築地場外市場が過去最高のにぎわい:名店はもちろん、ワンコインで味わえる新商品にも行列
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コロナ以前を超える観光客で、築地名物が大売れ
築地場外市場の総合案内所「ぷらっと築地」のスタッフは、「2022年秋までは1日数人しか立ち寄らないこともあったが、最近は毎日300~400人が訪れ、対応が間に合わないほど」と、うれしい悲鳴を上げていた。
新型コロナウイルス感染の流行が落ち着き、インバウンドを中心に観光客が戻ってきている。ぷらっと築地では「来たくても来られなかったころの反動に加え、SNSの一層の浸透で、話題の店にはコロナ前よりも人が集まっているのではないか」とみている。
案内所の目の前にある玉子焼き店「山長」は、連日長蛇の列。1949年創業の老舗で、十数年前に玉子焼きに串を刺した「串玉」を考案。観光客が手軽に食べられることから、築地名物として広まった。
発売以来ずっと1串100円で販売していたが、鳥インフルエンザの影響などで卵の価格が高騰。「売れば売るほど赤字」(山長)となり、今年から150円に値上げした。人気低下を覚悟したものの、「観光客の急増で、そんな心配は吹き飛んだ」と語る。店前の行列は日に日に伸びている状況で、現在は毎日2000本を売り切るそうだ。
豊洲移転とコロナ禍のダブルパンチ
「場内」と呼ばれた旧築地市場が、老朽化によって豊洲へと移転が決まった後も、築地場外市場では「場外は移転しません!」とPRしながら営業を続けてきた。
旧築地市場の前身・日本橋魚河岸は、関東大震災(1923年)で壊滅的な被害を受け、築地の海軍用地で臨時営業を始めた。1935(昭和10)年に青果部を加え、正式に東京都中央卸売市場築地本場が誕生。北東側は築地本願寺の墓地だったが、こちらも震災の影響で移転したため、跡地に水産物商や調理道具店、市場関係者相手の飲食店が軒を連ねる。つまり「築地場外市場」は、自然発生的に形成された商店街なのだ。
入場許可証が必要な場内と違い、商店街なので誰でも自由に買い物できる。日本中から集まる新鮮な魚介に加え、プロ向けの調理器具や乾物などが手に入るとあって、一般客からも人気を博す。特に年末は正月の準備で人があふれかえり、1980年代からは「すしブーム」と共に「築地」の名も世界的に広まったことで、海外からの観光客も集まるようになった。
場内は2018年10月、豊洲へと移転。当然「活気が失われるのではないか」と心配されたが、商店街の地道なPR活動に加え、中央区もにぎわいを継続させるために、豊洲市場の仲卸などが約60軒入居する商業施設「築地魚河岸」を開設。高級魚や旬の魚介を求める一般客はもちろん、「豊洲よりも近くて便利」というプロの料理人も重宝する。さらに、銀座観光や歌舞伎座観賞などとセットで訪れるインバウンドにも支えられ、活気を維持していた。
しかし、コロナ禍で観光客は激減。時短営業や週末のみの営業を強いられ、500軒近くある店はどこも売り上げが大幅にダウン。「廃業に追い込まれた店も少なくなかった」(NPO法人築地食のまちづくり協議会)という。
場外来場者は増加の一途、おにぎり店にも大行列
築地場外市場に活気が戻ってきたのは、水際対策が緩和された昨年秋。円安も追い風となり、訪日の機会を待ちわびていたリピーターを中心に、SNSで仕入れた情報などを基に、お目当ての店を次から次へと巡っていく。年末には「満員御礼」といった状況で、旧築地市場があったころと変わらないにぎわいが復活。場外市場関係者は一様に胸をなで下した。
例年は、旧築地市場、豊洲市場の初競りを終えてからしばらくすると、場外の人混みもいったん落ち着きを見せるのだが、今年はその傾向がまったく逆。観光客はむしろ少しずつ増え続け、4月に入ってからは場内が移転する前より、混み合う状況となっている。
山長のような古くからの人気店も、これまでになかったほどの盛況だ。もんぜき通りにあるホルモン丼が売りの「きつねや」、中華そばの名店「若葉」などは、市場関係者や周辺の会社員の利用がほとんどだったが、今ではインバウンドの姿が目立つ。これもSNSで口コミが広まった効果だろう。
波除通りのおにぎり店「丸豊」でも、朝早くから近隣の会社員に混じり、観光客が列を作り始め、30分待ちは当たり前。具がゴロっとした大きめのおにぎりは40種類以上で、1番人気は脂が乗った「鮭ハラス」。コンビニで定番のおにぎりは訪日客にもファンが多く、おにぎりは1日1000個、鉄火巻きなどの「のり巻き」も300本が売れるという。
高級魚介の刺し身をワンコインで
観光客をひきつけるのに一役買っているのが、少量の刺し身や海鮮のハーフ丼の提供。場外市場にある仲卸などの系列店は、本来はプロが商売相手だが、コロナ禍で料理店からの発注が激減したことで、以前よりも一般消費者に目を向けるようになった。最近のインバウンド人気にもあやかり、観光客が手軽に楽しめるサービスを始める店が増えているのだ。
毎日、クロマグロやノドグロ、キンメダイ、ウニ、毛ガニといった高級魚介を並べる「斉藤水産」は、すし店や料理店向けの「上もの鮮魚」を扱う、まさにプロ相手の店。最近は、店頭にドーンと一般向け魚介刺し小皿を何種類も並べており、店先でしょう油とわさびをちょっと付けて味わえるとあって、人垣が絶えない。
斉藤水産の社長は「せっかく日本へ来たのだから、国産のおいしい魚介を少しずつでも味わってもらいたい」と話す。1皿500円でクロマグロやマダイ、カンパチといった刺し身が味わえるサービス品もあり、外国人客がシェアしながら数種類をほおばっていた。
築地魚河岸では、ミニ海鮮丼が人気となっている。豊洲で目利きした魚を扱う「あえや」では、高級魚介を盛り付けたすしや刺し身の小皿を500円で販売するほか、週末などには高級ハーフ海鮮丼も提供。
クロマグロやウニ、マダイのほか、煮アナゴやコハダといった江戸前のネタも酢飯に乗せ、高級すし店顔負けのメニューとして日本人のリピーターも少なくないという。
フルーツも場外人気に一役、食べ歩きの町へ
築地場外市場の魅力は、海鮮ばかりではない。日本の果物は海外でも人気が急上昇。築地場外市場では年明け以降、旬を迎えたイチゴのパックを買い求める外国人の姿が目立った。「築地で果物?」と一瞬首をかしげたくなるが、旧築地市場も豊洲市場も青果部を併設していて、新鮮な野菜や果物も全国から集まる。
豊洲からイチゴを仕入れる「山庄商店」では4月中旬、佐賀県唐津産のブランドイチゴ「雪うさぎ」を一押ししていた。コンデンスミルクをかけたような白いイチゴは、程よい酸味で香りが高く、外国人客にも売れ行きは好調だ。この店でも、その場で食べられるように小分けのイチゴや切り分けたメロンを店頭に並べており、人気は上々という。
他にも、斉藤水産近くの西京漬けや練り製品の専門店「味の浜藤築地本店」では、店先で食べられる揚げかまぼこ(さつま揚げ)などが大人気。中でも、コーンがたっぷり入った「もろこし揚げ」が好評で、スマホを片手に撮影しながら味わう光景がよく見られる。精肉店「富士ハム商会」では、黒毛和牛をその場で焼いて提供。店員が「1日中、煙でモクモクだよ」と言うほど、次々とオーダーが入るそうだ。
以前はもっと「買い物」と「食事」の店が分かれており、店を巡って食材や土産物を探した後、すしや海鮮丼を食べるのが定番だった。それがコロナ禍を経て、「おいしいものを少しずつ」食べられる町へと変貌しつつある。刺し身や練り物をつまみ、おにぎりや海鮮丼でお腹を満たし、串玉やフルーツで締めれば、築地場外市場の魅力を堪能できるだろう。
過去最高のにぎわいを見せる中、NPO法人築地食のまちづくり協議会では「混雑する道路やごみの問題などについて、関係機関と対策を図り、観光客に安心して気持ちよく築地を楽しんでもらいたい」と話している。
写真:ニッポンドットコム編集部
バナー写真=斉藤水産の店頭に並ぶ刺し身の小皿やウニ、生ガキ