世界遺産・京都「下鴨神社」:暮らしを守る御利益いっぱい、鎮守の森を巡る
Guideto Japan
旅 文化 歴史- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
初夏の風物詩「葵祭」で知られる京都最古の神社
祇園祭、時代祭と並び、京都三大祭りに数えられる「葵祭(あおいまつり)」。正式には「賀茂祭」といい、下鴨神社と上賀茂神社(京都市北区)の例祭だ。約1500年の歴史があり、平安時代からは天皇が使者・勅使を派遣するようになったため、格式高い「勅祭」となった。毎年5月15日の「路頭の儀」では、祭りのヒロイン「斎王代(さいおうだい)」ら500人が宮廷装束姿で練り歩き、平安絵巻のような光景が広がる。
「賀茂社」と総称される2つの神社は、古代の豪族・賀茂氏の氏神(うじがみ)であり、彼らが暮らした鴨川流域に鎮座する。下流側にある下鴨神社は賀茂氏の祖神を祀(まつ)るため、正式名称は「賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)」という。
社伝によれば、創建は紀元前にまでさかのぼる。境内にある糺(ただす)の森では縄文時代の祭祀場跡が発掘されており、太古から聖地だったことは間違いない。境内全域が国の史跡で、1994年には「古都京都の文化財」としてユネスコの世界文化遺産に登録された。
京都屈指の古社だけに、御利益や見どころが満載だ。祭神の賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)は、八咫烏(やたがらす)に化身して、初代天皇・神武天皇が大和(やまと=現在の奈良県)へ遠征した際に道案内をしたと伝わる。その伝承から、厄除けや交通安全の御利益で知られる。共に祀られるのは娘の玉依媛命(たまよりひめのみこと)で、上賀茂神社の祭神・賀茂別雷命(かもわけいかづちのみこと)の母。そのため、安産や子育ての神様とされる。
2神を祀る本殿は東西に2棟が並ぶ。共に国宝に指定され、檜皮(ひわだ)ぶきの屋根は入り口側が長く延びる流造(ながれづくり)で、古来の神社建築を今に伝える。通常は非公開のため、7~9月の「本殿・大炊殿(おおいどの)特別公開」などの機会に拝観したい。
本殿を筆頭に建築も見どころで、楼門や舞殿など53棟が重要文化財。中には、柱を地中に埋めずに石の土台の上に据えた珍しい社殿もある。21年ごとに建物を修繕する式年遷宮が約1000年も続くため、解体しやすい構造にしているという。
12万4000平方メートルに及ぶ境内には、さまざまな神様を祀る摂社・末社も点在する。御神木や霊水、人気の授与品があるので、パワースポット巡りが楽しめる。
言社
本殿前に並ぶ7つの「言社(ことしゃ)」は、生まれ年の守護神を祀る。干支に合わせたお社(やしろ)を探し、手を合わせよう。
7つのお社の祭神は、国造り神話に登場する大国主命(おおくにぬしのみこと)と、その異名の神々。呼び名ごとに違う役割や神徳を持った7柱が、12の干支を1つまたは2つずつ分担して守っている。
授与所
中門左手にある境内最大の授与所には、バリエーション豊富なお守りがそろう。女性に人気なのが、開運の御利益がある銀刺しゅうを施した「レース御守」や、ちりめん生地で心願成就の「媛守」。男性守護の「彦守」も、おしゃれなデニム生地で好評だ。
井上社
中門の東側に鎮座する井上社は、災難よけの神様。社前に広がる御手洗池は、7月土用丑(うし)の日に足を浸すと疫病にかからないと伝わり、この時期に開かれる「みたらし祭」では素足で池に入る参拝者でにぎわう。権禰宜(ごんねぎ)大塚さんは「葵祭に臨む斎王代が禊(みそぎ)をする場所。本殿参拝の前にお参りを」と勧める。
ちなみに、和菓子の定番「みたらし団子」はもともと下鴨神社の門前菓子。御手洗池の底から湧く水泡に似せて作ったものが広まったそうだ。ぜひ、本場でご賞味あれ。
相生社
楼門そばの末社・相生社(あいおいしゃ)は、縁結びや安産、育児、家庭円満の神様を祀る。2本の木の幹が合体した不思議な御神木「連理の賢木(さかき)」は、恋が成就するパワースポットとして人気だ。
河合神社
境内の最も南にある摂社。祭神は神武天皇の母神で、「玉のように美しかった」と伝わることから、美麗や安産、育児、縁結びなど女性守護の信仰を集めてきた。
境内には手鏡形の絵馬「鏡絵馬」が並ぶ。自分の顔に見立ててメーキャップし、裏に願い事を書けば「理想の顔」になれるという。絵馬と一緒に授与される神様に供えた米を、いつもの米に混ぜて炊いて食べれば、身も心も美しくなれるかも。
糺の森
境内の大半を占める糺の森も、巨大なパワースポット。ケヤキやエノキなどのニレ科を中心に縄文時代と同じ植生が残り、樹齢600年の巨木もある。カモを代表とする野鳥、絶滅危惧種のムネアカクロコメツキなどの昆虫も生息している。
糺の森は、古くから文人に愛された。『源氏物語』では、主人公・光源氏が濡れ衣を着せられて都を離れる際、良からぬ評判は「糺すの神にまかせて」と詠むシーンがある。鎌倉時代には、河合神社の禰宜の息子で随筆『方丈記』で知られる鴨長明が、この森を流れる「せみの小川」の清らかさを歌でたたえた。神が宿る美しい森は、現代でも訪れる者に癒やしとインスピレーションを与えてくれるだろう。
休憩処「さるや」
境内散策でひと休みするなら、「さるや」に立ち寄ろう。四季の風景と共にお茶や甘味が味わえる茶店だ。
名物「申餅」は、明け方の空が一瞬だけ見せる薄あかね色に似た「はねず色」の餅と、上品な甘さが特徴。あんの小豆は、下鴨神社の社領があった丹波地方名産の「丹波大納言」を使い、その煮汁で染めた餅で包む。近世までは、葵祭の前日の申の日に、勅使をもてなすための菓子だったという。
一緒に素朴な味わいの「まめ豆茶」も楽しみたい。こちらも丹波産の黒豆のみを使用しており、かつては神事を控える神職が飲んだお茶で、良薬とされたものだ。パワースポットを巡る際に、心身を整えるのに最適といえる。
下鴨神社
- 住所:京都府京都市左京区下鴨泉川町59
- 拝観時間:午前6時30分~午後5時(特別拝観は午前10時~午後4時) 休憩処さるや:午前10時~午後4時30分
- 拝観料:参拝無料(大炊殿、御車舎、河合神社の特別拝観は共通500円)
- アクセス:JR「京都駅」駅より、京都市バス「西賀茂車庫前」行きで「下鴨神社」下車、徒歩すぐ
取材・文・撮影=エディットプラス