世界遺産・京都「平等院」:地上に極楽を再現した「鳳凰堂」で“360度国宝”体験

文化 歴史

10円硬貨に刻まれた鳳凰堂や1万円札に描かれる鳳凰など、誰もが見覚えのある宇治の平等院(京都府宇治市)。約千年前の文化を伝える国宝の建造物や彫像が数多く残り、1994年には「古都京都の文化財」としてユネスコの世界文化遺産に登録された。年間百万人以上が訪れる、京都市近郊きっての名所を紹介する。

平安貴族の別荘地・宇治にたたずむ浄土信仰の古寺

京都市の南に位置する宇治は、平安時代初期から貴族の別荘「別業(べつごう)」が数多く設けられた土地。『源氏物語』終盤のエピソード「宇治十帖」の舞台にもなっており、主人公・光源氏のモデルとされる源融(みなもとのとおる)が実際に別邸を所有していたという。その別業は後に、摂政として権勢を振るった藤原道長の手に渡る。1052(治承7)年に、道長の長男で関白だった頼通(よりみち)が寺へと改修。それが平等院の起源である。

1052年は、釈迦の教えが衰滅し始める末法初年ともいわれる。世の中が危機感に包まれる中、“阿弥陀如来(あみだにょらい)を信仰すれば、死後に極楽浄土へ行ける”という教えが流行し、各地に阿弥陀堂が造られた。平等院で創建の翌年に完成した「阿弥陀堂(現在の鳳凰堂)」も、その一つだ。

10円玉でおなじみの鳳凰堂。水鏡に映る姿は幻想的 写真提供:平等院
10円玉でおなじみの鳳凰堂。水鏡に映る姿は幻想的 写真提供:平等院

鳳凰堂は極楽浄土を表現した浄土式庭園の中心的存在で、阿字池(あじいけ)の中島に立つ。天竺(てんじく、インドの古称)と同一視される極楽浄土は西方にあるため、池の東岸から遥拝するように設計されている。屋根の上に一対の鳳凰像が据えられており、建物を正面から見た姿が翼を広げた鳥のように見えることから、江戸時代以降に鳳凰堂と呼ばれるようになったらしい。

10円玉でおなじみの鳳凰堂。水鏡に映る姿は幻想的で、その美しさから「極楽の宝池に浮かぶ宮殿」と形容される
その美しさから「極楽の宝池に浮かぶ宮殿」と形容される

1万円札に描かれている鳳凰像は初代のもので、建立から約900年にもわたって阿弥陀堂を見守り続けた。保全のために1968年に取り外され、新しい鳳凰像にバトンタッチ。2014年には2代目に金箔を施し、創建当時の姿をよみがえらせた。

鳳凰は空想上の霊鳥。初代鳳凰像は境内の「ミュージアム鳳翔館」で所蔵展示している 写真提供:平等院
鳳凰は空想上の霊鳥。初代鳳凰像は境内の「ミュージアム鳳翔館」で所蔵展示している 写真提供:平等院

どこを見ても国宝! 鳳凰堂内部を拝観

鳳凰堂は内部も魅力的だ。広報担当者は「創建当時の貴重な仏像、絵画、装飾が残されており、最も国宝指定文化財が集積した空間といわれています」と解説する。

中央に鎮座する阿弥陀如来坐像は、平安時代を代表する仏師・定朝(じょうちょう)の作。最大の特徴が、頭や胴体を分割して制作し、それらを合体させて1体の像にする「寄木造(よせぎづくり)」という技法だ。高さは約2.77メートルだが、間近で眺めるともっと大きく感じるほど迫力がある。眉間にある巻き毛の白毫(びゃくごう)は、角度によって色や輝きが違って見えるのが神秘的だ。

堂内の仏像、天蓋、壁扉画はすべて国宝 写真提供:平等院
堂内の仏像、天蓋、壁扉画はすべて国宝 写真提供:平等院

阿弥陀如来坐像は定朝作だと断定できる現存唯一の仏像 写真提供:平等院
阿弥陀如来坐像は定朝作だと断定できる現存唯一の仏像 写真提供:平等院

頭上の美しい天蓋に加え、本尊を取り巻くように並ぶ雲中供養菩薩像は52体もあり(うち半数を堂内に安置)、全てが国宝だ。楽器を演奏していたり、踊っていたりとポーズもさまざまで個性的。“推し”を見つけて楽しむ人も多いという。

雲中供養菩薩像は半数の26体がミュージアムに収蔵展示されている 写真提供:平等院
雲中供養菩薩像は半数の26体がミュージアムに収蔵展示されている 写真提供:平等院

(写真左)南20号は舞踊を舞う菩薩で、美しい曲線を描くシルエットで人気 (中央)南21号は雅楽の管楽器・笙(しょう)を演奏 (右)造像当時の鮮やかな彩色を再現した南26号の模刻像 写真提供:平等院
(写真左)南20号は舞踊を舞う菩薩で、美しい曲線を描くシルエットで人気 (中央)南21号は雅楽の管楽器・笙(しょう)を演奏 (右)造像当時の鮮やかな彩色を再現した南26号の模刻像 写真提供:平等院

堂内の壁扉画「九品来迎図(くほんらいこうず)」は、“人の性質や行いに応じ、死に際に9通りの方法で仏が迎えに来てくれる”という教えを絵で表している。性質や人柄が良いほど大勢の仏が現れるとされており、本図は最上級の迎えの様子を描いている。

鳳凰堂内の壁扉画(国宝)の復元模写(部分) 写真提供:平等院
鳳凰堂内の壁扉画(国宝)の復元模写(部分) 写真提供:平等院

日本三名鐘「平等院の鐘」と源平合戦ゆかりの「扇の芝」

広い境内には鳳凰堂以外にも、見どころが尽きない。

特に見逃せないのが、天下の三名鐘の一つとしてたたえられる梵鐘だ。音色が美しい「声の三井寺(園城寺)」、銘文が格調高い「銘の神護寺」に対して、「形の平等院」と称される優美な造形が特徴。鳳凰、獅子、唐草といった多彩な文様の浮き彫りが施してあり、その華麗さに時を忘れて見入ってしまう。

境内の鐘楼にあるのは2代目の梵鐘。大みそかの除夜の鐘は一般参拝者もつくことができる
境内の鐘楼にあるのは2代目の梵鐘。大みそかの除夜の鐘は一般参拝者もつくことができる

初代梵鐘(国宝)はミュージアムにて収蔵展示。高さ199センチ、口径123センチ、重さ約2トン 写真提供:平等院
初代梵鐘(国宝)はミュージアムにて収蔵展示。高さ199センチ、口径123センチ、重さ約2トン 写真提供:平等院

知らないと通り過ぎてしまいそうな「扇の芝」は、平安末期の武将・源頼政が切腹した場所として歴史愛好家にはおなじみ。1180(治承4)年に「平等院の戦い」で、平家の軍勢に敗北した頼政が、極楽浄土がある西に向けて扇を広げ、和歌を詠んだのち自害したという。鳳凰堂の後方には頼政の墓地もあるので、そちらもお参りしたい。

源頼政が果てた扇の芝
源頼政が果てた扇の芝

国宝がずらり!「ミュージアム鳳翔館」

境内にあるミュージアム鳳翔館は、国宝の初代鳳凰像や初代梵鐘をはじめ、貴重な寺宝を収蔵展示する博物館。文化財の細かな意匠を、こだわりの照明演出で際立たせている。

見どころの一つが、鮮やかな彩色が施された創建当時の鳳凰堂内部を再現した展示。平安貴族が思い描いた極楽浄土を目の当たりにできる。併設するミュージアムショップでは、所蔵する文化財をモチーフにした豊富なグッズを販売しているので、おみやげにおすすめだ。

ミュージアムは大半を地下構造として、外観を庭園と調和させている
ミュージアムは大半を地下構造として、外観を庭園と調和させている

鳳凰堂内部の扉絵を再現した空間は、どこを見てもきらびやか 写真提供:平等院
鳳凰堂内部の扉絵を再現した空間は、どこを見てもきらびやか 写真提供:平等院

堂内の装飾をモチーフにした模様の折り紙(右)とマスキングテープ(中央)、鳳凰堂の外観をあしらったしおりなども販売 写真提供:平等院
堂内の装飾をモチーフにした模様の折り紙(左)とマスキングテープ(中央)、鳳凰堂の外観をあしらったしおりなども販売 写真提供:平等院

鳳翔館の向かいにあるカフェ「茶房 藤花」では、厳選した茶葉を徹底した温度管理で抽出した本格宇治茶を堪能できる。境内散策時に立ち寄って、ほっと一息つき、極楽浄土を思い描いてみては?

本格的な宇治茶を境内で味わえる日本茶専門カフェ
本格的な宇治茶を境内で味わえる日本茶専門カフェ

宇治玉露の冷茶。鳳凰の姿と堂内の文様をかたどった2種の干菓子が付く 写真提供:平等院
宇治玉露の冷茶。鳳凰の姿と堂内の文様をかたどった2種の干菓子が付く 写真提供:平等院

平等院

  • 住所:京都府宇治市宇治蓮華116
  • 拝観時間:午前8時30分~午後5時30分(午後5時15分受付終了)
    ミュージアム鳳翔館:午前9時~午後5時(午後4時45分受付終了)
    茶房 藤花:午前10時~午後4時30分(L.O.午後4時)、月・火・水曜日休み(祝日は営業)
  • 拝観料:600円(ミュージアム鳳翔館入場料含む)
    ※鳳凰堂内部拝観は別途300円(整理券を購入後、指定時間に拝観。解説付き。各回50人・先着順)
    ※英語・繁体字・簡体字・韓国語のパンフレット有り(内部拝観はフランス語・スペイン語・タイ語のパンフレットも有り)
  • アクセス:JR・京阪「宇治」駅よりそれぞれ徒歩10分

取材・文・撮影=エディットプラス

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