物の生地を本革に縫い合わせる
着物の生地を本革に縫い合わせる

年代物の足踏みミシンを扱うベテラン縫製職人もいる
年代物の足踏みミシンを扱うベテラン縫製職人もいる

美しい着物の柄を生かしたデザイン面に目を奪われるが、履きやすさと歩きやすさを追求した機能面の工夫も随所に見られる。靴の表側の正絹は、耐久性の高い牛革と接合。足にフィットする裏地には、摩耗に強くて通気性が高い豚革を使用している。また、中底の土踏まずの部分には、安定した歩行を助ける「シャンク」という細長い鉄板を入れている。これはヒールの高いパンプスによく使用されるパーツで、婦人靴メーカーのこだわりとしてスニーカーにも採用しているという。

甲部の革を引っ張って中底に固定する「釣り込み」。全工程が手作業だ
甲部の革を引っ張って中底に固定する「釣り込み」。全工程が手作業だ

ソールのかかと高は25ミリ。スムーズな歩行に最適だという
ソールのかかと高は25ミリ。スムーズな歩行に最適だという

こうした機能性へのこだわりこそが、“メード・イン・浅草”の真骨頂。だが、商品コピーではあえて強調していないと河村さんは言う。履き心地は買った後で実感してもらうのが一番だからだ。「実際、購入数が右肩上がりの現在でもリピート率は10パーセントを超えており、クオリティーへの評価を裏付けていると思う」と胸を張る。

取材当日はTOKYO KIMONO SHOESの新作サンダルを製造していた
取材当日はTOKYO KIMONO SHOESの新作サンダルを製造していた

河村さんを突き動かす原点は、流通業の会社員時代に抱いた一つの“思い”にある。9年間のインド駐在中に母国を遠望して、メード・イン・ジャパンのブランド力が後退していることを強く実感したのだという。

「日本製品が世界市場を席巻した時代が終わり、オフショア生産していた国々に取って代わられたのを思い知った。家電一つとっても、今の主流は中国や韓国の製品。しかし、日本にはまだまだ知られざる良いモノがあるのだと、世界に伝えたかった」

靴どころ浅草製の自信を表す刻印
靴どころ浅草製の自信を表す刻印

「シルクやレザーという良質の素材と、日本のクラフトマンシップを掛け合わせれば、世界に通用するものが作れるはず」と考え、現在は靴以外の着物リメーク商品を開発中だ。23年夏には、足立区の革製品工房とタッグを組んで“着物バッグ”の製造・販売を開始。今後はベルトや財布などの商品化も計画している。また、製造過程で生じる端材を有効活用するため、着物素材を使った小物のワークショップなどの構想も練っている。

「実現したいアイデアはたくさんありますが、とにかく人手が足りない。浅草の靴や革製品の業界も、職人の後継者不足が大きな課題。賛同してくれる人を募り、伝統をつないでいきながら、ジャパンブランドの真価を世界に広めていきたい」

POTATO社長の河村さん(左)と広報の小西七海さん
POTATO社長の河村さん(左)と広報の小西七海さん

TOKYO KIMONO SHOES 浅草店

  • 住所:東京都台東区花川戸2-11-9
  • 定休日:月・火曜日
  • 営業時間:午前11時~午後7時
  • アクセス:東武・東京メトロ「浅草」駅から徒歩6~7分
    ※定休日は時期により変更するので、公式HPで要確認

撮影=花井智子
取材・文=ニッポンドットコム編集部

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