世界遺産・奈良「東大寺」:時代を超えた国宝、大仏さまと共に波乱の1300年を伝える大寺院
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8世紀に生まれた奈良のシンボル
奈良は京都よりも長い歴史を持つ古都。平城京が築かれた710(和銅3)年から始まる奈良時代は、朝鮮半島や大陸との交流を通じて日本文化が大きく花開いた時期である。平安京が完成した794(延暦13)年から政治の中心は京都に移り、今や平城京の遺構は地中に眠るが、同時期に創建した神社や寺は健在だ。1997年、8世紀の宗教や生活の様式が息づいている点が評価を受け、平城宮跡や社寺、原生林が「古都奈良の文化財」としてユネスコの世界文化遺産に登録されている。
構成資産の中で観光の目玉となるのが、奈良公園に隣接し、「大仏さま」が鎮座する東大寺だ。若草山の麓に広がる自然豊かな境内は、約34万平方メートルにも及ぶ。奈良時代は全国に置かれた国分寺の中心となり、その後「総国分寺」と呼ばれるように。平安時代には日本仏教の8宗派の教義を併せて学べる「八宗兼学」の学問寺として栄えた。現在は華厳宗(けごんしゅう)の大本山となっている。
4つの時代をまたいで形づくられた大仏さま
土産物屋が並び、鹿が遊ぶ表参道を進んだ先にあるのが、東大寺の中核をなす「大仏殿」。高さ48×幅57×奥行き50メートルの世界最大級の木造建造物だ。創建当初の幅はおよそ88メートルと、さらに巨大だった。堂内の大仏さまと共に、大仏殿も国宝に指定されている。
「奈良の大仏さま」として親しまれている本尊は、正式には「盧舎那仏(るしゃなぶつ)」または「毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)」という。サンスクリット語のヴァイローチャナの音訳で、陽光があまねく照らすように、仏の慈悲が限りなく広がる「光明遍照(こうみょうへんじょう)」を体現する存在。
高さ約15メートルもある世界最大の金銅仏で、通常は大仏殿の中に入り、下から仰ぎ見るようにしかその姿を拝むことができない。主に元日と、万燈供養会(まんとうくようえ)が開催されるお盆(8月13~15日)などに、大仏殿の観相窓を開き、参道から正面に大仏さまと向き合うことができる。
東大寺の前身は728(神亀5)年、聖武天皇が早世した皇子のために創建した山房(後の金鐘山寺=きんしょうさんじ)である。聖武天皇は743(天平15)年、相次ぐ災厄や政変から仏法の力で国を鎮護するため、大仏造立を発願。過去に類を見ない大事業だったが、民衆に支持されていた高僧・行基(ぎょうき)が全国から資金や資材、労働力などの力添えを募って貢献した。752(天平勝宝4)年に開眼供養で魂が込められ、この頃に大仏は完成する。同じ頃から東大寺と呼ばれるようになった。
その後大仏は2度にわたって被災している。平安末期の1180(治承4)年に平家の南都焼き討ちで上半身が焼け崩れ、4年後に僧・重源(ちょうげん)によって修復された。戦国時代の1567(永禄10)年には、再び兵火で大仏殿を含む伽藍(がらん)の多くが焼け落ちた。その後造られた仮堂も後に壊れ、焼失こそ免れて補修された大仏も長年風雨にさらされて傷んでいく。江戸時代の1684(貞享元)年にようやく修理が始まり、25年目の1709(宝永6)年に大仏殿も再建を果たす。
つまり、今に残る大仏は4つの時代にまたがって造られた珍しいもの。頭部は江戸時代、上半身は戦国時代、腰部は鎌倉時代に補鋳され、胸から台座にかけては造立当時(奈良時代)の姿を残す。よく見ると、胴体に比べて顔がきれいなことに気付くだろう。
運慶・快慶の傑作「金剛力士像」をいつでも拝める
1300年の歴史を持つ東大寺は、各時代の宗教心や文化、建築様式が残る場所でもある。鎌倉時代の東大寺復興の姿をよく伝えるのが、国宝に指定される正門「南大門(なんだいもん)」だ。
日本最大級の高さ25メートル、中国宋代(960~1279)の建築様式を取り入れた重層門で、門の左右では高さ8メートルを超える「金剛力士像」(国宝)が向かい合う。1203(建仁3)年に建造されてから800年以上、参拝者を出迎えてきた。
金剛力士像は「仁王像」ともいう。口を開いた阿形(あぎょう)、ぐっと口を結んだ吽形(うんぎょう)の2体一対でにらみを利かせ、境内を守る。
作者は運慶と快慶ら鎌倉期を代表する仏師。わずか69日間で完成させたと伝わるが、そうは思えないほど躍動的で、憤怒の表情や盛り上がった筋肉、大きく開いた分厚い手のひらなど迫力満点だ。最も有名な国宝仏の一つでありながら、参道にあるため24時間いつでも鑑賞できる。
古代から近世の国宝を巡り、1300年の時間旅行
東大寺現存最古の建物が、国宝の「法華堂(ほっけどう、別名・三月堂)」。毎年3月に法華会(ほっけえ)が営まれていたことからこう呼ばれ、日本で初めて華厳経が講義された場所ともいわれている。堂内には本尊の「不空羂索観音像(ふくうけんさくかんのんぞう)」をはじめ、奈良時代の国宝仏が並び、厳かな空間が広がる。
広い境内にはほかにも見どころが満載。大仏殿の西側にある「戒壇堂(※1)(かいだんどう)」には、奈良時代の塑像の「四天王像」(国宝)が安置されており、厳粛な雰囲気に包まれる。「十一面観音像」(重要文化財)など平安時代造立の仏像を安置する「四月堂」(重要文化財、別名・三昧堂=さんまいどう)、東大寺創建に尽力した初代別当・良弁僧正(ろうべんそうじょう)像を祀(まつ)る「開山堂」(国宝、12月16日のみ開扉)、室町時代の浴場「大湯屋」(重要文化財、内部非公開)などが点在する。
奈良時代に造られ、1669(寛文9)年に再建された「二月堂」(国宝)も見逃せない。3月上旬に春の到来を告げる「修二会(しゅにえ、通称・お水取り)」が有名だが、舞台からの眺望が素晴らしく絶好の撮影スポット。「講堂跡」や「東塔跡」など災厄によって遺構のみとなった一帯も、桜や紅葉など季節ごとに彩られ、初夏には生まれたての子鹿に出会えることも。
大仏さまを拝むとともに古代・中世・近世の文化財を巡り、自然に癒やされる東大寺。1日歩けば1300年の歴史に思いを巡らせられる貴重な空間である。
東大寺
- 住所:奈良県奈良市雑司町406-1
- 拝観時間:大仏殿 4月-10月=午前7時30分~午後5時30分、11月-3月=午前8時~午後5時、法華堂(三月堂)・戒壇院千手堂 午前8時30分~午後4時、東大寺ミュージアム 4月-10月=午前9時30分~午後5時30分、11月-3月=午前9時30分~午後5時(最終入館は閉館の30分前)
- 拝観料:大仏殿・法華堂・戒壇院千手堂・東大寺ミュージアム 各中学生以上=800円、小学生=400円
- アクセス:近鉄「奈良(奈良公園前)」駅から徒歩20分
取材・文・写真=EditZ
(※1) ^ 戒壇堂は保存修理のため2023年中は拝観停止。四天王像は東大寺ミュージアムにて展示