
「THE TOKYO TOILET」全17カ所が完成:斬新な発想力で公衆トイレのイメージ一新、渋谷の新名所に
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“透けるトイレ”で注目されたアートな公共トイレ
公衆トイレが持つ「4K(汚い・くさい・暗い・怖い)」のイメージを、革新的なデザインと自由な発想力で払拭(ふっしょく)することを目指し、渋谷区と日本財団が推進する「THE TOKYO TOILET」プロジェクト。
参加クリエイターは建築家の安藤忠雄氏や伊藤豊雄氏、隈(くま)研吾氏らに加え、アートディレクター・佐藤可士和氏やファッションプロデューサー・NIGO氏、プロダクトデザイナーのマーク・ニューソン氏など、世界で活躍する多彩なメンバーが集結。2020年8月から、完成したトイレを順次オープンしてきた。
2025年の大阪・関西万博の会場デザインプロデューサー・藤本壮介氏が担当した「西参道公衆トイレ」が3月24日に利用開始となり、計画していた17カ所の設置が全て完了した。
「器・泉(うつわ・いずみ)」をコンセプトとした西参道公衆トイレと建築家の藤本氏
同プロジェクトは第一弾の坂茂(ばん・しげる)氏の「透けるトイレ」がSNSで拡散され、いきなり世界中の注目を集めた。無人の時は丸見えだが、中に入って施錠するとガラスが不透明になる斬新な仕組み。“透ける”ことで、内部の清潔さや、不審者が隠れることができない安全性を担保してくれる。
その後も、21年8月に完成した「手をつかわないトイレ」(佐藤カズー/ Disruption Lab Team)が世界的なデザイン賞に輝くなど、たびたび話題を呼んだ。現在はTHE TOKYO TOILETを舞台とする映画が、日本を代表する俳優・役所広司主演、ドイツの鬼才ヴィム・ヴェンダース監督で製作中。23年中に公開予定で、こちらも期待がかかる。
月に1度の湿式清掃を実施する「はるのおがわコミュニティパーク」の透けるトイレ
世界三大デザイン賞「iF DESIGN AWARD 2022」でゴールドを受賞した「七号通り公園トイレ(Hi Toilet)」とクリエーティブディレクター・佐藤カズー氏
今後のメンテンナンスや活用が重要
17つのトイレを改めて眺めてみると、真っ白なトイレが多いのが印象的。藤本氏は「白は視認性が高く、清潔感もあるので、灰色が多い都会の中で輝いて見える」とし、「ただ、汚れが目立ちやすいので、普通なら公衆トイレには使いづらい。このプロジェクトはメンテナンスにも力を入れているので、クリエイター側の制約も少なく、自由な発想ができた」と語ってくれた。
THE TOKYO TOILETでは1日3回の通常清掃に加え、毎月のトイレ診断と専用の溶剤を使用した湿式清掃、年に1度は外壁や照明設備などのメンテナンスを実施する。徹底した維持管理プランによって、快適な空間を保つだけでなく、真っ白な壁や床、ガラスに囲まれたトイレ、天然木をふんだんに使った意匠など、難しい条件も実現させたのだ。
佐藤可士和氏の「恵比寿駅西口公衆トイレ」は、清潔と安心を重視して「WHITE」と名付けられた
杉材を採用した隈研吾氏(右)の「鍋島松濤公園トイレ(森のコミチ)」も、維持管理が難しい。左は日本財団の笹川理事
プロジェクトがスタートする際、日本財団の笹川順平理事が「この事業は、トイレの完成で(達成率は)50パーセント。これから、いかに利用してもらうかが重要だ」と述べていた。この先も清潔で美しい状態を保ってこそ、プロジェクトの真価が発揮される。
すでに、お気に入りのクリエイターのトイレを見るために、渋谷を訪れる建築ファンやアート好きが増えており、区でも観光資源にしようと動き出している。22年11月には渋谷区観光協会主催で「THE TOKYO TOILETのトイレをめぐるバスツアー」を開催。観賞するだけでなく、清掃風景を見学したり、交流会を楽しんだりと内容は盛りだくさんで、参加者の好評を受け、定期的な開催を計画している。
他には子ども向けのトイレ清掃体験会を実施し、公共施設の大切さを伝えるなど情報発信に力を入れる。今後も東京の文化拠点・渋谷から、性別や年齢、障害の有無を問わず、誰でもが快適に利用できるトイレを通して、多様性を尊重する社会の実現をアピールしていくという。
初開催のバスツアーは、安藤忠雄氏設計の「神宮通公園トイレ(あまやどり)」から出発した
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■マーク・ニューソン
「裏参道公衆トイレ」(千駄ヶ谷4-28-1 2023年1月20日オープン)
明治通り・北参道交差点近くの首都高速道路下に現れたのは、コンクリート製のシンプルなトイレ。神社仏閣のような銅板の屋根と石垣は、伝統的な和風建築を思わせる。手掛けたのはオーストラリア出身のマーク・ニューソン氏。ルイ・ヴィトンやApple Watchのデザインに携わるなど、現代を代表するプロダクトデザイナーだ。
内部は清潔感のある青みの強いグリーンで統一。銅屋根は長い年月をかけて「緑青(ろくしょう)」というさびに覆われ、色味が変化していく。内部のグリーンと調和していく過程を、たびたび訪れて確認したくなるトイレといえる。
近くで眺めると石垣が印象的。銅製の屋根は緩やかな曲線を描く、日本伝統の「蓑甲(みのこ)屋根」
緑を基調にした清潔感あふれる内部には、最新のトイレ設備がそろう
屋根に緑青が付着してくると内部の緑色と調和し、全体の印象も変わっていくだろう
■マイルス・ぺニントン/東京大学DLXデザインラボ
「幡ヶ谷公衆トイレ」(幡ヶ谷3-37-8 2023年2月22日オープン)
単なる公共トイレではなく、コミュニティースペースを目指したのが、東京大学生産技術研究所のマイルス・ペニントン教授が率いるチーム。「…With Toilet」をコンセプトに、待合所や展示スペース、ポップアップストアにも活用できる空間を創出した。
真っ白な壁面は、アート作品を展示したり、プロジェクターを投射したりすることを想定している。埋め込んである車止めポールを引き出し、座面となる木材を渡せば簡易ベンチが完成。31本のポールの組み合わせ次第で、講義形式にも車座形式にもベンチのレイアウトを変更できる。
人通りの多い中野通りと水道道路の交差点にある幡ヶ谷公衆トイレ
ベビーシートやフィッティングボード、オストメイト対応など、トイレ設備も充実
■小林純子
「笹塚緑道公衆トイレ」(笹塚1-29 2023年3月10日オープン)
さびだらけの外観は一見すると近寄りがたい雰囲気だが、車いすやバギーでもアプローチしやすいゆとりあるレイアウト。子ども用のトイレを親の目が届きやすいように手前側に設置し、採光用のガラス面も広くとるなど、安心して利用できる配慮があふれる。さすが250カ所以上の公共トイレの設計に携わり、日本トイレ協会会長を務める小林純子氏の作品だ。
高さの違う円筒を組み合わせたユニークな意匠で、見上げた時に高架のコンクリートではなく、大庇(ひさし)の明るい黄色が目に入るようにするなど、楽しさも演出。鋼板パネルはさびの風合いが年々変化していくので、こちらも度々訪れてみたくなる。
京王線の高架下にある笹塚緑道公衆トイレ。さびに覆われた外観はインパクト大
黄色の大庇を満月に見立てたのか、うさぎや三日月の模様がちりばめられている
入り口近くの背の低い2つの円筒は、子ども用の大小便器になっている
■藤本壮介
「西参道公衆トイレ」(代々木3-27-1 2023年3月24日オープン)
2025年大阪・関西万博のシンボル「大屋根(リング)」が話題となっている建築家・藤本壮介氏。“公衆トイレ=みんなで共有する水場”ととらえ、「器・泉」をコンセプトに都会のオアシスのような空間を生み出した。
前面の曲線部分にある手洗い場は、施設内の通路と歩道側の両方から利用可能で、6つの蛇口を異なる高さで設置。子どもや老人はもちろん、トイレを利用しない通行者にまで配慮したデザインだ。側面には“誰でもトイレ”が設置してあるなど、機能面も申し分ない。
遠くから眺めると、白い陶器のようなソリッドなデザイン。シンボルツリーのハイノキが、やさしい風合いを加えている
歩道側からも利用できる手洗い場。水はスロープをつたって、中央の排水溝に向かう
側面の誰でもトイレは、赤ちゃん連れやオストメイトの人にも対応
都会の中で浮き立つような真っ白な公衆トイレ。背後にはパークハイアット東京や都庁の高層ビルが見える
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部