アートな公共トイレが渋谷に増殖中「THE TOKYO TOILET」:児童向けの清掃体験も実施

暮らし デザイン 建築

“透けるトイレ”を発表し、2020年8月に世界中を驚かせた「THE TOKYO TOILET」プロジェクト。その後も渋谷区内の公園や道路沿いに、個性豊かな公衆トイレが続々と誕生している。清潔に保つためのメンテナンスも徹底しており、新たな観光名所としても注目される。

世界的クリエイターが手掛けたトイレ、13カ所が稼働中

「お掃除は大変だったけど、きれいになるとうれしい!」

東京・渋谷区の恵比寿公園で10月8日、デッキブラシや雑巾を手にした小学生と幼稚園児が声を弾ませた。子どもたちが清掃したコンクリート製の迷路のような建造物は、インテリアデザイナー・片山正通氏が設計した公衆トイレ。日本財団が渋谷区と連携して進める「THE TOKYO TOILET」プロジェクトによって誕生したものだ。

トイレ清掃を体験した子どもたち。片山正道氏はニューヨークやパリ、銀座のユニクロ基幹店のインテリアなどを手掛けた
トイレ清掃を体験した子どもたちと、2020年8月にオープンした恵比寿公園トイレ。片山正通氏はニューヨークやパリ、銀座のユニクロ基幹店のインテリアなどを手掛けた

同プロジェクトには安藤忠雄氏や隈(くま)研吾氏ら著名建築家、片山氏や佐藤可士和氏、NIGO氏など世界的に活躍するクリエイターが16人参加。公衆トイレが持つ「4K(汚い・くさい・暗い・怖い)」のイメージを、斬新なデザインと自由な発想力で払拭(ふっしょく)することを目指す。さらに性別や年齢、障害の有無を問わず、誰でも快適に利用できるように整備することで、ダイバーシティ社会の実現をアピールする狙いもある。

2020年8月、最初に供用された坂茂(ばん・しげる)氏設計のガラス張りのトイレが、SNSを通じて国内外で話題を呼んだ。現時点で全17カ所のうち、13カ所が完成し、一般利用されている。

関連記事>“透けるトイレ”で話題の「THE TOKYO TOILET」:快適な公共空間が、多様性を尊重する社会を育む

「代々木深町小公園」の“透けるトイレ”。施錠すると、一番右のように曇りガラスに変化する
「代々木深町小公園」の“透けるトイレ”。施錠すると、一番右のように曇りガラスに変化する

隈研吾氏の代名詞ともいえる木材を生かしたデザインは、鍋島松涛公園の緑と見事に調和している
隈研吾氏の代名詞ともいえる木材を生かしたデザインは、鍋島松涛公園の緑と見事に調和(2021年6月完成)

清掃活動を含むプロジェクト全体をデザイン

スタイリッシュなトイレも、汚い、臭いでは台無し。同プロジェクトは、維持管理にも力を入れる。1日3回の通常清掃に加え、毎月トイレ診断士が状態を確認し、特別な溶剤を使用した清掃も実施。さらに年に一度は外壁や照明設備、換気扇まで徹底的にメンテナンスする。清掃員のユニホームはNIGO氏デザインのつなぎで、トイレ掃除のイメージアップに一役買う。

子ども向けの清掃体験会も、維持管理活動の一環として開催。トイレ清掃を通じて、公共施設の大切さを知り、社会の一員として自覚を持ってもらうのが狙いだ。講師を務めた株式会社アメニティの山戸伸孝(やまと・のぶたか)代表は、「子どもたちと話すと、家庭や学校でもトイレ清掃の大切さをしっかり教えてくれていると分かった。今日学んだことも持ち帰り、友だちに伝えてほしい」という。

洗剤の種類や効果の違いについて、実演を交えて解説する山戸さん
洗剤の種類や効果の違いなど、実演を交えて解説するトイレ診断士の山戸さん

子どもたちは自分から率先してデッキブラシをかけていた
力強くデッキブラシをかける子どもたち

建築ファンやアート好きの間では、THE TOKYO TOILET巡りが静かなブームになっている。トイレがきれいな飲食店ははやるというが、トイレ自体を観光資源にする町は世界的にもユニークだろう。山戸氏も「きれいな公衆トイレは、町全体のイメージアップにつながる。夜もにぎわう渋谷では、汚されていることも少なくないが、これからも徹底的にメンテナンスしていきたい」と力強く語ってくれた。

佐藤カズー氏を中心とするチームが手掛けた「七号通り公園トイレ(Hi Toilet)」は、世界三大デザイン賞「iF DESIGN AWARD 2022」でゴールドに輝き、『ベルリン天使の詩』などで知られるドイツ出身のヴィム・ヴェンダース監督が、THE TOKYO TOILETを舞台に映画を製作中。今や世界が注目するTHE TOKYO TOILETのうち、21年から22年10月までに完成した6カ所を紹介していく。

恵比寿駅西口に出現した巨大な白い物体は、佐藤可士和氏が手掛けた公衆トイレ(2021年7月オープン)。駅の目の前なので利用客が多く、清潔に保つのは大変な労力だという
恵比寿駅西口に出現した巨大な白い物体は、佐藤可士和氏が手掛けた公衆トイレ(2021年7月完成)。利用客が多く、清潔に保つのは大変な労力だという

手を触れずに操作できるボイスコマンド式を採用し、ドイツの「iF DESIGN AWARD」で最高賞を獲得した「七号通り公園トイレ」(2021年8月オープン)
非接触が求められる時代にふさわしいボイスコマンド式を採用した「七号通り公園トイレ」(2021年8月完成)

■NIGO

「神宮前公衆トイレ」(神宮前1-3)

原宿から世界に羽ばたいたファッションデザイナーで、現在はKENZOのアーティスティック・ディレクターを務めるNIGO氏。自身のベースといえる神宮前で手掛けたトイレのコンセプトは、すばり「温故知新」。戦後の東京でいち早く米国文化が浸透した原宿にふさわしく、懐かしさと新しさが共存する米軍ハウス風に仕上げている。

ビル群の中に取り残された一軒家風の公衆トイレは、逆に新鮮さを感じさせる
大都会に取り残された一軒家風(2021年5月完成)

かつて代々木にあったワシントンハイツを想起させる、かわいらしい外観
かつて代々木にあったワシントンハイツを想起させるレトロな外観 

トイレ内部はもちろん最新式。温水洗浄便座やオストメイト、ベビーチェアなどを完備
温水洗浄便座やオストメイト対応、ベビーチェアなどを完備する

■隈研吾

「鍋島松濤公園トイレ」松濤2-10-7

木のぬくもりを持つ国立競技場を生み出した隈研吾氏が、ここでも木材をふんだんに使用。元々は紀州徳川家の下屋敷だった歴史ある公園に調和しつつも、圧倒的な存在感を放つ。杉材に覆われた5つの小屋を「森のコミチ」と名付けた遊歩道で結び、風通しを確保した上で、子どもたちの遊び場にもなる。

「トイレの村」を「森のコミチ」で結んだという鍋島松濤公園トイレ。幅や長さの違う杉材を無造作に並べたようで、実は計算し尽くした意匠だという
幅や長さの違う杉材を無造作に並べたようで、実は計算し尽くした意匠だという

通り抜けられるように森のコミチを配置することで、風通しと安全性を確保している
風通しと安全性を確保する森のコミチ

森の中に隠されていいるようなトイレは、内部も木材で飾り付けられている
個室内部まで森のよう

■伊東豊雄

「代々木八幡公衆トイレ」(代々木 5-1-2)

建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を獲得した伊東豊雄氏は、代々木八幡宮の森に3本のキノコを出現させた。丸いタイル張りの外壁はグラデーションが美しく、背後に広がる緑と見事に調和する。3つの個室型トイレを分散して配置し、全棟にベビーチェアを備えるなど機能性も併せ持つ。

「Three Mushrooms」がコンセプトの代々木八幡公衆トイレは2021年7月にオープン
森に出現した「Three Mushrooms」がコンセプトの代々木八幡公衆トイレ(2021年7月完成)

照明がともる夜間は、丸い屋根部分が浮かんでいるように見える
照明がともる夜間は、丸い屋根部分が浮かんでいるように見える

個室内は広々した空間で、車いすでも利用しやすくなっている
個室内は広々として、車いすでも利用しやすい

■佐藤可士和

「恵比寿駅西口公衆トイレ」(恵比寿南1-5-8)

ユニクロや楽天グループなどのブランド戦略を担う、日本を代表するアートディレクター・佐藤可士和氏は、恵比寿駅前のトイレを真っ白な四角形に。究極のシンプルで人の心を引き付けるのが、可士和デザインの真骨頂だ。

えびす像と恵比寿駅西口公衆トイレ。シンプルながら人目を引くデザインはさすがの一言
えびす像が見守る恵比寿駅西口公衆トイレ

キューブ型のトイレ部分をアルミ・ルーバーで囲み、正面から見ると何のための建造物か分からない
キューブ型のトイレ部分をアルミ・ルーバーで囲んでおり、一見してトイレとは分からない

往来の多い駅前のため、人目が気にならないようにと入り口を裏側に配置。ルーバーから光が差し込むため、通路は明るく安心して利用できる
往来の多い駅前のため、入り口を裏側に配置。光が差すルーバーで、通路の明るさを確保

視認性が高い上に、やわらかい印象を与えるようにした心がけたピクトサイン。清掃員はNIGO氏デザインのつなぎを着用する
視認性が高く、やわらかな印象を与える可士和氏考案のピクトサインは、プロジェクトの全トイレで使用する。清掃員はNIGO氏デザインのつなぎを着用

■佐藤カズー/ Disruption Lab Team

七号通り公園トイレ(幡ヶ谷2-53-5)

数多くの広告賞を受賞し、TBWA HAKUHODOのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めていた佐藤カズー氏は、非接触式トイレに挑戦。公衆トイレではドアノブなどに直接触れたくない人や、レバーを足で踏む場合も多いのが理由だ。道路側からは丸い球体に見えるデザインも評価が高い。

遠目には白い球体に見えるデザインが秀逸な七号通り公園トイレ
白い球体のような七号通り公園トイレ

トイレの入り口側から見ると、マッシュルームを半分に切ったような形状
トイレ入り口側から見るとマッシュルームを半分に切ったような形状

入り口のQRコードを読み取れば、ボイスコマンドが作動。手を一切使わずに、ドアの開閉や便座の操作ができるようになる
入り口のQRコードを読み取ると、ボイスコマンドが作動。手を使わずにドアの開閉や便座の操作ができる

■後智仁

広尾東公園トイレ(広尾 4-2-27)

ユニクロのサスティナビリティ部門担当クリエイティブディレクターなどを務める後智仁氏。石碑のようなソリッドなデザインのトイレは、昔から公園内にたたずんでいたよう。背面の照明パネルは、79億通りものパターンを映し出す。

広尾東公園トイレは2022年7月にオープン。すでに公園の風景に溶け込んでいる
風景に溶け込む広尾東公園トイレは2022年7月にオープン

シンプルで使いやすいのは一目瞭然。オストメイトやベビーチェア、おむつ交換台なども備えている
シンプルで使いやすいことを追求。オストメイト対応やベビーチェア、おむつ交換台などを完備

“同じライティングパターンを、2度見ることは不可能”という背面の照明パネル。夜に眺めると、より幻想的だ
夜は一段と幻想的になる背面の照明パネルは、“同じパターンを2度見ることは不可能”という。周囲の植栽にもこだわった

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:子どもたちが駆け回っていた鍋島松濤公園トイレ

観光 東京 公共事業 渋谷 トイレ 建築 デザイン ダイバーシティ 多様性 渋谷区 建築家