世界遺産・奈良「法隆寺」で野外オペラ:日本が誇る古寺とイタリア伝統芸術の融合に喝采
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国宝の殿堂に「ブラボー」がこだまする
「法隆寺地域の仏教建築物」としてユネスコの世界文化遺産に登録されている法隆寺で、5月18~21日に野外オペラ「ジャパン・オペラ・フェスティヴァル」が開催された。本場イタリアでは世界文化遺産ヴェローナのコロッセオを利用したオペラが恒例となっているが、日本の伝統建築を舞台とした公演は非常に珍しい。由緒ある寺院を「借景」に、イタリアから招いたオペラ歌手やオーケストラが本場のオペラを披露した。
日本を代表する文化財や名所旧跡を舞台とする「ジャパン・オペラ・フェスティヴァル」は2015年の開始以来、姫路城(兵庫県姫路市)、熊本城(熊本市)、平城宮太極殿(奈良市)などで公演。コロナ禍による3年間の休演を経て、復活の場として、世界遺産登録30周年を迎えた法隆寺での記念公演が実現した。
法隆寺は、607年に聖徳太子が創建した国内屈指の古寺。日本仏教草創期の美術品や建造物を今に伝え、国宝・重要文化財は190件を数える。
会場となった西院伽藍は、7世紀建立の金堂や五重塔など世界最古の木造建築群があるエリアだ。特設ステージ後方の大講堂から薬師三尊像が見守る中で、作曲家ヴェルディの傑作「トロヴァトーレ(吟遊詩人)」を上演。祈りの空間を舞台背景に、呪いと復讐の物語が展開するという挑戦的な試みで、会場は神秘的な雰囲気に包まれた。
オペラでは通常、幕が変わるごとに観客が拍手と歓声を送るものだが、物語が途切れることを嫌ったヴェルディは、本作では演奏を通すように作曲した。幕あいを含めて2時間40分の上演中は息を飲んでいた観客だが、終幕を迎えると万雷の拍手と共に「ブラボー!」の歓声を上げた。カーテンコールでは演者が薬師像に合掌礼拝する場面もあり、普段は静寂の闇に包まれる境内に喝采がこだました。
オプショナルツアーでは文化財の修復現場を公開
世界的観光地での公演だけに、外国人客の姿も少なくなかった。そのため、英語通訳同行の特別プランとして、法隆寺の文化財修復の見学ツアーも実施した。
境内東側の「東院伽藍」は、聖徳太子の斑鳩宮跡地で748年に創建した夢殿で知られる。見学ツアーでは東院伽藍を囲う「東院廻廊」と、夢殿の礼拝場所である東院礼堂を文化財修復技師がガイドした。共に13世紀建立の重要文化財で、2024年度の完成に向けて修復工事中だ。
工事を担当する奈良県文化財保存事務所の吉田恭純さんが「廻廊の骨組みは木材のみを組み合わせる構造。古いパーツを取り換える際は、同じ種類の木材を使う」と、文化財修復の原則や難しさを説明。ひのきなど同じ国産の木材を探すのはもちろん、年輪の密度までそろえることもあるという。
「瓦も貴重な文化財」(吉田さん)のため、屋根のふき替えにも、技術と経験を駆使した入念な作業が必要。一つ一つ金づちでたたいて、金属音のような高い音が出れば継続使用、鈍い音なら交換と判別している。礼堂の場合、日当たりの悪い北側の屋根瓦が、冬場に雨水が凍ることもあるので損傷しやすい。そのため、北側には新調した瓦を配置し、古い瓦は南側の屋根に移して再利用している。
そんな瓦のリユースは今に始まったことではなく、大昔からある慣習で、法隆寺は「瓦の博物館」とも呼ばれる。礼堂の屋根にも建立はるか以前の飛鳥時代の瓦が残っており、作業現場では各時代の瓦を見比べることができた。
歴史ある建造物の屋根を、工事用の足場から間近に見られるのはめったにない機会。参加した外国人も屋根の装飾に見入るなど、日本の伝統建築様式に興味津々の様子で、「日本の耐震基準は厳しいが、文化財は対象外?」「スプリンクラーを入れないのか」などと次々に質問を投げかけていた。
夕方になると境内に梵鐘の音が響きわたり、正岡子規の俳句「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」を思い起こしていると、今度は「教会の鐘」が聞こえてきた。オペラの音響テストだろうか……、これもまた現代ならではの異文化融合体験である。
法隆寺
- 住所:奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺山内1-1
- 拝観時間:2月22日-11月3日=午前8時~午後5時、11月4日-2月21日=午前8時~午後4時30分
- 拝観料:一般=1500円、小学生=750円 ※西院伽藍内、大宝蔵院、東院伽藍内共通
- アクセス:JR法隆寺駅から徒歩20分 ※JR法隆寺駅・JR王寺駅・近鉄筒井駅から路線バス発着
バナー写真:「ジャパン・オペラ・フェスティヴァル」2023法隆寺公演 ©公益財団法人さわかみオペラ芸術振興財団
撮影=木下清隆
取材・文=ニッポンドットコム編集部