初サンマが豊洲で過去最高の1匹2万5000円!:2023年も大不漁の予測、海水温の上昇などが要因

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過去にない大不漁が続く、秋の風物詩・サンマ。8月中旬に北海道で初水揚げされたものの、少量の上に身が細く、2023年も期待薄の状況だ。沖合での早取りを問題視し、近年は資源管理策の必要性が叫ばれてきたが、海洋環境変化による複雑な要因も顕在化し、回復・豊漁へと導くのは厳しい状況にある。

日本の台所と呼ばれる東京・豊洲市場(江東区)に8月21日、2023年シーズンの初サンマが入荷した。北海道東部のはるか沖合で漁獲され、19日朝までに根室や厚岸港に水揚げされたものの一部。不漁を裏付けるように、22年よりも1カ月以上遅い初荷で、今年も小型でほっそり。同市場の競り人からも「昨年よりは若干大きいが、まだまだ小ぶりな上に、脂の乗りもよくない」と、評判は芳しくなかった。

それでも初荷の中で最も大きな125グラムほどのサンマは、ご祝儀相場で卸値が1キロ20万円。1匹当たり2万5000円の過去最高値で、庶民にはとても手が出せない価格でスタートした。

豊洲市場に今シーズン初入荷した北海道産のサンマ。卸値は過去高値を付けた 写真提供:市場関係者
豊洲市場に今シーズン初入荷した北海道産のサンマ。卸値は過去最高値を付けた 写真提供:市場関係者

最盛期は50万トン超、22年は2万トンに満たず

日本のサンマ漁業の歴史は古く、およそ300年前に紀伊半島の南沖、和歌山・三重県沖の熊野灘で始まったとされる。戦後、サンマの習性を利用し、夜間にサーチライトで魚群を網へと誘い込む「棒受け網漁」を導入。漁獲量が飛躍的に伸びたことで、1955年には年間50万トンに達し、庶民の味として定着していった。

サンマ漁獲のピークは1958年の約57万5000トンで、その後も好・不漁を繰り返しながら数十万トンレベルを維持。ソ連時代からロシアがサンマ漁をしているものの、量は少なく、日本が太平洋のサンマをほぼ独占してきた。90年ごろから台湾や韓国が参入し、特に2000年代に入ってからは台湾が急伸。日本のシェアは次第に落ち込んでいくが、それでもおおむね年間20万~30万トンのレンジを推移していた。

2013年に14.7万トンの不漁となると、18.2万トンだった台湾に初めて首位の座を明け渡す。同時期に中国も台頭し始める中、15年以降は10万トン前後まで落ち込み、19年に5万トンを切ってからは毎年過去最低を更新。22年には1万8000トンを割り込み、価格も高騰した。

不漁の原因は、公海での早取りなのか?

サンマは例年、春から太平洋を北上し、秋から冬にかけて親潮に乗って道東・三陸沖を南下し、冬に南の海域で産卵する。つまり、秋になると日本近海で大量に漁獲できたわけだが、現在シェア1位の台湾、2位の中国は公海上が漁場で、主にサンマが日本の排他的経済水域(EEZ)に来遊する前の春から夏にかけて操業しているのだ。

近年、この早取りが日本の不漁の大きな要因とみられてきた。だが台湾も中国も、2019年以降は日本同様に右肩下がりの状況。国を越えた資源管理策の必要性が叫ばれ、2020年から北太平洋漁業委員会(NPFC)でサンマの漁獲枠を設定している。

23年の総漁獲量は25万トン以内に制限され、そのうち公海での漁獲枠は15万トンと前年比25%程度を削減した。資源管理の強化は一定の評価を受けているものの、22年は1位の台湾が4万1000トン、2位の中国が3万5000トン(NPFC調べ)ほど。日本と韓国、南太平洋のバヌアツなどを含めた総漁獲量でも10万トンに満たないだけに、規制枠には余裕があり、資源回復への即効性は見込めないだろう。

親潮が蛇行、サンマは分散

そうした中、国立研究開発法人水産研究・教育機構が「サンマの不漁要因解明について」をまとめ、今春発表した。どうやら海洋環境の変化も、複雑に絡み合っているようだ。

契機となったのは、2010年ごろに起きた資源分布の沖合化だという。サンマが日本沿岸から遠く離れだしたわけだが、背景として同機構は「近年の親潮の弱化と、北海道東・三陸沖の水温上昇の影響が大きい」と分析する。 

親潮は栄養分が豊富なため、魚介がよく育つことが名の由来。秋に千島列島に沿って北から南へ冷たい海水を運んできたが、近年は潮流が弱まっている。加えて「北緯40~41度付近に、海面水温の高い海域(高水位偏差の壁)が東西方向に広く帯状に形成されている。これを親潮が乗り越えられず、(日本の近海を)南下することができなくなっている」(同機構)と説明する。

その結果、親潮は道東・三陸沖から離れるように東へ蛇行。釧路沖には水温が高い「暖水塊」も発生しているため、冷たい海水を好むサンマが日本近海になかなか近寄れない。

また、沖合化が継続している理由として、日本の近海寄りに、餌を競合するマイワシ、サバが多く来遊していることも挙げている。沖合は近海に比べて餌が少ないため、サンマの成長が悪く、魚体がほっそり。産卵も減ってしまうので、その後の資源量にも大きな影響を与えると予想される。

沖合化が生んだ深刻な弊害

サンマを取り巻く海洋環境の変化について詳述したが、ともすると「今後どれほどサンマを取ろうが関係なく、結局は海洋環境が戻れば、豊漁になるのではないか」と考えるかもしれない。しかし、決してそんなことはないようだ。 

同機構の研究者も「サンマ資源が減少傾向にある中で、2000年以降、日本に加えて外国漁船も競うように漁獲してきたことや、中国・台湾漁船が早取りするようになったことなど、さまざまな漁獲圧の増大は、資源水準の低下を招いた要因の一つ」とみている。引き続き資源管理も不可欠だろう。

さらに不漁続きで、サンマ棒受網漁船の減少も問題化している。22年に日本で水揚げされたサンマの95パーセントが公海上で取れたもののため、沖合で操業するのが難しい小型の10~20トン級が特に大きな打撃を受けており、この10年で4割以上の船が撤退してしまった。仮に日本の沿岸部にサンマが戻ってきても、漁船が少なければ以前のような水揚げ量は期待できない。

魚食文化を守るため、サンマを食べよう!

サンマシーズンが迫った7月下旬、水産庁が発表したサンマの長期漁海況予報によると、2023年の漁期の来遊量は歴史的な不漁となった22年と同水準。漁場は引き続き、遠い公海が中心となる。漁獲対象となる1歳魚の重さは110~120グラム台が中心で、前年(100~110グラム台)よりはましなものの、小ぶりなことに変わりなさそうだ。

かつて9月になるとスーパーなどで、150グラム以上の大型で脂が乗ったものを1匹100円を切る安値で提供していたが、当面は安くておいしいサンマにはありつけそうにない。それどころか、今夏「災害級」の猛暑が続いたことを考えると、あのころのサンマは半永久的に食べられない可能性もある。ただ、秋の風物詩として、日本の食文化において確固たる地位を得てきた魚。少し小さく、高くなっても、ぜひ購入して、サンマ漁業を下支えしてもらえればと思う。

不漁を反映して、昨年よりも1か月以上遅れて豊洲市場に初入荷した小ぶりなサンマ 写真:市場関係者提供
不漁を反映して、昨年よりも1か月以上遅れて豊洲市場に初入荷した小ぶりなサンマ 写真:市場関係者提供

バナー写真:2022年秋の目黒のさんま祭り 筆者提供

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