アートな公共トイレが渋谷に増殖中「THE TOKYO TOILET」:児童向けの清掃体験も実施
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世界的クリエイターが手掛けたトイレ、13カ所が稼働中
「お掃除は大変だったけど、きれいになるとうれしい!」
東京・渋谷区の恵比寿公園で10月8日、デッキブラシや雑巾を手にした小学生と幼稚園児が声を弾ませた。子どもたちが清掃したコンクリート製の迷路のような建造物は、インテリアデザイナー・片山正通氏が設計した公衆トイレ。日本財団が渋谷区と連携して進める「THE TOKYO TOILET」プロジェクトによって誕生したものだ。
同プロジェクトには安藤忠雄氏や隈(くま)研吾氏ら著名建築家、片山氏や佐藤可士和氏、NIGO氏など世界的に活躍するクリエイターが16人参加。公衆トイレが持つ「4K(汚い・くさい・暗い・怖い)」のイメージを、斬新なデザインと自由な発想力で払拭(ふっしょく)することを目指す。さらに性別や年齢、障害の有無を問わず、誰でも快適に利用できるように整備することで、ダイバーシティ社会の実現をアピールする狙いもある。
2020年8月、最初に供用された坂茂(ばん・しげる)氏設計のガラス張りのトイレが、SNSを通じて国内外で話題を呼んだ。現時点で全17カ所のうち、13カ所が完成し、一般利用されている。
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清掃活動を含むプロジェクト全体をデザイン
スタイリッシュなトイレも、汚い、臭いでは台無し。同プロジェクトは、維持管理にも力を入れる。1日3回の通常清掃に加え、毎月トイレ診断士が状態を確認し、特別な溶剤を使用した清掃も実施。さらに年に一度は外壁や照明設備、換気扇まで徹底的にメンテナンスする。清掃員のユニホームはNIGO氏デザインのつなぎで、トイレ掃除のイメージアップに一役買う。
子ども向けの清掃体験会も、維持管理活動の一環として開催。トイレ清掃を通じて、公共施設の大切さを知り、社会の一員として自覚を持ってもらうのが狙いだ。講師を務めた株式会社アメニティの山戸伸孝(やまと・のぶたか)代表は、「子どもたちと話すと、家庭や学校でもトイレ清掃の大切さをしっかり教えてくれていると分かった。今日学んだことも持ち帰り、友だちに伝えてほしい」という。
建築ファンやアート好きの間では、THE TOKYO TOILET巡りが静かなブームになっている。トイレがきれいな飲食店ははやるというが、トイレ自体を観光資源にする町は世界的にもユニークだろう。山戸氏も「きれいな公衆トイレは、町全体のイメージアップにつながる。夜もにぎわう渋谷では、汚されていることも少なくないが、これからも徹底的にメンテナンスしていきたい」と力強く語ってくれた。
佐藤カズー氏を中心とするチームが手掛けた「七号通り公園トイレ(Hi Toilet)」は、世界三大デザイン賞「iF DESIGN AWARD 2022」でゴールドに輝き、『ベルリン天使の詩』などで知られるドイツ出身のヴィム・ヴェンダース監督が、THE TOKYO TOILETを舞台に映画を製作中。今や世界が注目するTHE TOKYO TOILETのうち、21年から22年10月までに完成した6カ所を紹介していく。
■NIGO
「神宮前公衆トイレ」(神宮前1-3)
原宿から世界に羽ばたいたファッションデザイナーで、現在はKENZOのアーティスティック・ディレクターを務めるNIGO氏。自身のベースといえる神宮前で手掛けたトイレのコンセプトは、すばり「温故知新」。戦後の東京でいち早く米国文化が浸透した原宿にふさわしく、懐かしさと新しさが共存する米軍ハウス風に仕上げている。
■隈研吾
「鍋島松濤公園トイレ」松濤2-10-7
木のぬくもりを持つ国立競技場を生み出した隈研吾氏が、ここでも木材をふんだんに使用。元々は紀州徳川家の下屋敷だった歴史ある公園に調和しつつも、圧倒的な存在感を放つ。杉材に覆われた5つの小屋を「森のコミチ」と名付けた遊歩道で結び、風通しを確保した上で、子どもたちの遊び場にもなる。
■伊東豊雄
「代々木八幡公衆トイレ」(代々木 5-1-2)
建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を獲得した伊東豊雄氏は、代々木八幡宮の森に3本のキノコを出現させた。丸いタイル張りの外壁はグラデーションが美しく、背後に広がる緑と見事に調和する。3つの個室型トイレを分散して配置し、全棟にベビーチェアを備えるなど機能性も併せ持つ。
■佐藤可士和
「恵比寿駅西口公衆トイレ」(恵比寿南1-5-8)
ユニクロや楽天グループなどのブランド戦略を担う、日本を代表するアートディレクター・佐藤可士和氏は、恵比寿駅前のトイレを真っ白な四角形に。究極のシンプルで人の心を引き付けるのが、可士和デザインの真骨頂だ。
■佐藤カズー/ Disruption Lab Team
七号通り公園トイレ(幡ヶ谷2-53-5)
数多くの広告賞を受賞し、TBWA HAKUHODOのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めていた佐藤カズー氏は、非接触式トイレに挑戦。公衆トイレではドアノブなどに直接触れたくない人や、レバーを足で踏む場合も多いのが理由だ。道路側からは丸い球体に見えるデザインも評価が高い。
■後智仁
広尾東公園トイレ(広尾 4-2-27)
ユニクロのサスティナビリティ部門担当クリエイティブディレクターなどを務める後智仁氏。石碑のようなソリッドなデザインのトイレは、昔から公園内にたたずんでいたよう。背面の照明パネルは、79億通りものパターンを映し出す。
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:子どもたちが駆け回っていた鍋島松濤公園トイレ